「電気料金」「異次元緩和」「消費増税」 ~ コスト・プッシュ・インフレを起こすための「3本の矢」

◆「原因」と「結果」を逆に報じる日本を代表する経済紙
このチャートをみて、「実質金利低下」が「円安」の要因であると思う人がどれほどいるのでしょうか。

実質金利低下で円安に?
(4月4日付日本経済新聞「実質金利低下で円安に」より転載)

「2%の物価目標達成へ『何でもやる』という日銀の黒田東彦総裁の強い緩和姿勢は1ドル=100円台の円安定着に貢献した」(4日付日本経済新聞 「実質金利低下で円安に」)

4日付の日本経済新聞は、「実質金利低下で円安に」という見出しで「日銀の黒田東彦総裁の強い緩和姿勢は1ドル=100円台の円安定着に貢献した」と、日銀の「異次元金融緩和」の成果を強調する提灯記事を掲載しています。

この記事の主張を裏付ける資料として掲載されたチャートをみると、「実質金利」が上昇するなかで円相場は大きく「円安」に振れて来ており、とても「実質金利低下」が「円安の原因」であったとは言えない状況にあります。

日本経済新聞が掲載したチャートを素直に見れば、実際には「円安」によって「実質金利が低下」していったことがよく分かると思います。つまり、「円安」が「原因」であり、「実質金利の低下」はその「結果」でしかないということです。日本を代表する経済紙は、なぜ「原因」と「結果」を入れ替えて報じるのでしょうか。

百歩譲って、「円安定着に貢献した」という程度までの誇張は許容範囲かもしれませんが、実際には副作用を生んでいるに過ぎない黒田日銀の「異次元金融緩和」を、「原因」と「結果」を逆にしてまで成果があるが如く強調するというところに「大人の事情」を感じずにはいられません。

日本を代表する経済紙もさすがに「原因」と「結果」の差し替えていることに、多少の後ろめたさを感じたのか、見出しでは「実質金利低下で円安に」と謳ったにもかかわらず、チャートの題名は「実質金利の低下と円安が進んだ」と、トーンダウンさせたものにしています。

◆ コスト・プッシュを起こすための「3本の矢」
「『量的・質的金融緩和の最も重要なルートは実質金利の引き下げだ』。黒田総裁は名目金利から物価の影響を除いた実質金利の引き下げが異次元緩和の狙いだったと繰り返し強調する」(同 日本経済新聞)

日本の名目金利はほぼ0%で低下余地はありませんから、「実質金利」を引下げるためには物価を上昇させる必要があるということになります。

物価上昇が起きるルートとしては、需要が物価を押し上げる「ディマンド・プル・インフレ」と、コスト高が物価を押し上げる「コスト・プッシュ・インフレ」の2つがあります。

しかし、日本は2008年7~9月期から、22四半期連続で「需給ギャップ」がマイナスという、「需要不足経済」に陥っており、アベノミクスでマイナス幅が縮小して来たといえ、2013年10~12月期も約8兆円の「需要不足」となっています。ですから、需要が物価を押し上げる「ディマンド・プル・インフレ」を起こすことは容易なことではありません。

つまり、「実質金利」を低下させるために物価を上昇させるには、「コスト・プッシュ・インフレ」を起こすしかない(容易だ)ということです。「異次元金融緩和」前から、福島原発事故の影響で電気代は上昇して来ていましたし、貿易収支も赤字に転落して来ていましたから、金融政策でさらなる「円安」を後押しさえすれば、「コスト・プッシュ・インフレ」を起こすことは、それほど難しいことではありません。電気などのエネルギー費用は、法人、個人に関係なく国民全体に負担を強い、「コスト・プッシュ」を引き起すものですから。

電気料金上昇だけでも「コスト・プッシュ・インフレ」を起こす要因になりますが、それだけだと企業努力によって価格に転嫁されない可能性があります。それを防ぐために、政府・日銀は、「異次元金融緩和」による「円安」、さらには「消費増税」と、「コスト・プッシュを図る3本の矢」を矢継ぎ早に放ち、企業努力によってコストを吸収できない状況を作り出したのかもしれません。

ご丁寧に、「消費増税Gメン」まで動員して価格転嫁を迫り、「コスト・プッシュ・インフレ」を実現させ、それによって得られた「実質金利の低下」という結果に、何か政策的な価値があるのでしょうか。甚だ疑問です。

黒田総裁が、「日本経済の質」に関係なく、新興宗教の教祖のように「2%の物価上昇を達成するまで異次元の金融緩和を続ける」と唱え続けるのは、日銀はFRBと違い、「雇用」に対する責任は負っておらず、単に「2%の物価上昇」という責務だけを負っているからです。極論すれば、黒田総裁は「コスト・プッシュ・インフレ」さえ起こせば大成功で、それによって日本経済がどうなるかなど関係ない立場にあるのです。

重要なことは、黒田日銀総裁は、国民とセイムボート(same boat:運命共同体)に乗っていないということを認識することです。

◆ 海外企業のM&Aは「実質金利低下」の「結果」でも、「経済の好循環」を生む「原因」でもない
「実質マイナス金利ではお金を借りて投資した方が有利。企業の投資を引出す効果がある」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙はこのように指摘し、その実例として「実際、1月にサントリーホールディングスが米蒸留酒最大手ビーム社を約1.6兆円で買収すると発表。…(中略)… 大型投資が相次いだ」ことを紹介しています。

サントリーHDはビーム社買収の必要資金約1兆6000億円のうち、6000億円は手元資金、残りの1兆円は外部からの借入で調達する計画であることが報じられていますから、「企業の投資を引出す効果」があったと言えるかもしれません。

しかし、このサントリー買収資金は、当然ながらビーム社の株主に支払われることになります。そして、ビーム社を買収したことによって得られる利益はサントリーHDの株主のものになります。つまり、こうした日本企業による海外企業M&Aという投資が行われても、日本国内で「企業収益の改善をきっかけに設備投資が拡大し、賃金の上昇によって個人消費が拡大する経済の好循環」には繋がり難いということです。

さらに、ビーム社のようにビジネスフィールドが海外である会社の買収価値を計る基準は、海外での売上であり利益ですから、日本の物価上昇率を考慮した「実質金利」とはほとんど無関係といっても過言ではありません。関係してくるのは買収資金の調達通貨である円の「名目金利」であり、日本国内の物価上昇率を除いた「実質金利」ではありません。

経済の好循環を生むためには、資金が国内での投資が行われる必要があるのです。国内で投資が行われるのでなければ、「コスト・プッシュ・インフレ」による「実質金利の低下」など、多くの国民にとって迷惑千万な無用の長物でしかありません。

個人的には「大胆な金融緩和」による「円高阻止」は、打ち出された時点では副作用を伴っても必要性の高い政策(必要悪)だったと考えています。しかし、20%も円安が進み、「悪いインフレ」が進んだ今でも、「2%の物価上昇」を達成するために「円安」を推し進めようとするのは、狂気の沙汰だと思っています。

「量的、質的緩和を続ける」と言い続ける日銀総裁。その政策は、もはや国民にとって「猟奇的、国民生活の質を貶める異次元の政策」の領域に達して来ているように思えてなりません。安倍総理と黒田日銀総裁には、「2%の物価目標達成に、何でもやればいい」というものではないことに、一日も早く気付いて頂きたいものです。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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