アベノミクス最後の砦を守るために日経が動員をはかる「NISA」と「GPIF」

「個人が1年間に100万円の範囲で株式や投資信託を購入した場合、売却益や配当が非課税になる少額投資非課税制度(NISA)が1月から始まっている。3月末までに600万強の口座が開設されたもようだ。個人は投資のリスクを避ける傾向が強いとされていたことを考えれば、かなりの速さで広まっているといえるのではないか。これを一過性にせず、個人の資産形成に役立つ制度として定着をはかっていきたい」(7日付日本経済新聞社説 「NISAを普及させるには」)

制度が始まって4か月目、日本を代表する経済紙は「3月末までに600万強の口座が開設されたもようだ」という推測を材料に、やや唐突なタイミングでNISAに関する社説を掲載しました。

掲載されるタイミングもさることながら、一報道機関に過ぎない日本経済新聞が「定着をはかっていきたい」という書き方に違和感を覚えます。「定着をはかっていきたい」と「政府が考えている」、あるいは「証券業界が考えている」というのであれば当然だと思いますが、報道機関が「定着をはかっていきたい」という一人称の表現を使うのは、この新聞が自らがNISAの利害関係者であること、そして自分達が金融市場を動かしているかのような傲慢な妄想を持っていることを露呈したもののように思えてなりません。

株価が上昇し、多くの個人投資家が株式投資に参戦してくれば、とりあえずは「日本を代表する経済紙」という印象を持たれている日本経済新聞の部数は伸びますし、証券会社などから投信販売やセミナーの案内などの広告収入が増えますから、「定着をはかっていきたい」というのは、思わず本音が出たということなのでしょう。一般投資家が肝に銘じておかなければならないことは、日本を代表する経済紙は、一般投資家ではなく、証券会社や上場会社と「same boat」に乗っている(運命共同体である)ということです。

四半世紀資産運用業務に携わって来て感じることは、最近のNISAに象徴されるように、資産運用に関する話が、常に、株式や投資信託を販売する業者の宣伝の如く、「株式や投資信託の購入」を「目的」としたものに捻じ曲げられてしまうことです。

日本経済新聞のこの社説では、NISAを「個人の資産形成に役立つ制度」だと決めつけたうえで、「金融機関は口座開設を勧めるだけでなく、セミナー開催などの機会を増やすなどして、若い世代に投資への理解を広げる努力を続けていってほしい」と主張しています。

ここでいう「投資への理解」というのは、「株式や投資信託の購入」に馴染むことを指しているのでしょうか。この社説では、「株式や投資信託の購入」に馴染むことが、「資産形成に役立つ」という根拠は何も示されていません。

今や年金制度は不安の元凶になりつつありますが、以前は、老後の「資産形成」の主役は、一定の給付を受けられる「確定給付年金」でした。しかし、1990年からのバブルの崩壊に伴い、多くの企業年金では制度の維持が難しくなり、401Kプランなど掛け金を一定のとし給付は結果次第という「確定拠出年金」に変って行きました。運用で、安定的な収益を確保することが出来なくなったからです。

証券業界で、いち早く「確定給付年金」制度に見切りをつけ「確定拠出年金」へと移行したのは、大手証券会社でした。大手が抜け出し中小証券会社だけが参加する形になった基金の資金規模は急減し、基金を維持して行くことが困難になりましたので、業界全体として401Kという「確定拠出年金」に移って行くことになりました。

もし、「株式や投資信託を購入」することが「資産形成に役立つ」のであれば、何故、大手証券会社はいち早く「確定給付年金」から脱出したのでしょうか。証券業界の年金基金の運用を主に担っていたのは、当然の如く、大手証券会社系の運用会社でした。つまり、「株式や投資信託を購入」するだけでは、「資産形成」が難しいからです。業として「株式や投資信託を購入」して来た証券会社が、「資産形成に役立つ」ことは難しく、自らの将来の年金資金運用を託すことが出来ないと判断して止めた「株式や投資信託の購入」による「資産形成」を、今になって個人投資家に勧めるという神経は、なかなか納得がいかないものです。

日本を代表する経済紙は、「金融機関は口座開設を勧めるだけでなく、セミナー開催などの機会を増やすなどして、若い世代に投資への理解を広げる努力を続けていってほしい」と主張しています。しかし、「株式や投資信託を購入」を「資産形成に役立つ」ように出来なかったどころか、いち早く諦めた業界の人達が、どのようにして「若い世代に投資への理解を広げる」ことが出来るというのでしょうか。

2012年までの株価下落によって、厚生年金基金制度は維持できなくなり、多くの企業年金も「確定拠出年金」などに移行を強いられて来たのはご存知の通りです。忘れてならないことは、こうした年金基金の資産運用を委託されていたのは、大手の信託銀行と生命保険会社、さらには国内外の投資顧問会社だったということです。こうした運用会社の、所謂ファンドマネージャーと言われる人達は、24時間、365日、経済や金融市場を分析し、それに基づいて投資をして来たプロの投資家です(建前上ですが)。

こうしたプロの投資家でも、「株式や投資信託を購入」することで「資産形成」をすることが出来なかったからこそ、日本の年金制度は崩壊の危機に直面しているのです。こうした現実を無視して、「資産形成に失敗」し、年金制度の崩壊の危機を招いた金融機関の人達に、「セミナー開催など」で「若い世代に投資への理解を広げる努力」を求めるというのは笑い話にもなりません。

プロの投資家が失敗したやり方を、アマの投資家に繰り返させることで、NISAを「定着させる」という主張には、大きな抵抗を感じます。

「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、日銀の追加緩和に合せて、運用改革を発表するという観測が出ている。市場では日銀が追加緩和を決めるのは、7~9月との見方が多い。同じ時期にGPIFが国債比率を下げ、株式比率を上げる資産配分の見直しを発表すれば、緩和効果が高まるからだ」(7日付日本経済新聞 「風速計~追加緩和、年金運用改革とセット?」)

日本の年金が不幸であったのは、こうした記事に見られるように、常にその資金が「株価を押し上げる道具」として使われて来たことです。政府が120兆円という巨額の公的年金資金を運用していることに対して批判も上がる中、政府が公的年金の運用を続けるのは、政権の意向を受けて市場介入資金として利用出来ることも一つの大きな要素だと思います。

今回も、既に消費期限切れを迎えたアベノミクスの効果が継続しているようにお化粧するために、公的年金の資金が使われようとしています。

嘆かわしいことは、日本を代表する経済紙が、「株価が上昇すれば、年末に消費増税の引上げを判断する官邸や財務省には好都合だ。最も政府が6月に発表する成長戦略にGPIFの資産配分見直しを盛り込む意見もある。GPIFや厚労省は『株価を押し上げる道具ではない』と口をそろえるが、発表時期一つとっても風圧は日増しに強まっている」と、公的年金資金をアベノミクス効果のお化粧に利用することを推奨していることです。

制度が始まってから3ヶ月経ったこのタイミングで、NISAを「定着をはかっていかなければならない」という社説をけいさいしたのは、4月からの消費増税による経済の落ち込みが、想定以上になる可能性を感じて来たからかもしれません。景気が回復していると言い訳するための唯一の材料が「堅調な株価」になりつつなるなか、どうしても株価だけは維持しなければならないという焦りがあるのかもしれません。

ともかくも、一般投資家が「株式や投資信託を購入」することで「資産形成」を目指す際に最も重要なことは、政府や証券業界などと「same boat」に乗っている新聞の主張を鵜呑みにしてはいけないということのようです。

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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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