貯蓄から投資へ ~ 日本を代表する経済紙が示した「本質的な問題提議」と、「本質からかけ離れた解」

「少額投資非課税制度(NISA)が1月に導入された。『貯蓄から投資へ』の掛け声のもと、金融機関や資産運用会社は投資家の呼び込みに余念がない。…(中略)… しかし、なぜ『貯蓄から投資へ』が必要なのかの議論は不十分だ。証券会社、資産運用会社が稼ぐためかと勘繰る向きや『バクチには興味がない』と退ける人も多かった」(7日付日本経済新聞 「時事解析~『貯蓄から投資』進むか」)

「何故『貯蓄から投資へ』が必要なのかの議論は不十分だ」というご指摘はご尤もだと思います。

この命題に対して、この記事では2つの解を示しています。

「日本では90年ごろまでは欧米先進国に追いつき、追い越すことが経済政策の主目的だった。モデルがある時代には間接金融、つまり銀行からの借入金で効率的に成功例を踏襲すればよかった。しかし、今や企業は生き残りを賭けて新事業分野に挑まなければならない。銀行融資のような負債性の資金ではなく、返済不要の資本性の資金が不可欠だ。勢い約1600兆円の金融資産を持つ家計への期待が高まる」(同)

この記事が示した一つ目の解は、「企業は新規事業に挑まなければならないために、返済不要の資本性の資金が不可欠だ」。そして、それを担えるのは「約1600兆円の金融資産を持つ家計」だという論理です。

こうした教科書的には尤もらしくみえる論理は合理的なものなのでしょうか。筆者は必ずしもそうは言えないと感じています。

確かに「資金循環統計(2013年12月末)」によると、個人金融資産は1600兆円強で、その内のほぼ半分の800兆円強は預金で占められていますから、統計上、個人金融資産に「資本性の資金」を出す余裕は十分にあるかもしれません。

しかし、忘れてはいけないことは、「民間非金融法人企業」は「現金・預金」も220兆円強あるということです。つまり、企業が「新規事業に挑む」のに必要な資金に困っているわけではありません。

では、「民間非金融法人企業」が「新規事業に挑む」のに、220兆円では足りないのでしょうか。

個人金融資産の1%でも株式投資に向けられれば…、GPIFが株式の資産配分を1%増やせば…。証券界や資産運用業界では、こうした「たられば論」「とらぬ狸話し」は、もう20年近く語り続けられて来ています。つまり、金融業界は、企業が「新規事業に挑む」ために必要な資金は、10~20兆円程度だと考えているということです。

「民間非金融法人企業」が保有する220兆円という「現金・預金」の規模は、個人金融資産の14%近いものですから、「新規事業に挑む」ための資金を企業は十分過ぎるほど持っていると言えます。

また、この記事で気になるところは、「返済不要の資本性の資金が不可欠だ」という表現を使っているところです。こうした表現は、「資本性の資金」のコストは0、つまり、「ただの資金」だという誤った認識を読者に植え付けかねない危険な表現です。たしかに、「資本性の資金」は、名目上の金利がありませんが、要求されるリターンは借入金の数倍も高いのが「金融の常識」です。詳しい説明は省略しますが、日本を代表する経済紙が、「資本性の資金」を取入れるということは、その企業の「資本コスト」を上昇させるものであるという「金融の常識」を無視したような記述の仕方を平気ですることには疑問を感じます。

日本を代表する経済紙が示す2つ目の解は次のようなものです。

「第二に『将来の社会保障負担を軽くするには、個人の自助努力での資産形成を促す必要がある』。少子高齢化の進展で手厚い年金を国が用意できる時代が終わりつつあることが背景にある」

つまり、「手厚い年金」を国が用意できなくなったから自助努力で「貯蓄から投資へ」向かえということのようですが、これは無茶苦茶な論理です。

では、なぜ、国は「手厚い年金」を用意できなくなったのでしょうか。これまで公的年金も、企業年金も、株式などに投資して来ました。しかし、それが仇になり、厚生年金基金制度は廃止に向かい、多くの企業年金も確定給付型を放棄し、公的年金制度も破綻の危機に瀕しているというのが現実です。

日本を代表する経済紙の主張は、お金に色があって、一般個人が「自助努力」で「資産形成」を目指し、企業に「資本性資金」を提供するのと、年金資金が「資本性資金」を提供するのとで、「生き残りを賭けた新規事業」の成果に差が出て来るといっているのと同義です。

「何故『貯蓄から投資へ』が必要なのかの議論は不十分だ」

この問題提議は本質をついた素晴らしいものだったと思います。しかし、この素晴らしい本質的な問題提議に示された解は、本質からかけ離れたものだったことは残念でなりません。

日本を代表する経済紙が、こうした本質的な問題に対して、何一つ論理的な説明を加えられないことが、「証券会社、資産運用会社が稼ぐためだと勘繰る向きや『バクチには興味がない』と退ける人」を増やしてしまう原因であるように思えてなりません。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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