明らかになって来た「央銀行総裁としての質の差」~「雇用の質」に目を向けるFRB議長と「経済の質」を無視する日銀総裁

(2014年4月9日:再掲)
◆ FRB議長に厳しく、日銀総裁に甘い日本経済新聞
「従来以上に、我々のメッセージが直接素早く伝わるようにしたかった。前向きにコミュニケーションをとるため今後もこういった形でやっていきたい」(9日付日本経済新聞 「日銀総裁の会見要旨」)

「前向きにコミュニケーションをとる」ことを目指した結果は、「円高・株安」でした。

「定義は難しいけど6ヶ月とか、そんなあたりかしら」

先月19日のFOMC後の記者会見で発したイエレンFRB議長のこの発言に対し日本経済新聞は、「『6ヶ月』発言が市場に新たな混乱要因をもたらした『勇み足発言』」と評し、「市場との対話が一段と重要になることに違いはない」と報道していました。

しかし、8日の金融政策決定会合後に行われた黒田日銀総裁の記者会見での発言が、金融市場に「直接素早く」伝わったことで、為替市場で一気に円高が進み、それを受けて株式市場が大幅下落をしても、黒田日銀総裁のコミュニケーション能力に関して言及をすることはありませんでした。

「外国為替市場で円相場が一時1ドル=101円台後半まで上昇したことで地合いが悪化。自動車や電機など主力の輸出関連に売りが膨らんだ。日銀の追加金融緩和期待が後退し、不動産株や金融株の下げも目立った」(9日日経電子版「東証大引け、大幅下落 3週間ぶり安値」)

9日の株価大幅下落を報じる記事をみると、「一時1ドル=101円台後半まで上昇したこと」と、「日銀の追加金融緩和期待が後退」したことを、分けて並列的に並べることで、「日銀の追加金融緩和期待が後退」したことが「一時1ドル=101円台後半まで上昇したこと」の原因だと思われることがないように配慮したかのような構成になっています。

FRBの金融政策など、「外部要因」には厳しく論評を加える日本を代表する経済紙も、身内である日銀総裁には、極めて寛容なようです。

もちろん、日本を代表する経済紙が、日銀総裁の「コミュニケーション能力」に言及しなかったのは、日銀総裁の記者会見を受けて金融市場が「直接素早く」円高に反応したのは、総裁の「コミュニケーション能力」に問題があったわけではなく、そもそもの「日銀総裁としての能力」に問題があるとの認識にもとづいて、総裁の「コミュニケーション能力」を批判しても仕方ないという判断があった可能性も否定出来ません。

◆ FRBと日銀の「マンデート」の差
ここに来て明らかになって来たことは、イエレンFRB議長と黒田日銀総裁の「中央銀行総裁としての質の差」と、日銀が「物価安定目標」にだけ責任を負っているという「シングル・マンデート」の限界ではないかと思います。

「景気は堅調な内需に支えられ、前向きの循環メカニズムが引き続き働いている。消費税率引き上げの影響による振れも伴いつつも、基調的には穏やかな回復を続けている」「需給ギャップは縮小を続けている。失業率や短観などのデータから見ると、ほとんどゼロちかくになっている」(共に「日銀総裁の会見要旨」)

8日の記者会見で黒田総裁は何の裏付けもなく、「希望的観測」を並べ立てています。このような、「希望的観測」と「金融政策における見通し」を混乱しているところに、金融政策の責任を担う立場の人間としての資質を欠いていることが滲み出ているように感じます。

3月のFOMCで、それまでFRBが利上げを検討する目安として来た「失業率6.5%」というフォワードガイダンスを削除したイエレンFRB議長は、3月31日に行われたシカゴでの講演で、賃金上昇の兆候がまだ見られないことや、パートタイム、および長期失業者の割合が予想外に大きいことなどを挙げ、「労働市場に依然として相当のたるみがある」と発言しました。

こうしたイエレン議長の発言は、失業率が6.7%まで低下して来たなかで、FRBの目が「統計上の表面的な数字」から、「雇用の質」に向けられて来ていることを表したものです。

「3月の短観を見ると企業の業況感は、幅広い業種で引き続き改善している。特に非製造業の業況判断は、国内需要の堅調さを反映して、大企業・中小企業ともに1991年11月以来の水準になっている」「失業率や有効求人倍率もリーマン危機前のピークに達している(共に「日銀総裁の会見要旨」)

イエレンFRB議長の目が「統計上の表面的な数字」ではなく、「雇用の質」に向けられて来ているのに対して、黒田日銀総裁は、非正規雇用の比率が過去最高を記録し、勤労者の実質賃金が8カ月連続で低下しているという「経済の質」に目を向けることなく、「統計上の表面的な数字」ばかりを追っています。

「雇用の質」という「経済の質」に目を向けて金融政策を行おうとしているFRB議長と、「経済の質」には目もくれず「統計上の表面的な数字」だけを基準に金融政策を推し進める日銀総裁。その差は、「中央銀行総裁としての資質の差」に加え、FRBが「雇用」と「物価」という「デュアル・マンデート」を負っているのに対して、日銀が負っているのが「2%の物価安定目標」という「シングル・マンデート」であるということも関係していると思われます。

さらに、日銀総裁の目が「経済の質」に向かわない大きな要因は、黒田総裁は、政府に対して実質的に、「2%の物価安定目標」と「株高」という「デュアル・マンデート」を負っていることです。この「裏デシュアル・マンデート」を達成するためには、「円安」にするしかないわけですから、黒田総裁は「悪い物価上昇」が起きようと「量的・質的緩和」に突き進むしかないという構図になっています。

◆ 誰がための金融政策か
「our goal is to help Main Street, not Wall Street.(FRBの目標は、あくまでメイン・ストリートを助けることにあって、ウォール街を助けるものではない)」(FRB HP〝What the Federal Reserve Is Doing to Promote a Stronger Job Market″)

先日のシカゴでの講演で、イエレンFRB議長はこのように明言しました。

このイエレン議長の発言に準えれば、黒田日銀総裁の金融政策は、

「BOJ’s goal is help Nagata-cho and Keidanren, not household and individuals.
(日銀の目標は永田町と経団連を助けることにあって、家計や個人を助けるものではない)

といった感じでしょうか。

「国内外の学会でも議論になっている。現時点では、単にマネタリーベースを増やすだけではなく、リスク資産も購入する量的・質的金融緩和は一定の効果を持っているというのが学会の多数意見になってきている」(「日銀総裁の会見要旨」)

黒田日銀総裁は、「量的・質的金融緩和が経済にもたらす効果」について、学会で一定の効果が認められていることを強調しました。

これに対してイエレンFRB議長は、先日のシカゴでの講演で、次のように発言したことが報じられています。

「議長はリセッション後に失業や大幅な給与削減を余儀なくされた労働者の実例に触れ『これはただの学術的論争ではない』と指摘。今も苦しんでいる国民にとって『緩慢な回復の原因は極めて重要』と主張した」(4/1 ロイター「米金融支援のコミットメントは当面必要、労働市場に緩み=FRB議長」)

「学会」での「学術的論争」を持ち出し「量的・質的金融緩和」の効果を強調する黒田日銀総裁と、「学術的論争」に囚われずに「経済の質」を追い求めるイエレンFRB議長。金融市場がどちらに信頼を寄せるのか。それは「コミュニケーション能力」の差の次元を超えているように思えてなりません。

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コメント

納得

今回の内容を読みつくづく納得いたしました。
こういう意見を黒田総裁や安倍首相に届けて欲しいものです。

Re: 納得

村上様
この度は拙Blogをお読み頂き、またコメントをお寄せ頂きありがとうございました。
拙Blogが何かのヒントになれば幸いです。

> 今回の内容を読みつくづく納得いたしました。
> こういう意見を黒田総裁や安倍首相に届けて欲しいものです。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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