何故厚生年金基金だけが「大解散時代」を迎えたのか~公的年金を「将来の危機」にすることで生じるメリット

(2014年4月13日)
■ 「3階部分」だけが吹き飛んだ年金制度
「約400万人が加入する厚生年金基金が『大解散時代』に入る。4月1日に施行された改正厚生年金保険法は財政難の基金に解散を促すなどの内容。代行部分を返上したうえで、別制度に移行することが認められており、厚労省も移行を勧めている。だが将来の財政改善は期待し難く『年金の9割は解散を選ぶ』との見方が多い」(11日付日本経済新聞 「年金改革の衝撃~厚年『大解散時代』」)

日本経済新聞で厚生年金基金が「大解散時代」を迎えたことが、特集で取り上げられています。

厚生年金基金が「大解散時代」に入ったと聞くと、年金が貰えなくなると想像する人もいるかもしれませんが、厚生年金基金は俗にいう年金の3階部分(1階が国民年金、2階が厚生年金)に相当するもので、これが解散するからと言って、1、2階部分の年金給付がなくなる訳ではありません。

「2012年に起きたAIJ事件をきっかけに、財政が悪化した基金の解散を促す法律が施行された。…(中略)…約530ある基金(2月末)のうち、200程度が解散や制度以降の検討に入っているとされる」(同)

厚生年金基金が「大解散時代」を迎えたのは、日本経済新聞が報じているように「2012年に起きたAIJ事件をきっかけ」だったのですが、勘違いしてはいけないことは、AIJ事件による年金資金消滅は、あくまで「きっかけ」であって、厚生年金基金の財政悪化をもたらした直接的原因ではないということです。

AIJ事件が起きる前から、高齢化に伴う掛金減少と給付金増大などによって、厚生年金基金の財政悪化は進んでいて、早晩制度を維持できなくなることは想定されていたものでした。

■ 「3階部分」が吹き飛んだのは、「運用力の差」ではなく「スポンサーの差」
厚生年金基金は、年金制度において「3階部分」ですから、厚生年金基金が「大解散時代」を迎えたからといって、それが1、2階部分まで崩壊させるわけではありません。

しかし、「3階部分」だから大丈夫だと決めつけていいわけではありません。1階から3階まで「運用」という面では1、2階部分は有識者が騒ぎ立てているように、「国債の比率」が50%強と16%の「日本株の比率」と比較して高いのに対して、3階部分は「日本株の比率」が高かった(最高は1999年度の36.5%、直近は20%前後)という程度の違いしかありません。

つまり、「3階部分」だけが「大解散時代」を迎えたのは、「運用力」の差ではなく、「スポンサーの差」だったということです。

1階から3階まで、加入者が掛け金を負担しているのは同じですが、加入者以外のスポンサーは、1階部分は「国(税金)」、2階部分は「企業」、3階部分は「主に中小企業」と、大きく異なっています。ようするに、スポンサーの「負担能力の差」によって、「3階部分」だけが「大解散時代」を迎えたということです。

年金制度を維持して行くための手段としては、「加入者かスポンサーが積み立て不足分を拠出する」、「掛け金を上げる」、または「給付金」を減らすという3つの選択肢があります。中小企業を中心とした厚生年金基金が「大解散時代」を迎えるのは、スポンサー側がこれらの選択肢のどれも選択できない状況に追い込まれたからです。

■ 「将来破綻の危機」にすり替えられる公的年金
1階、2階部分がまだ「大解散時代」を迎えないで済んでいるのは、現時点ではスポンサーである「国」と「企業」にまだ耐力があるからです。しかし、その耐力の源が何であるかについて、よく考えておく必要があるように思います。

1、2階部分(所謂「公的年金」)の財政状況も、「100年安心プラン」が10年も持たなかったことからも明らかなように、実質的には「大解散時代」を迎えた厚生年金基金と同じような危機的状況にあります。それでも耐力があるというのは、国は「徴税権」を持っているからです。「社会保障の充実」という錦の御旗を振り回して、消費税を上げることで「耐力をチャージ」することが出来ますから、理論上「1階部分」が崩壊することはないといわれているのです。

しかし、逆説的に言えば、この「徴税権」を行使して「耐力をチャージ」するために、国は実質的には厚生年金基金と同様にほとんど破綻状態にあるにも関らず、「年金財政は危機的状況にある」と、年金の危機を「将来の危機」にすり替え続けているとも考えられるのです。

年金資金の想定運用利回りを4.1%として財政再計算をすることに対して、「現実的なものではない」「現実にあった利回りに引下げるべきだ」という批判の声も上がっています。

こうした議論は尤ものように聞こえるかもしれません。しかし、こうした議論は「運用利回りが低いから年金財政が危機に陥っている」という錯覚を与えるものでもあります。確かに、現時点での年金財政の危機は、これまで「運用利回りが低い」ことが原因でした。しかし、運用利回りを現実的な水準まで引き下げたからと言って、年金の「将来の危機」が薄れるわけではありません。

今後の運用利回りを、現実的な水準まで引き下げた場合、何が起きるのでしょうか。

今後、どの位の給付金が発生するかについては、年齢構成や平均寿命等から統計的に一定の誤差の範囲で推計することが可能です。要するに、将来必要な金額は、現時点でほぼ推計できているということです。もちろん誤差は生じますが、それは有識者の株価予想などとは比較にならないくらい確度の高い数字であることは事実です。

将来給付に必要な金額が分かっているとしたら、金融的に、今いくら手元に持って行く必要があるかも計算出来ることになります。この今手元に持っておくべき資金は、想定運用利回りを高く設定すれば少なくて済み、低めに設定すると、多く持っていなければならないことになります(金融で最も肝となる「現在価値」という概念)。

例えば1年後に100万円が必要な人がいたとします。もし、1年定期の利率が10%だとしたら、今手元に90.9万円持っていればいい(90.9×1.1=100)ということになります。しかし、1年定期の利率が1%だったとしたら、今手元に99万円持っていなければならないことになるのです。

つまり、公的年金の想定利回りを現実に即した水準まで下げて財政再計算をすると、今の手元資金は少な過ぎる、単刀直入に言えば「公的年金は破綻している」ということになります。そしてこの破綻状態を脱するためには、「大幅な掛金の引上げ」、「税金による不足金埋め合わせ」が必要になります。

このどちらも、国民からの支持が得難く、政治的に踏み込めない領域です。

■ 「将来の年金危機」によって得られる政府に好都合な状況
一方、想定運用利回りを4%強とそれらしい水準に置けば、現在の積立金でも「公的年金は破綻していない」といえ、年金破綻を「将来の危機」にすることが出来るのです。

このように、年金破綻を「将来の危機」にすれば、国は国民に消費税を上げる必要性を訴えることが出来ますし、国債運用だけでは達成できない想定運用利回りを実現するためにも、「国内株式」などのリスク資産に投資する必要があるという理屈も正当化することが出来ます。

「将来の危機」を国民の共通認識にすることに成功すれば、消費増税を実施することが容易になりますし、消費増税によって景気が冷え込んでも、公的年金資金で株価を支えられることが出来ます。それによって、政府は「消費増税による景気への影響は軽微だ」と主張することが出来る余地が生まれます。

このように考えると、国民の選択肢は、「公的年金は破綻している」ということで、直ぐに資産を分配してもらうか、「公的年金はこのまま放置すると将来破綻する」という政府の広報活動を信じ、消費増税を受け入れ、これまでの公的年金の積立不足の大きな要因となって来た「国内株式」への投資比率を引上げることを容認するか、どちらかしかないということです。

もし、消費増税と公的年金による「国内株式」投資比率の引上げが失敗したら、その時は「公的年金破綻」を受け入れる以外に選択肢はなくなるということです。

将来年金を受け取る世代に十分な説明をせずに、既に公的年金を受け取っているような有識者が中心となって「現時点で公的年金は破綻していない」、「年金破綻は将来の危機」と認定し、増税とリスク資産運用に走るという最後の賭けにでることを決定することが、本当に正しいやり方なのでしょうか。

政府や有識者達は、長年、国民の「金融リテラシー」の向上に努めて来なかった成果を享受できる状況が訪れたとほくそ笑んでいるのかもしれません。もちろん、彼らの「金融リテラシー」も低いことに変りはありませんが。

有識者達の「金融リテラシー」の低さの悪影響を消せるのは「円安・株高」しかありません。しかし、このまま「円安・株高」というラッキーが続いたら、「金融リテラシー」の向上の必要性を誰も感じる人が減ってしまいます。結局は、何時かは今の「金融リテラシー」の低さのツケを払わされる時が来る運命にあるということでしかありません。

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