「配偶者控除」見直し~「女性の活躍を後押しする」という詭弁と、「専業主婦優遇」という「謂れなき批判」

(2014年4月15日)
◆ 「103万円の壁」撤廃が作り出す「夫婦共に疲弊する社会」
「女性の社会での活躍を後押しする観点から安倍総理大臣が検討を指示した『配偶者控除』の見直しについて、議論をスタートさせました」(NHK NEWS WEB 「政府税調 配偶者控除見直し議論開始」)

頭が固いせいなのか、「女性の社会での活躍を後押しする」という目的で、「配偶者控除を見直す」という安倍総理の発想はどうしても理解出来ません。

こうした発想の根底にあるのが、「『配偶者控除』が、女性の就労拡大を抑制したり、専業主婦世帯の優遇につながっている」という固定観念です。配偶者控除を受けるために年収を103万円以内に抑えて働く女性が少なからず存在することを、安倍総理は「女性の就労拡大を抑制する効果を発揮している」と捉えているようです。

しかし、もし安倍総理が本気で「女性の社会での活躍を後押しする」つもりがあるならば、何故、「配偶者控除」を受けるための「103万円」という枠を取っ払おうと考えないのでしょうか。

働く意欲がありながら、「配偶者控除を受けるために年収を103万円以内に抑えて働く女性」を減らし、「女性の社会での活躍を後押し」しようとするのであれば、「103万円の壁」を200万円とかに引上げ、上限を気にせずに働いてもらえる制度にした方がずっと効果的ではないかと思います。「女性の社会での活躍を後押しする」という観点から言えば、「103万円の壁」は「バカの壁」でしかないように思えます。

「配偶者控除」を撤廃することで「女性の社会での活躍を後押しする」のと、「103万円の壁」を引上げて「女性の社会での活躍を後押しする」のとでは、同じ「女性の社会での活躍を後押しする」方策であっても方向性は全く違います。例えて言えば、「配偶者控除撤廃」は「北風政策」であり、「103万円の壁引上げ」は「太陽政策」といったところでしょうか。

また、同じ「後押し」であっても、「103万円の壁引上げ」は女性側に「社会での活躍」をするかしないかの選択権があるのに対して、「配偶者控除撤廃」は女性側に「社会での活躍」を強いるものであって、個人的には女性に対する「徴兵制」に近いものに映ってしまいます。

また、見落としてはならないことは、「103万円の壁」があることによって、働いている女性が子供や家族と過ごせる時間を確保出来ている可能性があることです。もし「103万円の壁」が取り払われた場合、企業側から長時間労働の要求があった場合、断ることが難しくなることは想像に難くありません。

多くの企業が固定費となる正社員を削減し、正社員一人あたりの仕事量が増えたことで多くのお父さんが疲弊している中で、お母さんまで「103万円の壁」が取り払われることで長時間労働を強いられ疲れ果ててしまったら、家庭や育児はどうなってしまうのでしょうか。仕事で心身ともに余裕を失った夫婦が、託児所の整備くらいで子供を産んで育てて行こうと考えてくれるのか甚だ疑問です。

安倍総理は「女性の社会での活躍を後押しする」と、耳触りのいいフレーズを使っています。しかし、安倍政権の広報誌でもある日本を代表する経済紙は「女性就業者の拡大を促す狙い」(日経電子版)だと明言し、安倍総理がどんなに奇麗ごとを並べても、その本音が「企業のために安い労働力である女性就業者を増やす」ことにあることを暴露しています。

麻生財務大臣は「配偶者控除」の問題について、「伝統的な家族観から、見直しには慎重な意見もある」(日経電子版)と発言されているようです。しかし、「配偶者控除」の問題は、「家族観」の「新しい」「古い」を問うような問題ではありません。国としてどのような国を目指すのか、少子高齢化をどのようにしていくかという「国家観」が問われる問題ではないでしょうか。

◆ 無視されている「専業主婦」が生み出す貢献度
「配偶者控除」の議論で気に掛かるのは、年金財政が厳しい中で、自分で保険料を払わずに年金を受け取れることに対する「専業主婦優遇」という批判がつきまとっていることです。しかし、こうした批判は、将来の現役世代を生み、育ててくれるという「専業主婦」が生み出す付加価値を無視した、「謂れなき批判」ではないかと思います。

やや乱暴な方法ですが、金融的に、将来の現役世代を生み、育てる「専業主婦」が生み出す価値と、「専業主婦」が今働いて保険料を払った場合の価値を比較してみましょう。

例えば、月収が35万円の人が納める厚生年金保険料は、現在月59,208円(個人負担は半分の29,104円)、国民年金保険料は月15,250円です。

この掛金が将来に渡って一定で、年金資金の想定運用利回りを1.5%(直近の20年国債利回り水準)だと仮定します。この仮定に基づくと、現在月収35万円の人がこの先30年間支払う年金保険料総額の「現在価値」は、約2200万円になります。

これに対して、「専業主婦」が育ててくれる子供が、20年後から30年間同額の保険料を納めてくれたとすると、その支払い保険料総額の「現在価値」は約1600万円となります。

つまり、こうした乱暴な計算では、「専業主婦」が「社会での活躍」することを強いられ、将来社会の担い手となる子供を育てることを放棄して年金保険料を自ら払った場合と、「専業主婦」として将来社会の担い手となる子供を育て上げた場合と比較すると、「専業主婦」の方が年金財政に及ぼす負担は実質560万円ほどだということになるのです。もし、子供を二人、三人と育ててくれたら、「専業主婦」の貢献度は自らが働いた場合よりもずっと大きなものになります。

今働いて年金保険料を納めている人は、「今の年金財政」に貢献していて、「専業主婦」として将来の年金保険料を納める人を育ててくれている人は、「将来の年金財政」に貢献しているといえるのです。したがって、金融的には、どちらが優遇されているといえるような問題ではないのです。

かなり乱暴な比較ですから、この結果自体に大きな意味があるわけではありません。しかし、年金に関する「専業主婦優遇」というのは「謂れなき批判」である可能性があり、「専業主婦」も年金財政に貢献しているという認識を社会全体が持つべきではないかと思います。年金財政の面で、女性が一人の子供を産んで育ててくれることの貢献度は、見た目以上に大きい可能性があるのですから。

「謂れなき専業主婦バッシング」は、少子高齢化問題を解決しようとしている日本にとっては「百害あって一利なし」であるような気がしてなりません。残念ながら、目の前の利益と、今できる「企業優遇策」に目を奪われがちな「経済リテラシーの低い安倍総理」に理解することは難しいと思いますが。

【お詫び】
当初掲載した記事の中で、年金保険料支払総額の「現在価値」算出の部分で大変お恥ずかしい誤りがあり、表現を一部訂正させて頂きました。決して「悪意のある改ざん、捏造」ではございませんので、ご容赦頂けますようお願い致します。

【参考記事】
日本経済新聞は「専業主婦」がお嫌い?~機械化で解決出来る「供給力」と、解決出来ない「需要」
偏った「新成長戦略」 ~ 必要以上に被害者として扱われる「法人」と、必要以上に悪者扱いされる「専業主婦」
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コメント

どうして比較が「将来の担い手を産まない働く女性」と「将来の担い手を産む専業主婦」なんでしょうか?
厚労省の調査でも就労有無と子供の数の関係にほとんど差はなく(むしろ妻が働いている方が子どもの数が多いとも)、、労働と子供を持つことがトレードオフのような比較は不適切ではないでしょうか。

釣られた男さんに全く同意です。
この前提はあまりにも乱暴です。あなたの中に働く女性、共働きの家庭ではちゃんと子育てをしていない、できないという思い込み、偏見があるのではないでしょうか。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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