GPIF is back. ~「年金福祉事業団」への「先祖返り」を目指すGPIF

(20014年4月25日)
◆ 「先祖返り」するGPIF
「米沢氏は『日本経済の再生にGPIFはもっと貢献できる』と述べるなど、株式投資の拡大に理解を示している。インフラや不動産などにも投資対象を広げるように主張している」(25日付日本経済新聞 「リスク投資拡大へ改革 公的年金」)

果してどの位の国民が、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金を「日本経済の再生」に使って欲しいと思っているでしょうか。「日本経済の再生」は、年金財政の健全性を確保するためにも達成しなければならないもので、GPIFの資金を使って「日本経済の再生」を果すという考え方は、全く持って本末転倒の議論です。

こうした考えを持っている人が、GPIFの運用委員会委員長に選任されるというのは、結果に関らず忌々しきことです。

GPIFの前身は、2001年4月に財政投融資改革によって廃止された「年金福祉事業団」という特別法人です。その「年金福祉事業団」は、「社会保険の福祉施設の設置・運営を適切かつ能率的に行うとともに、被保険者・被保険者であった者および受給権者の福祉の増進に必要な施設の設置・整備を促進する」(コトバンク)ことを目的に、「(1)大規模年金保養基地の設置・運営、(2)事業主などが被保険者の福祉を増進するため設置・整備する住宅,療養施設,厚生福祉施設の整備資金の貸付け、(3)被保険者に対する住宅資金の貸付け、(4)年金受給権者に対する年金を担保とする資金貸付け、(5)被保険者の親族の教育資金貸付け、(6)将来の還元融資の財源を確保するための資金確保事業、(7)将来の年金給付に備えるための年金財源強化事業」(同)などを行っていました。

「大規模年金保養基地」というのが、年金保険料1,953億円を投じた挙句、売却総額がわずか約48億円になって社会的問題となった「グリーンピア」です。

つまり、新委員長が「インフラや不動産などにも投資対象を広げるように主張している」ということは、実質的にGPIFの「年金福祉事業団」への「先祖返り」を目指しているということに他なりません。

GPIFの昨年末時点での資産構成は、「国内債券=55.22%」「国内株式=17.22%」「外国債券=10.60%」「外国株式=15.18%」「短期資産=1.77%」となっています。新しく運用委委員長になった米沢氏は「株式などのリスク投資を拡大すべきだと主張しており、安全性を重視する国内債券中心の運用見直しを求めた政府有識者会議のメンバーだった」(同 日本経済新聞)ことから、今後、国内外の株式への配分が増やされることはまず間違いありません。

24日、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演した政府有識者会議の座長を務めた伊藤隆敏東京大学大学院特任教授氏は、私案として「国内債券=40%(±10%)」「国内株式=20%(±10%)」「外国債券=10%」「外国株式=20%」「オルタナティブ(REITやインフラ投資など)=5%」「短期資産=5%」という資産構成を示しています。したがって、「国内株式」の比率が20%を超えて来ることは確実だと思われます。

GPIF基本ポート(テレ東)

2001年4月に廃止された「年金福祉事業団の基本ポートフォリオは「国内債券=58%」「転換社債=4%」「国内株式=22%」「外国株式=11%」「短期資金=5%」でしたから、GPIFの「国内株式」への投資比率も、「目標収益率」が6.7%であった「年金福祉事業団」時代に「先祖返り」するということになります。

◆ 金融リテラシーの低さを象徴する「リスク投資拡大=運用改革」
運用には不確実性がつきものですから、こうした資産配分変更に伴う結果がどう出るかは「神のみぞ知る」という世界です。しかし、「リスク投資を増やす方向で運用改革が進みそうだ」(同 日本経済新聞)というように、「リスク投資拡大=運用改革」という誤った認識が、日本を代表する経済紙によって、無責任にばら撒かれていることには大きな疑問を感じます。年金支給年齢が引上げられたり、年金財政の厳しさが増しているなかでの「リスク投資増」は、「運用改革」ではなく、むしろ「最後のギャンブル」と呼ぶべきものです。

大学教授のような博学でない人間でも出来る「リスク投資拡大」が、どうして無責任に「運用改革」と称されて報道されるのか、全く理解出来ません。

公的年金は既に運用の失敗が出来ない状況にあります。それは、将来の年金給付を維持するためには、年毎に絶対に下回ってはいけない年金資産規模というのがあるということです。本来あるべき「公的年金の運用改革」とは、公的年金制度を維持して行くために絶対に下回ってはいけない資産規模を割り込む確率を一定水準以下に抑えられるリスク量の中で、最大のリターンを目指すというもののはずです。

つまり、GPIFの運用においては、制約条件として「リスク量」が存在するということです。そして、この「リスク量」は、「想定リターン」よりかなり高い精度で見積もることが出来るものです。こうした点が全く議論の対象にならず、ただ単に「リスク投資拡大」を図るだけなら、大学教授を始めとした「有識者」達の知見など無用の長物でしかありません。

◆ 筋の通らない資産配分変更
GPIFの運用改革のおかしなところは、「運用利回りの改善で公的年金制度の維持・安定」を目指したものなのか、「日本経済の再生に貢献する」ことを目指したものなのか、曖昧なところです。

「公的年金制度の維持・安定」を目指すのであれば、「資産配分」を先に決めるのではなく、許容リスク量が決まった後に「資産配分」が決定されるのが当然です。

また、GPIFの資金を使って「日本経済の再生に貢献する」ことが目的であるのであれば、何故「外国債券」や「外国株式」を増やす必要があるのでしょうか。「日本経済の再生に貢献する」のであれば、その資金は国内に振り向けなければ筋が通りません。

◆ 神のご加護があらんことを
市場運用ですから、どんな「非論理的なポートフォリオ」であっても、「結果オーライ」ということはあります。「非論理的ポートフォリオ」というのは、「論理的ポートフォリオよりもリスクを多くとった」ものなのですから。

資産運用の実務経験が全くない日本を代表する経済紙や、安倍政権に選ばれた大学の教授を始めとした「有識者」達が尤もらしく「リスク資産拡大=運用改革」と誤った扇動を繰り返すのは、外国人投資家の買いに期待がし難くなったなかで、アベノミクス効果が持続しているように糊塗するために株価を維持する必要があり、そのためにはGPIFの資金を株式市場に振り向ける必要があるからに他なりません。

アベノミクスの面子を保つために、国民の公的年金資産はかつての「年金福祉事業団」と同様、必要性の怪しい「リスク投資拡大」に振り向けられようとしています。GPIFの「先祖返り」の結果が「グリーンピア」と同じにならないことを祈るばかりです。資産運用の実務経験のない投資委員会委員長に神のご加護があらんことを。


【ご参考】 元ファンドマネージャー近藤駿介の資産運用業界裏話サロン
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR