「個人資産の運用」と「公的年金の運用」で大きく異なる、日本を代表する経済紙の掲げる「資産運用の大原則」

(2014年4月26日)
資産運用会社MRIインターナショナルに投資していた日本人顧客の資産消失が発覚してから1年。25日放送の「ワールドビジネスサテライト」では、「〝消えた資産″を取り戻せ」というタイトルでMRI事件のその後の様子を報じていました。このニュースのなかでは、子供の教育費を含む全財産をMRIに預けて全てを失った40代の女性が、自らの命を絶ったことも報じられていました。

命の次に大切な財産を失ったことで、一番大切な命までを自ら経つところまで追いつめられた人が出て来てしまったことは、長年投資運用業界に身を置いて来た人間の一人として、心が痛む出来事でした。

「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」(2013年5月6日 日本経済新聞 社説「まず資産運用の常識を養おう」)

MRIインターナショナルの投資詐欺事件に関して投資の専門家といわれる立場の人達からは、このような尤もらしい解説が出されています。しかし、こうした解説に何の意味があるのでしょうか。

「高い利益が得られそうな金融商品」とは、具体的にどの程度のリターンを謳った商品を指すのでしょうか。現在の10年国債の利回りは0.6%程度ですから、1%でも「高い利益が得られそうな金融商品」ということになります。さらに、公的年金の運用においては、有識者会議が、0.6%程度と「高い利益が得られそうにない」国債から、「高い利益が得られそうな国内株式」などへの大胆な資産配分の変更を提言しています。

MRIインターナショナルの投資詐欺事件について「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」と声高に叫ぶ日本を代表する経済紙は、何故、国民の大切な公的年金資産の運用が「リスク投資拡大」に向かうことに対して、「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」と警鐘を鳴らさないのでしょうか。

こうした対応の違いが生じるのは、日本を代表する経済紙の根底に、個人財産の運用は「自己責任」、公的年金の運用は「全体責任(=無責任)」という考えがあるからかもしれません。

「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」であるならば、何故、日本では国を挙げて「貯蓄から投資へ」というスローガンを振りかざしているのでしょうか。

2013年の日本株の上昇率は50%を上回り、主要国の株式市場の中で最も良好なリターンを記録しました。一方で年間平均の「価格変動リスク(Volatility)」は25.8%と、ニューヨークダウ(9.9%)や英国FT100(11.5%)はもとより、インドSENSEX(16.4%)、ロシアRTS(18.6%)、ブラジルBOVESPA(19.9%)といった新興国市場よりも遥かに高くなっています。

つまり、日本株式市場の好パフォーマンスは、「大きなリスク」の結果として得られたものだということです。

こうした現実を無視し、「高い利益が得られそうだ」という理由で公的年金の運用資産における「リスク投資拡大」を「運用改革」と絶賛する人達に、MRIインターナショナルへの投資で資産を失った個人投資家に対して「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」という資格があるのでしょうか。

MRIインターナショナルのような投資詐欺事件で個人投資家が大きな損失を被り、自らの命を絶たなければならない状況に追い込まれた根底には、日本を代表する経済紙や有識者、金融業界の人間が、個人投資家に対して正しい金融教育をして来なかった、あるいは、正しい金融教育を出来るレベルに無かった(個人的にはこちらの可能性が高いと考えています)という問題があるはずです。

MRIインターナショナルの投資詐欺事件は、多くの日本人が「投資」と「金融」の違いを知らなかったことに原因があります。これは、「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い」という低次元の一言で片付けられる問題ではありません。株式投資をすれば「金融リテラシー」が向上するような誤った宣伝を続けている限り、根本的な問題は解決しないのではないかと思います。

一般的に、日本は「金融リテラシーが低い」と言われています。しかしこれは、「投資教育が不十分」だったことによるものではなく、本来投資教育をしなければならない立場にある経済紙や有識者、金融業界の多くの人間が、「投資教育を出来るレベルの金融リテラシーを持ち合わせていない」というところに本質的な原因があるといっても過言ではありません。

それ故、保険も含めて日本の金融業界は、「顧客の金融リテラシーが低い」ことを前提にビジネスが成り立っているという構図になってしまっています。

命の次に大切な資産を失ったことで、最も大切な自らの命を絶たなければいけない状況に追い込まれる人が出ないように、日本を代表する経済紙も、有識者達も、金融業界に身を置く人間も、もう少し責任感を持って「金融リテラシー」向上を目指すべきであるように思えてなりません。

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近藤駿介

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