「有識者」の恩返し?~目的の「優先順位」も、負うべき「社会的コスト」も示さない「公的年金運用改革」

(2014年4月27日)
◆ 「価格変動リスク」と「社会的リスク」
「国内債券を中心とする現在の各資金のポートフォリオについては、デフレからの脱却を図り、適度なインフレ環境へと移行しつつある我が国経済の状況を踏まえれば、収益率を向上させ、金利リスクを抑制する観点から、見直しが必要である」(2013年11月「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議 報告書」)

このように、公的年金の運用見直しを提言している有識者会合は、「デフレ脱却によって金利上昇リスクがあるから株式などリスク資産への投資を増やせ」と主張しています。

確かに、足下の10年国債の利回りは0.6%程度ですから、国債運用だけではとても公的年金が目指す4%強という目標運用利回りには到達できません。これに対して日本株は、2013年度に日経平均で19.6%、Topixで16.3%(共に配当金未考慮)上昇しましたから、目標運用利回りを達成するために国内株式の組入れを増やすというのが有力な選択肢の一つであることは理解出来ることです。

ただ、公的年金の資産配分を決める際に考えておかなければならないのは、資産配分変更に伴う「リスク」です。それも、投資に付きまとう「価格変動リスク(不確実性)」と、運用結果によって生じる「社会的リスク」の両方を認識しておく必要があります。

◆ 価格変動リスク
まず、投資に付きまとう「価格変動リスク」を確認してみると、過去の市場データから算出される「価格変動リスク」は、国債は3%弱、日本株は25%前後となっています。

この「価格変動リスク」は共に平均値で、2013年4月に日銀が「異次元の金融緩和」に踏み切ったことで国債市場が混乱した際には、国債市場の「価格変動リスク」は6%前後まで上昇しましたし、2013年5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリング(金融緩和規模縮小)に言及した直後の株価下落局面では、国内株の「価格変動リスク」は日経平均で50%強、Topixで45%弱まで上昇しています。

一時的な混乱局面を除くと、リスクの低い国債投資では「目標収益を確保出来る可能性は低い」といえることは確かなことですが、一方、リスクの高い日本株投資を増やすことで「大きな損失を生む可能性」が上昇して行くことも確かのことです。

◆ 「公的年金運用改革」の「目的」と「優先順位」
ここで確認しておかなければならないことは、公的年金資金の運用改革の「目的」、「優先順位」です。

もし、公的年金の資産配分の見直しにおいて、公的年金制度を長く維持することを優先するならば、「国債運用偏重」を変える必要性は高くありません。

一方、給付開始年齢引き上げや、給付金減額、掛け金引き上げなどの原因となっている「積立金不足」という問題を「短期間で解消する」ということを優先目標とするのであれば、株式運用など「リスク投資拡大」という選択肢は理に適っていることになります。

ようするに、公的年金の運用の見直しを提言するならば、「優先目標は何か」ということを、国民に提示するべきだと思います。

◆ 国民が負う「社会的コスト」
そのうえで、「社会的コスト」についても考える必要があります。

もし、掛け金と給付金をほぼ現状に近い水準で維持し、このまま「国債偏重」の運用を続けた場合、国民は負う「社会的コスト」は「給付開始年齢引上げ」ということになります。もちろん、今でも公的年金を運用するGPIFは国内株式に17%強資産を配分しています(2013年12月末時点時価ベース)から、日本株が25%程度上昇し続ければ、4%強という目標収益を達成出来る可能性はあります(毎年日経平均株価が25%上昇し続ければ、4年後の2017年末には日経平均は1989年末に記録した38,915円の史上最高値を超える計算になります)から、「給付開始年齢」が維持される可能性がないわけではありません。

逆に、今回有識者会議が提案する通り、国内株式など「リスク投資拡大」をした場合、上手く行けば4%強という目標収益を達成出来るかもしれません。例えば、国内株式への資産配分を現在の17%から5%引上げ22%とすると、日本株の上昇率が18%ほどで目標収益を達成出来る可能性が出て来ます(毎年日経平均が18%上昇すると、38,915円の史上最高値を更新するのは5年先の2018年中となります)から、「給付開始年齢」を維持することが出来るかもしれません。

一方、日本株の「価格変動リスク」が25%程度あるということは、統計的に約6分の1(16~17%)の確率で、リターンが想定から25%下振れる可能性があるということを意味しています。例えば国内株式への資産配分を22%程度に増やし、この6分の1の確率に遭遇した場合、年金資産全体の運用収益に▲5.5%程度の下振れ圧力をかけることになるということです。

仮に公的年金全体の運用利回りが▲5.5%となった仮定した場合(リーマンショックのあった2008年度のGPIFの修正総合利回りは▲10.03%)、単純計算で7兆円以上、消費税率に換算して約3%分の税収分に相当する規模の損失が生じることになります。

こうした状況を考えると、公的年金で「リスク投資拡大」をして失敗した場合、国民は「公的年金の破綻」を受け入れるか、失敗の代償として、「大幅な掛け金引き上げ、大幅な給付削減、給付開始年齢の大幅引き上げ、消費税を始めとした増税などのパッケージ」という大きな「社会的コスト」を受け入れるかのどちらかを迫られることになります。

◆ 「お友達有識者」による「安倍総理への恩返し」
現在の「公的年金の運用改革」は、その「目標」も「優先度」も、代償として支払う可能性のある「社会的コスト」に関して、全く説明をしていません。

安倍政権によって選ばれた「お友達有識者」が、その恩返しのために公的年金資産を使って日本株を買い支え、アベノミクス効果に厚い化粧を施しているような、邪心に基づいた「公的年金の運用改革」が、果たして彼らが掲げるような大きな成果をあげることが出来るのでしょうか。

既にこれまでの制度を維持出来なくなっている「公的年金の運用改革」を、コストを掛けずに行うことはもはや不可能です。有識者会議のメンバーの資産運用に関する知識水準が本当に「有識者レベル」にあり、「公的年金の運用改革」を担うためのモラルを持ち合わせているのであれば、「有識者の恩返し」の如く「リスク投資拡大」などという報告書を安倍総理に提出するだけでなく、国民に対して、「運用改革」の優先順位を明確に示すと同時に、現状維持した場合に負うべき「社会的コスト」と、「リスク投資拡大」に舵を切った場合に追う可能性のある「社会的コスト」を提示し、十分な説明をするべきだと思います。

一般国民の「金融リテラシー」が低いことを前提としたような「公的年金の運用改革」からの脱却は、「デフレ経済からの脱却」と同じ位重要であるように思えてなりません。

◆「金融リテラシー」向上に必要なもの
「金融リテラシー」を向上させるためには、金融経済に関する専門的な「理論」が必要だと勘違いされている方も多くいるのではないかと思います。しかし、研究者になる方でなければ、専門的な「理論」など学ぶ必要はありません。

「金融リテラシー」の向上については、今後こちらで扱いますが、「金融リテラシー」を向上させるために必要なのは、「現実としての仕組」と「常識」です。「常識」というのは、「増税すれば消費は抑制される」といった、ごく当たり前のものです。「増税をすれば、国の財政や年金財政に対する信認が上昇し、安心して消費をするようになる」というのは、「常識からかけ離れた物語」に過ぎません。こうした「常識からかけ離れた物語」を書けることと、「金融リテラシー」とは関係ないことは、感覚的に理解出来ることだと思います。

「現実としての仕組」を知り、「常識」を駆使すれば、「金融リテラシー」は自然と向上して行くものです。これによって多くの人の「金融リテラシー」が向上すれば、一般国民の「金融リテラシー」が低いことを前提としたような「公的年金の運用改革」や、金融業界のビジネスは自然と淘汰されて行くはずです。

国民の「金融リテラシー」の向上によって、「公的年金の運用改革」が進歩して行けば、本当の「公的年金の運用改革」が達成出来るように思います。

【ご参考】 元ファンドマネージャー近藤駿介の資産運用業界裏話サロン

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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