80年代の大手証券のセールスレポートを髣髴させる「日銀展望レポート」

(2014年5月1日)
◆「根拠なき憶測」「希望的観測」で埋め尽くされた「展望レポート」
証券会社の新米エコノミストが書いたレポートかと勘違いしてしまいそうな、目を覆いたくなるような内容でした。

30日に日銀が公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」。このレポートは、「展望レポート」という名の通り、日銀の期待する「展望」が羅列されているだけで、「現状分析」は一切ありません。

冒頭の「基本的見解」の「概要」も、
  • 2014 年度から 2016 年度までの日本経済を展望すると、2回の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。
  • 消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間の中盤頃に2%程度に達する可能性が高い。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。

と、「予想される」「可能性が高い」「とみられる」のオンパレードになっています。それ以降も「この傾向はさらに強まる」「影響を与え始めているとみられることから」と、「根拠なき憶測」「希望的観測」で埋め尽くされています。

「展望レポートでは実質成長率についても16年度までの見通しを示した。輸出回復の遅れで13年度、14年度を下方修正したものの、16年度にかけて0%台後半とみられる潜在成長率を上回る成長は維持する姿を描いた」(1日付日本経済新聞「物価見通し『16年度2.1%』」)

日銀は、輸出回復の遅れにより14年度の実質成長見通しを、1.4%から1.1%へと、0.3%下方修正したにもかかわらず、「輸出は弱めとなっているが、国内需要が堅調に推移するもとで、景気の前向きの循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」(展望レポート)としています。

「15年3月期は円安効果が一巡するうえ、消費増税後の国内販売の減少や東南アジアの原則が収益の足を引っ張る。一段のコスト削減をてこに営業利益は前期並みの高水準を確保するとみられる」(5日付日本経済新聞 「トヨタ最高益2.3兆円」)

1日付の日本経済新聞は、日銀の「展望レポート」よりも、トヨタが最高益を更新する見通しであることを大々的に伝えています。そして、その記事の中では、14年度の見通しについて「円安効果が一巡するうえ、消費増税後の国内販売の減少や東南アジアの原則が収益の足を引っ張る」と、トヨタが、日銀が示した「希望的観測」とは反対に、慎重な見方をしていることが示唆されています。

「今期は円安効果が一服し、消費増税の影響も懸念される。デンソーなど減益見通しをでている。ただ全体では3期連続の増益になりそうで、30日までの発表済み分で増益率は3%」となっている」(1日付日本経済新聞 「上場企業3割超す増益」)

1日付日本経済新聞の1面トップを飾った「上場企業3割超す増益」という記事でも、上場企業が14年度に関しては慎重な見通しを持っていることが紹介されています。こうした報道から明らかなことは、「日銀だけが強気な経済見通しを持っている」ということです。

◆ 「Plan-Do-See」という基本すら出来ない日銀
日銀は「展望レポート」のなかで、上場企業が「3割を超す増益」を果たした13年度の実質GDP成長率見通しすら、2.7%から2.2%へ0.5%も下方修正しています。

実質GDP成長率の見通しを下方修正したということは、上場企業が「3割を超す増益」を果たす中で、日銀が思い描いたような「国内需要が堅調に推移するもとで、景気の前向きの循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」(展望レポート)どころか、「作用して来なかった」ということです。黒田総裁は、上場企業が「3割を超す増益」を達成する中でも十分に作用しなかった「景気の前向きの循環メカニズム」が、企業の収益見通しが慎重になり、「一段のコスト削減」によって営業利益を維持する方向に向かう中で、どのようにして働いて行くというのでしょうか。

しかも、実質GDP成長率下方修正の基準となっているのは、わずか3ヶ月前の「1月地点の見通し」です。

わずか3か月前の見通しから、0.5%も実質GDP成長率を下方修正したのですから、常識的に、まず日銀が行わなければならないことは、下方修正の原因を明らかにすることです。そうした「Plan-Do-See」の基本も無視し、

「先行きを展望すると、国内需要が堅調さを維持する中で、輸出も緩やかながら増加していくと見込まれ、生産・所得・支出の好循環は持続すると考えられる。このため、わが国経済は、2回の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される」(展望レポート)

と、「根拠なき憶測」と「希望的観測」を繰り返すだけの日銀に、日本の金融政策の舵取りをする資格があるのでしょうか。1980年代の澄田総裁から多くの日銀総裁を見て来た人間の感覚としては、現在の日銀総裁は、中央銀行総裁としては最もふさわしくない人物のように感じています。

◆ 日銀に必要なのは「量的質的緩和」ではなく「金融政策の質的向上」
失業率がFRBのフォワードガイダンスに近付く中で、失業率という数値上の画一的基準を見直し、「幅広い指標を考慮する」とする「質的基準」に変更したFRBと、経済の現状分析もせずに、オオムのように「2%の物価安定目標」という言葉を繰り返す日銀。

こうした中央銀行の能力の差が、NYダウ史上最高値を更新と、昨年の大納会で安倍総理が「アベノミクスは来年も買いです」と宣言してから10%以上下落している東京株式市場、という大きな差となって表れて来ているように思えてなりません。

今の日銀に必要なのは、「追加緩和」ではありません。「物価2%シナリオ」という、80年代の大手証券のセールストークのような時代遅れのスローガンを掲げるのを止めること、そして、「量的質的緩和」というお馬鹿なキャッチフレーズを取り下げ、「金融政策の質的向上」を図ることだと思われます。


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