論より気で動く!?~「アンバランスな思考」と「気づき」に欠ける「日本を代表する経済紙」

(2014年5月4日)
「ロンドンに住まいをさだめて間もなく、マレーシア人女性の大家さんと顔合わせする機会があった。一通りの挨拶が済むと、彼女はやおら尋ねてきた。『イングランド銀行が利上げするのはいつかしら?』
当方の職が経済記者だと、仲介した不動産会社から聞いていたとの由。不覚にも適切な答え持ち合わせていなかったが、当地では個人投資家が借金をして不動産を買い、賃料収入や値上がり益を手にするのがふつうの投資行動になっていると、再認識させられた」(4日付日本経済新聞 「羅針盤 投資マネーは論より気で動く」)

これも日本を代表する経済紙が政府と金融業界と組んで繰り広げている、「貯蓄から投資へ」というキャンペーンの一環なのでしょうか。

日本を代表する経済紙は、英国では「個人投資家が借金をして不動産を買い、賃料収入や値上がり益を手にするのがふつうの投資行動になっている」と、日本の個人投資家も、英国の個人投資家のように、借金をしてでももっと投資に積極的になれといいたいようです。

しかし、筆者には、とても無責任なコラムに思えてなりません。

「個人投資家が借金をして不動産を買い、賃料収入や値上がり益を手にする」というのは、30年前の日本でも見られた光景です。その結果のバブル崩壊局面では、日本を代表する経済紙も、地価上昇神話を前提にした日本経済のあり方をさんざん批判していたように記憶しています。

皆が借金をして投資に走る(バランスシートを膨らませて行く)経済の危うさを、日本を代表する経済紙は「過去からの教訓」として受け継がずにもう忘れ、またそこに戻れというのでしょうか。

また、「借金をして不動産を買う」と簡単に言いますが、これは貸手側の論理を無視したもので、「金融リテラシー」の低さを証明するような思考です。貸手側は、当然のことながら貸したお金が戻って来るかを入念にチェックします。ですから、借手側は貸手側より先に、貸手側のチェックに耐えられる投資なのかを検討する必要があります。1980年代のように、「値上がり益」を返済原資として考えてくれる貸手側は少なくなって来ているのですから。そして、こうしたチェックには「金融リテラシー」が必要不可欠ですから、「借金をして不動産を買う」ことを個人投資家に勧めるならば、それが出来るくらいまで「金融リテラシー」が高まるような報道をするのが、日本を代表する経済紙としての責任ではないかと思います。

日本の投資家の欠点は、バランスシート(貸借対照表)の「借方(資産側)」の論理ばかりにスポットライトが当てられ、「貸方(負債側)」の論理が軽視され過ぎていることです。「バランスシート」といわれる通り、会計的(経済的)には「資産側」と「負債側」はバランスしているのですが、投資家の思考は「資産側」に偏り過ぎ、全くバランスしていないのが実情です。そして、この「思考のアンバランス」こそが、日本の「金融リテラシー」が低水準に留まっている原因になっています。

日本を代表する経済紙が、本当に読者の「金融リテラシー向上」を必要であると考えているならば、ます、このような「思考のアンバランス」の解消に尽力するのが筋だと思います。さらに、今回のような「思考のアンバランス」に基づいたコラムなど掲載することは慎むべきです。

「いわば論より気づき。それこそが期待に訴えかけるアベノミクスの本質である」(同 日本経済新聞)

このコラムは、題名となった「論より気づき」という語呂の良い表現で締め括られています。しかし、実際に長年投資業務に携わって来た者としては、「ナメてんのか」と言いたくなるような物言いです。

「論」が伴わないものは「投資」ではなく「投機」でしかありません。幹となる「論」を身に付けているからこそ、何が「リスク」であるかが分かり、どの程度の「リスク」までとって良いのかの判断が出来るのです。幹となる「論」があるから「リスクを取る」という行為が成り立つことを理解する必要があります。

日本を代表する経済紙が、恥ずかしくもなく「投資マネーは論より気で動く」いう見出しを付けるのは、幹となる「論」を持っていないことを露呈したものでしかありません。

このコラムは「それこそが期待に訴えかけるアベノミクスの本質である」と分かったような台詞を最後に持って来ています。しかし、「気に訴えかける」ばかりで、「論に訴えかける」ことが出来ないことが「アベノミクスの本質的弱点である」ということに対する「気づき」がないところこそが、日本を代表する経済紙の最大の問題点であるように思えてなりません。

もし、マレーシア人の女性大家さんが、このコラムを読んで日本を代表する経済紙の「金融リテラシー」のレベルを知れば、二度と「イングランド銀行が利上げするのはいつかしら?」などと無駄な質問はしなくなるでしょう。このコラムの唯一の功績は、日本を代表する経済紙の記者達を、「適切な答え」を持ち歩かなくてならないというプレッシャーから解放してあげたことくらいかもしれません。

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