人目に触れない18面に掲載された「良質記事」と、3面の特集に掲載された「しょうもない記事」

(2014年5月5日)
5日付の日本経済新聞には、日本を代表する経済紙らしい「良質な記事」と、らしい「しょうもない記事」の両方が掲載されました。

「企業の内部留保は2012年度末で合わせて304兆円。しばしば300兆円余りの現預金を懐に抱えていると誤解され、消極経営の代名詞とされている」(5日付日本経済新聞 「景気指標 ~ 内部留保はどこに行ったのか」)

こちらは、久しぶりに遭遇した、日本を代表する経済紙らしい「良質な記事」でした。この記事で指摘しているように、企業の内部留保に関しては、「しばしば300兆円余りの現預金を懐に抱えていると誤解」されています。こうした誤解が生じるのは、日本では会計が特殊技能とされているために、多くの方が「内部留保=資産」だという錯覚を抱いていて、「内部留保=負債(資金調達)」だと夢にも思わないからです。

4日の拙ブログでも指摘しましたが、日本の「金融リテラシー」が低いと言われる大きな要因の一つは、会計上「借方(資産側)」と「借方(調達側)」でバランスが保たれているのに、多くの人が「借方(資産側)」にばかり注目してしまう悪癖がついているからです。

「目立って増えたのは長期保有株式である。98年度の59兆円から12年度の195兆円へと136兆円増加した。3倍だ。直近5年間の増加額は73兆円にのぼる」(同 日本経済新聞)

この記事の「良さ」は、金融危機のただ中にあった「1998年度末の101兆円に比べ9割近く増えた」「資本金1億円以上の企業の内部留保」が、何に使われたのかを客観的なデータで示しているところです。

現金は「ほぼ横ばい」、その他の流動資産も「254兆円から285兆円に増えたにすぎない」なかで、大きく伸びたのは「長期保有株式」であることを明らかにしています。

「もちろん、日本企業が銀行や他の企業との株式持ち合いを増やしたわけではない。リーマン・ショックや震災、超円高を背景に、企業が海外投資や海外M&A(合併・買収)を加速したのである」(同 日本経済新聞)

そして、このように「長期保有株式」が大きく増えた理由に言及し、さらに、

「国内の設備投資はリーマン後の落ち込みから立ち直れずにいる。その結果、有形固定資産は98年度の277兆円から12年度は241兆円に減少してしまった」(同 日本経済新聞)

という事実を紹介したうえで、

「日本政策投資銀行の調べでは、国内投資に対する海外投資の比率は13年度で45%にのぼる。製造業に限れば70%だ。内部留保を積み上げることがいけないのではなく、国内が設備投資の場として選択されないことが問題なのだ」(同 日本経済新聞)

と、「内部留保」を巡る問題点を明確にしています。そして、記事を次のような文章で締め括っています。

「安倍政権が成長戦略を軌道に乗せるには、何よりも国内に投資を呼び戻さないといけない」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙のアドバンテージは、某大なデータや情報を収集する能力が高いことですから、それを用いてこのように論理的に記事を構成していけば、読者の参考になる記事を提供することが出来るということです。

安倍総理はGW期間を利用して欧州を歴訪し、対日投資を訴えています。しかし、この「良質な記事」が指摘するように、まず安倍総理がやらなければならないことは、「国内に投資を呼び戻す」ことだと思います。

久しぶりに日本を代表する経済紙の「良質な記事」が掲載されたのと同日、それを打ち消すかのような、らしい「しょうもない記事も掲載されました。

「財務省の今年1~3月期の法人企業景気予測調査でも、利益配分のスタンスは『内部留保』が『設備投資』を上回る」(5日付日本経済新聞 「経営者、投資になお慎重」)

「留保はどこに行ったのか」という記事で身内が指摘していた、「しばしば300兆円余りの現預金を懐に抱えていると誤解され、消極経営の代名詞とされている」を地で行ったような記事を、恥ずかしげもなく掲載できるところが日本を代表する経済紙の「しょうもない」ところです。

企業の「利益処分」は、「株主への配当金」「役員賞与」「内部留保」の3つで、「設備投資」は「利益配分のスタンス」で論じるべきものではありません。「利益配分のスタンス」のなかで、「内部留保」と「設備投資」を比較するというのは、この記事を書いた記者、記事の掲載を判断した編集者が、会計を理解していないということを露呈したものです。

「内部留保」に関して、このような対照的な記事が掲載されてしまうのは、両記事の目的が異なるからだと思われます。

「ただ政策の後押しが必要と指摘し『法人税の減税や国家戦略特区を活用した規制緩和、人手不足の解消、円安の定着が欠かせない』と強調する」(「経営者、投資になお慎重」)

この「しょうもない記事」は、記事2行分もの長い肩書を持つエコノミストのコメントを引用する形で、法人税の減税などの「政策の後押し」の必要性を強調する形で結ばれています。つまり、この「しょうもない記事」は、「政策の後押し」の必要性を強調する目的で「内部留保」を利用しただけなので、もしこれが科学論文であったなら、捏造、改竄の疑いがあるとの誹りを受けても仕方ない内容になってしまったということです。

これに対して「内部留保はどこに行ったのか」という記事は、淡々と事実を積み上げて、論理的な結論を導き出しており、「結論ありきの記事」ではなく、「結論を導き出すための記事」になっているところが「しょうもない記事」との決定的な違いになっています。

日本を代表する経済紙が、久しぶりに本来目指すべき「結論を導き出すための記事」を掲載したのは、「内部留保はどこへ行ったのか」という記事が、ほとんど読者の目にふれない18面(12版)の「景気指標」のなかの目立たないところに掲載される記事だったからかもしれません。

これに対して「しょうもない記事」は、3面(12版)の「エコノフォーカス」という毎週月曜日に掲載される特集記事の露払いのような、本体の記事を引き立たせるための重要な役割を果しています。

珍しく日本を代表する経済紙に「良質な記事」が掲載されたことは喜ばしいことですが、「良質な記事」がほとんど人の目にふれることのない18面にしか掲載されないところに、日本を代表する経済紙の本質的問題があるように思えてなりません。

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