世界の目が「質」に移る中で取り残される日本 ~「質」の低過ぎる政策と総理スピーチ

(2014年5月7日)
◆ 美し過ぎた米雇用統計
「美し過ぎたがゆえの反応」とでもいったらよいのでしょうか。

2日に発表された4月の米国雇用当統計は、失業率6.3%、非農業部門雇用者数28万8000人増と、市場予想を大きく上回る結果となりました。雇用者数は過去2ヶ月分も上方修正され、大雪の悪影響を殆ど受けなかったことが示されました。

単純に考えれば、米国経済が想定以上に強いことが示されたわけですから、金融市場は米国の量的緩和規模縮小継続、利上げ早期化を織り込む形で、長期金利上昇、ドル高、株高に動くのが自然だったはずです。しかし、市場の反応はそう単純なものにはなりませんでした。長期金利は低下し、ドルは弱含み、株価は依然として史上最高値圏に留まっているものの、6日は100ドルを超す下げとなりました。

こうした市場の反応から推測されることは、雇用統計は、市場にとって「単純に信じるには良過ぎる」ものだったということです。

余りに表面的な統計が良過ぎたが為に、何か特殊要因が隠されているのではないかといった感じで、市場の関心は直ぐに統計の中身に向かってしまったようです。そうやって中身を見て行くことで、これだけ雇用が増えているのにもかかわらず賃金は全く増えていない、これだけ失業率が低下した裏には労働参加率が62.8%と、1978年以来の低水準にまで下がってしまったということがある、といった金融政策では解決が難しい問題が炙り出され、表面的な「統計数値」だけで判断してはいけないという考えが広がっていった感じです。

「美し過ぎる統計に棘」があったとしても、イエレンFRB議長は、フォワードガイダンスから失業率を外し、「雇用の質」に目を向けて金融政策を行っていく方針を示していましたから、それが市場の下支え要因になってもおかしくなかったと思います。

米国の雇用の回復が緩慢であれば、金融緩和規模縮小のペースが遅くなったり、政策金利の引き上げ時期が後ろにずれたりするなど、金融市場にとって悪材料にはなり難い状況でした。

反対に、雇用の回復が堅調に見えても、「雇用の質」を重視するイエレン議長の下では、金融緩和規模の縮小ペースが早まることはないし、政策金利引き上げまでにも十分な時間的余裕があると市場が考えても不思議ではない状況でした。

つまり、雇用統計が良くても悪くても、それほど金融市場に動揺を与えるような状況にはなかったと言えます。しかし、今回の雇用統計は、市場に動揺を与えるところまでは行きませんでしたが、市場を困惑させる材料にはなってしまいました。

市場が困惑したのは、FRBと市場が共に「雇用の質」に目を向けてしまったことに原因があるように思います。予想以上の改善を示した雇用統計が市場の目を「雇用の質」に向けさせ、その結果市場は、金融政策で「雇用統計の改善」は図れても、「質の改善」は必ずしも達成されないという現実を悟ったという感じかもしれません。もしそうだとしたら、市場の困惑は、「質の改善」を図る可能性のある政策、手段を見つけられるまで続くのかもしれません。

◆ 何時までも「質」よりも表面的な「統計数字」を強調する安倍総理
金融市場の目が、表面的な「統計数字」から「質」へ向けられ始めたことなど気付く由もない安倍総理は、訪問先のシティで、「雇用関係の統計は、すべて上向きです。有効求人倍率は、6年半ぶりの高水準。大学生の採用数を増やす企業が、次々現れています」(官邸HP 「シティ主催歓迎晩餐会 安倍内閣総理大臣スピーチ」)と、非正規雇用者の比率が低下しているなど「雇用の質」などは無視し、表面的な「統計数字」を並び立てて、「ドリルの刃は、最大速度で回転しています」とアベノミクスの成果を強調しました。

もし、世界の投資家の目が、表面的な「統計数字」から、経済の「質」に注がれるようになって来ていたとしたら、安倍総理の演説は、全く的外れ、時代遅れのものに聞こえたとしても不思議ではありません。

金融市場が日々変化して行く中で「ドリルの刃」でぶち壊さなければならないのは、1年半も同じ「アベノミクス3本の矢」「デフレ脱却」というネタが海外の投資家に通用すると思い込んでいる総理の固定観念だと思われたとしても不思議ではありません。

◆ ECBは表面的な「統計数字」と「質」とどっちを優先するか
今週の注目材料は8日のECB理事会です。ユーロ圏の4月の消費者物価指数(CPI)は、3月の前年比0.5%からは回復したものの、同0.7%と、ECBが「危険領域」とする1%を下回っている上、OECDから「あまり前例のない直接的な表現を用い、ECBの主要政策金利を現在の0.25%から『ゼロに引き下げるべきだ』と要求」(7日日本版ウォール・ストロート・ジャーナル)が突き付けられています。

ユーロ圏のCPIが低水準である理由は、「長期間のリセッションと歴史的な失業率の高さにより経済が弱い状態にあること」(4/30ロイター)なのですが、CPIの低下を防ぐことを最優先するのであれば、利下げによってユーロ安を起こし、表面的にCPIを上昇させることも有力な選択肢となります。

しかし、ドラギECB総裁は、「ユーロ圏が日本のように深刻なデフレに陥るリスクは少ない」と発言して来ていますから、そうそう簡単に利下げには踏み切ることはないと思われています。

また、ドラギECB総裁が、イエレンFRB議長が失業率という表面的な「統計数字」から「雇用の質」に金融政策の基準をシフトさせているのと同様に、CPIという表面的な「統計数字」から「物価上昇の質」に基準を移しているとしたら、ECBが利下げに動く可能性は高くないと言えます。

ECBが、日本の「失われた20年」と同様に、「アベノミクスの1年」も研究して来ているとしたら、表面的なCPIを押し上げる目的でコストプッシュ・インフレを起こして「デフレ脱却」とはしゃぐ危険性に気が付いていることは間違いありません。

安倍総理が欧州歴訪をし、アベノミクスの成果を高らかに宣伝して来た直後、さらには、OECDから異例の利下げ要求を受けた中で、ECBがどのような判断を下すのかは、ECBがCPIの数字自体を「目標」としているのか、CPIを経済状況の「結果」として見ているかを知るうえでも興味深いものです。

◆ 「政策の質の低さ」と「総理スピーチの質の低さ」
連休明けの東京株式市場は、400円を超える大幅下落となりました。日本を代表する経済紙は、電子版で「円高」や「米国株安」、「ウクライナ情勢」、「OECDによる景気見通しの下方修正」などを大幅下落の原因に挙げて報じています。日本を代表する経済紙の、何があってもアベノミクスに都合の悪い「原因は国外にあり」と全くブレずに「質の低い」報道を続けるその潔さには、頭が下がるばかりです。

しかし、世界の政策当局と海外投資家の目が表面的な「統計数字」から「質」に向けられつつある中、何時までも「質」に目を向けずに「2%の物価安定目標」という表面的な「統計数字」に拘り続ける日本に対する失望感が高まってくるのは当然のことだと思います。

日本国内では日銀による「追加緩和」に対する期待が高く、日銀が「追加緩和」に踏み切れば、為替も円安に振れ、日本株も上昇基調を取り戻すという見方が根強く残っているようです。しかし、世界の投資家の目が、表面的な「統計数字」から「質」に移っているとしたら、日本経済の「質」とは関係なく、表面的な「統計数字」を取り繕うことを目的とした日銀の「追加緩和」に期待を寄せる海外投資家は少なくなって来ている可能性があると考えておいた方が賢明です。

日本経済の「質」に目を向けずに、一発屋芸人のように何時までも「アベノミクス3本の矢」という演説を繰り返す安倍総理。「政策の質」と「スピーチの質」の低さが、日本株低迷の大きな原因となっている可能性に何時気付いてくれるのでしょうか。


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