ブラマヨの不愉快な仲間 ~「論理的思考能力」に欠けた「経済スペシャリスト」が勧める「金融投資」

(2014年5月12日)
◆ 「25年後に積立金が底をつく」ことが分かっているということは…
10日に放送された「ブラマヨとゆかいな仲間たち」。普段は見ない番組なのですが、奥様が録画をしていたのを見たところ、テーマが「年金」でしたので、思わず見てしまいました。

「将来的に年金制度は崩壊します。2040年くらいには積立金がなくなり、事実上年金制度は崩壊します」

「経済スペシャリスト」として解説していたのは、バラエティ番組でも人気のある専門家の方でした。しかし、残念ながらその内容は、とてもその肩書に相応しくない内容でした。

年金というのは、将来必要となる給付額(債務)は、年齢構成や平均寿命などのデータに基づき一定の誤差内で推計することが可能です。その確実性は、当てにならない専門家の株価や為替の予想に基づいた運用利回り(資産)とは比較にならないくらい高いといえるものです。

将来必要となる給付額がかなりの精度で把握できるということは、それを支払うために今持っていなければならない積立金の必要額も、一定の確度で推計することが出来るということです。

今、公的年金の積立金残高は約130兆円です。この積立金が、現役世代が保険料を払い続けても「25年後に底をつく」ということは、「現時点で年金制度が崩壊している」ということと同じです。「25年後に積立金が底をついた時」に年金制度が崩壊するのではなく、「25年後に積立金が底をつく」ということがかなりの確度で見込まれた時点で「年金制度は崩壊している」と捉えるのが専門家の考え方のはずです。

【参考記事】 何故厚生年金基金だけが「大解散時代」を迎えたのか ~ 公的年金を「将来の危機」にすることで生じるメリット

この「経済のスペシャリスト」は、「年金制度が崩壊する」のは、政治が「抜本的改革を先送りしている」からだと指摘していました。しかし、「抜本的改革」とは一体何なのかについては、直接には触れませんでした。

「25年後に年金制度が崩壊する」ことがかなりの確度で見込まれた場合に打てる手立ては、「年金保険料(掛金)を大幅に引き上げる」「年金給付額を大幅に引き下げる」「積立金を分配できる段階で公的年金制度を止める」のどれかになります。

この「経済のスペシャリスト」は、番組内で「今の高齢者、社会保障で一番メリットを受けているのは高齢者ですから、彼らから怒られるのが嫌だから、みんな抜本的改革を先送りにしている」と発言していますから、このスペシャリストの言う「抜本的改革」というのが、「年金給付額の大幅引き下げ」を指していることはほぼ間違いありません。

◆ 「経済のスペシャリスト」か、はたまた「往年の証券マン」か
また、年金システムが崩壊することが見込まれる中、この「経済のスペシャリスト」は、「自分の身は自分で守る」べきだと、「金融投資」の重要性を強調されていました。そして、「元手が1,000万円あったとしましょう」と、非現実的な前提をおいた上で、24年後の資産額の比較を紹介し始めました。

「現金のままだと1,000万円、1%で運用したとすると1,270万円、3%だと2,000万円、5%だと3,200万円。これだけ差が出るんですよ。現金を持っていても増えない。年金制度が崩壊したら大変」

こうした「単なる計算結果」の羅列を「金融投資」の必要性の根拠として挙げて語る姿は、往年の証券会社のセールスマンを髣髴させるものでした。しかも、「これだけ差が出るんですよ」と力説する前には「運よく5%で運用出来たら」というヘッジ文言まで付けて。

◆ 「金融リテラシー」の問題ではなく「論理的思考能力」の問題
こうした「経済のスペシャリスト」の話しを聞いていて感じたことは、もはや日本が懸念すべき問題は「金融リテラシー」の域を超えて、「論理的思考」の問題になって来ているということです。

この「経済のスペシャリスト」は、「金融投資のリスク」について、「金融投資は、ある程度リスクを避けるようにしたうえでやっていくことが大切だ」、「経済の知識を身に付ける必要がある」と真顔で解説されておりました。

一見尤もらしい解説に聞こえるかもしれませんが、こうした「非論理的な解説」が通用してしまうところが今の日本社会の問題点だと思います。

今、公的年金の運用は、安全資産である国債の比率を落し、株式などリスク資産を増やす「改革」を行おうとしています。これは、年金給付という「債務側」の改革が政治的に難しいので、「改革」という名のもので「資産側」のリスクを増やして、「運よく5%の利回り」を得ようという「とらぬ狸作戦」です。

仮に、この「経済のスペシャリスト」が指摘するように「2040年くらいに積立金がなくなる」ということは、今示されている年金運用改革では「運よく5%の利回り」を得られるような運用が出来ないと言っていることと同義です。

リスク資産を増やす金融投資で「運よく5%」の利回りが得られずに年金制度が崩壊に追い込まれたとき、「自分の身は自分で守れ」と主張する「経済のスペシャリスト」の教えを信じて、「運よく5%の利回り」を求めて「金融投資」を始めていた一般投資家がいたとしたら、その人の運命はどうなるのでしょうか。論理的に言えば「共倒れ」、つまり、「自分の金融資産は目減りし、年金も貰えなくなる」という状況に陥る可能性が高いということになるはずです。

「経済のスペシャリスト」がいうように、「経済の知識を身に付ける」ことで「ある程度リスクを避けられる」のであれば、近い将来年金制度が崩壊するということは、現在公的年金運用改革に携わっている、日本を代表する大学の教授やシンクタンクのエコノミストという「立派な肩書を持った専門家」達の「経済の知識」が不足しているといっているに等しいものです。

個人的には、ある面では正しいと思いますが、一般人が彼らよりも「経済の知識を身に付ける」ことは、現実的にほぼ不可能とであることも確かだと思います。

「経済の知識を身に付けることで、金融投資のリスクを回避出来る」という仮定が正しいとしたら、「近い将来年金制度が崩壊する」可能性はこの「経済のスペシャリスト」が言うほど高いことにはなりません。

また、「近い将来年金制度が崩壊する」という仮定が正しいなかで、「経済の知識」が十分でない一般の人が「運よく5%の利回り」を得ることが出来るのだとしたら、「経済の知識を身に付ければ、ある程度のリスクは避けられる」という命題が間違っていることになります。

どちらにしても、この「経済のスペシャリスト」の解説は「非論理的」ということです。こうした論理的におかしい解説がまかり通るということは、日本社会全体の「論理的思考能力」が落ちて来ている可能性を示すものです。どんなに「経済の知識」を身に付けても、どんなに「金融リテラシー」を身に付けても、「論理的思考能力」が欠けていれば「宝の持ち腐れ」でしかありません。

この「経済のスペシャリスト」は、「日本の政治は若者の力で変えられる」「若い世代の利害を代表する政治家がもっと増えないといけない」とも主張されておりました。

こうした主張には完全に同意します。しかし、その目的が、「社会保障で一番メリットを受けている高齢者」に対する年金給付額を大幅に削減するという「抜本的改革の実行」なのだとしたら、余りに寂しすぎるような気がしてなりません。


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