物価連動国債個人保有解禁 ~ でっち上げられるニーズと「格差社会」へのプロローグ

(2014年5月14日)
「財務省は13日、物価変動に応じて元本がかわる物価連動国債の保有を2015年1月から個人投資家に認めることを決めた。連動債はインフレになっても実質の価値が目減りしない商品。脱デフレの足音が近づくなかインフレから資産を守りたい個人の需要は大きいと判断した」(14日付日本経済新聞 「連動債で備え」)

財務省は、「個人の需要は大きい」という理由で、物価連動債の個人向け発行を解禁しました。物価連動債は、アベノミクスによる「インフレ期待」のたかまりを受けて、昨年度から発行が再開された国債です。特徴は、生鮮食品を除くコアCPIの上昇に応じて元本が増加して行くというもので、昨年度発行されたものから満期日のCPIに関らず「元本保証」が付けられていることです。

物価連動国債を購入する側にとって、「元本保証」が付けられているということは、例え償還時にデフレ(発行時と比較してコアCPIが下落)になっても元本は目減りしないということですから、物価が上昇した際には受け取れる元本とそれに伴う利子が増え、最悪でも元本割れはしないというありがたい商品です。

一方、発行する側に立ってみると、本来ならばインフレは借金を減らす効果がありますが、物価連動国債はインフレに連動して借入元本(償還元本)が増えてしまいますから、インフレによる借金減額効果はありません。さらに、「元本保証」を付けたことでデフレになった場合には、モノよりも価値の高いお金を、当初元本と同額払わなければいけませんから、実質的な返済負担を増やすことになります。つまり、インフレになってもインフレによる借金減額効果は期待できず、デフレになった場合には実質借金負担が増えるという、借入側にはほとんどメリットのない商品です。

発行する側に何のメリットもない物価連動債を発行する理由の一つは、物価連動国債の発行規模は、2013年度が6,000億円、2014年度が1兆6000億円と、1,000兆円に近い国債発行残高と比較すれば、微々たるものですから、発行する財務省にとってはどうでもいいということです。

日本を代表する経済紙では、財務省は「インフレから資産を守りたい個人の需要は大きい」と判断したと報じられています。しかし、本当に物価連動国債のニーズが高いのだとしたら、機関投資家から大量の発行希望があるのが当然です。僅か6,000億円程度しか発行されていない国債では、何のインフレヘッジにもなりませんから、本気でインフレヘッジを考えているなら、もっと大量に必要とする筈なのですから。

しかし、実際には約130兆円の公的年金を運用するGPIFが物価連動国債での運用を始めることを表明した割には、盛り上がりに欠けているという感じです。消費増税の影響や、来年に予定されている追加消費増税が実施されるのかという不確定要素が多過ぎますから、この時期に物価連動国債に積極的に投資する機関投資家は殆どいないのは当然のことでもあります。

機関投資家にとっては、インフレヘッジをするなら、株式や不動産に投資すればいいわけですから、物価連動国債など管理のややこしい商品に投資する必要性はあまり高くないとも言えます。また、今年に入り、その代表的なインフレヘッジ商品である株式が下落していることからすると、世の中のインフレヘッジニーズが、財務省が考えるほど高いかは疑わしい限りです。

「インフレが来るぞ」というオオカミ少年の言葉を信じるのは、政府の息のかかったGPIFと個人位しかいないということではないかと思います。

物価連動国債の個人保有解禁を喜んでいるのは、個人投資家よりも、「インフレヘッジ」「元本保証」という尤もらしいセールストークを存分に使える販売業者であることは想像に難くありません。財務省は「販売業者のニーズ=個人投資家のニーズ」と勘違いしているのか、あるいは、「販売会社の都合」に合う商品であれば、「個人投資家のニーズ」、幾らでもでっち上げられると、高をくくっているのかもしれません。

財務省が世の中のニーズに関係なく物価連動国債を発行するもう一つの理由は、世の中の「期待インフレ率=国債利回り-物価連動国債利回り」を都合よく利用したいからです。

国債利回りは日銀が大量購入することで低めに抑えることが出来る一方(実際には世の中のインフレ期待が低いから10年国債利回りが低いのであって、日銀の大量購入が国債金利を低く抑えているわけではありませんが)、政府の息のかかったGPIFが投資対象に加えたことと、物価連動国債に馴染の低い個人投資家が販売会社のセールストークを信じて高く買い上げれば、「期待インフレ率」を高く見せる操作が可能な状況にあります。

「期待インフレ率」が高く見せられれば、安倍総理は声を大にしてこう叫ぶはずです。

「期待インフレ率は確実に上昇して来ているではありませんか。デフレ脱却が進んでいるんです」と。

「インフレから資産を守りたい個人」は確かにいると思います。しかし、それは「資産を持っている個人」です。

物価連動国債の個人保有解禁は、「インフレから資産を守りたい個人」には「資産家」という立場を維持する手段を提供し、「インフレから生活を守りたい個人」には「デフレ脱却が進んでいる」「全国津々浦々まで景気回復の実感をお届けする」という、総理のありがたいお言葉だけで満足してもらうという時代になって来たということを象徴するものでもありそうです。

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