的外れの公的年金運用改革 ~ 運用成績改善のために、GPIFが「モノ言う株主」になる必要があるのか?

(2014年5月22日)
◆ 「モノ言う株主」か、「モノ言うだけの株主」か
「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が『モノ言う株主』に一歩近づく。これまで委託先の運用会社に任せていた投資先企業の株主総会での議決権行使について、新たに指針をつくる。運用会社は今後、この指針に沿って賛否を判断する。GPIFは株式の運用を増やす見通しで、投資先への関与を強めて運用成績の改善を目指す」(22日付 日本経済新聞 「公的年金、モノ言う株主へ」)

「モノ言う株主」…。2000年代になり、村上ファンドなどが脚光を浴びたことによって、資産運用業界でも注目を浴びるようになりました。筆者が在籍していた国内運用会社でも、2000年代前半に世の中の時流に乗り遅れてはならないとばかりに、投資先企業の株主総会での議決権行使について、議案ごとにどうするかを打ち合わせるような会議が立ち上がった記憶があります。

「モノ言う株主」というと、尤もらしく響くかもしれませんが、筆者は公募投信や年金資金を運用する運用会社が「モノ言う株主」になることにどれほどに意味があるのか、大いなる疑問を感じています。

それは、株主の議決権というのは、保有比率によって行使出来る権利が法的に決められており、最低、特別決議を否認できる3分の1以上の議決権を保有しなければ企業経営に直接関与することは出来ません。

「GPIFは世界最大の年金基金で運用資産は129兆円(2013年末)。投資顧問や信託銀行を通じて、22兆円を国内株式に投資している。GPIFは東京証券取引所第1部に上場する約1800社のほぼ全ての株式を持っているとみられ、運用会社を通じて議決権を行使する議案は12年度で17万8000件」(同 日本経済新聞)

GPIFは資産規模約130兆円の世界最大の機関投資家で、その内22兆円を国内株式に投資しています。しかし、この22兆円という規模は東証第一部の時価総額の5%程度(時価総額と議決権との比率は一致しませんが)で、法的にはGPIFだけでは「モノ言う株主」にはなり得ない状況にあります。

原則、総議決権の1%以上を保有していれば、株主総会に議案を提出する「株主提案権」は持てますから、「モノ言う株主」になることは十分可能です。しかし、提出した議案が承認される可能性がないのであれば、それは「モノ言うだけの株主」でしかありません。

法的に「モノ言うだけの株主」にしかなれないのが明らかな中で、「モノ言う株主」であるかのようなポーズをとるために、多大なコストを掛けることに何の意味があるのでしょうか。そもそも「東京証券取引所第1部に上場する約1800社のほぼすべての株式を持っている」GPIFが、「運用会社を通じて議決権を行使する議案は12年度で17万8000件」を精査するために、時間とコストを掛けることによって、「運用成績改善」に繋がるという検証をしたのでしょうか。

◆ 「その企業に投資しない」という権利
GPIFが「モノ言う株主」というお化粧をするためのコストは、運用委託先の運用報酬の引き上げに繋がるものですから、個人的には、M&Aとか、事業譲渡とか、特別な議案以外に時間とコストを掛けるのは無駄でしかないと思っています。

GPIFは投資家として「その企業に投資しない」という選択肢を持っているのですから、経営改善を求める必要があるような企業には投資しなければいいだけの話しです。GPIFは耳触りがいいだけで収益改善に役に立たない「モノ言う株主」などを目指すのではなく、「投資しない」という権利をもっと有効に使うことを考えるべきです。

世界最大の機関投資家であるGPIFから「投資しない」と見做された企業の株価は低迷することで、資本調達コスト上昇というハンディを負うことになります。ですから、GPIFは「投資をしない」という投資判断をするだけで、間接的に企業に経営改善を迫ることが出来るパワーを持っているのです。議決権を行使したところで、「モノ言うだけの株主」にしかなれず直接的に経営に関与できないのですから、時間とコストを掛けて「モノ言う株主」になることを目指すよりは、「モノも言わず株主ではなくなる」ことで影響力を発揮することを目指した方がよっぽど効率的であるように思います。

そもそも、GPIFが「東京証券取引所第1部に上場する約1800社のほぼ全ての株式を持っている」のは、東証第1部に上場する企業全てが魅力的な投資対象になっているからでも、東証第1部に上場する企業に経営改善を求めるためでもありません。殆どの銘柄は、TOPIXをベンチマークとしたパッシブ運用(インデックス運用)をしているから保有しているのですから、そのような企業の経営改善のために貴重な時間とコストを掛けるのはナンセンスでしかありません。

◆ TOPIXをベンチマークとした運用を止めるのが運用改革の第一歩
「ROE重視の動きは指数で見ても鮮明。資本効率が高い銘柄などで構成する『JPX日経インデックス400』(JPX日経400)の3月末からの下落率は3.7%と、同期間のTOPIX下落率(4.4%)を下回る」(22日付日本経済新聞 「高ROE銘柄、株価底堅く」)

もし、GPIFが議決権を行使して経営改善を迫ることで「運用成績の改善を目指す」ことが出来ると考えているのであれば、TOPIXを対象としたインデックス運用を、高ROE銘柄で構成したJPX日経400のインデックス運用に切り替えれば済む話です。TOPIXからJPX日経400に切り替えることで「ROE重視の動きは指数で見ても鮮明」なほど運用成績が改善出来るのであれば、12年度で17万8000件にも及ぶ議決権の議案を時間とコストを掛けて検討するのは時間の無駄以外にありません。

資本効率が高い銘柄の方が、パフォーマンスが良くなるという考えに立つのであれば、高ROE銘柄で構成されたJPX日経400指数がTOPIXを上回るということになります。そうであるならば、「運用成績の改善を目指す」ためには投資対象をTOPIXからJPX日経400に切り替えるのが論理的な判断だということになります。

さらに、TOPIXをベンチマークとしたアクティブ運用は、全く無意味ということになります。何故なら、JPX日経400というインデックス自体がTOPIXを上回るためにROEという指標に着目したアクティブ指数で、TOPIXを上回る収益を上げるために構築されるポートフォリオそのものだからです。

【参考記事】 新指数「JPX日経400」がもたらす効果 ~ 付加価値を奪うか、リスクを高めるか

ですから、GPIFは、TOPIXをベンチマークとしたインデックスファンド(2013年3月末時点13.8兆円)と、TOPIXを上回る収益を目指すアクティブファンドは全て解約し(同3.7兆円)を、JPX日経400に連動するインデックスファンドか、JPX日経400を上回る収益を目指すアクティブファンドに切り替えることが、「運用成績改善を目指す」GPIFにとっての論理的な判断ということになります。

現在TOPIXをベンチマークとしたインデックス運用とアクティブ運用の多くを、JPX日経400をベンチマークにしたインデックス運用に切り替えることで、東証第1部に上場する約1800企業の約17万8000件に及ぶ議案をチェックするという無駄を省くことが出来ますし、アクティブ運用をするために委託先に支払っている高い運用報酬を削減することも出来ます。

◆ コスト高くして運用成績改善なし
日本を代表する経済紙は、「GPIFの改革の方向性」と題する表を掲載し、「運用のプロを採用する高い報酬:実施済み」、「投資先の経営を監視:夏にも開始」などなど、もっともらしい改革案を示しています。しかし、これらのほとんどは、資産運用の実務経験を持たない「有識者達」によって示された「机上の空論」に過ぎません。

これらの改革が実施された場合、GPIFが辿り着くゴールが「コスト高くして運用成績改善なし」というところとになることは想像に難くありません。今 GPIFに求められるのは、「アカデミックな机上の空論」ではなく、「資産運用の現実と本質」を見据えた議論です。

【アンケート調査協力のお願い】
議員と有権者の間の溝を少しでも埋める目的で、「政治家(主に議員)のSNSに関する調査」というアンケート調査をしております。簡単な設問ですので、是非ご回答頂くとともに、SNS等で拡散をして頂けたら幸いです。
現在までのところ、「30代」の方からの回答比率が低くなっております。30代の皆様にも是非ご協力頂ければと思います。


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