「質」の低い中央銀行の「贅沢な悩み」~「雇用増に結び付かない求人増」に基づく「人手不足社会」

(2014年5月25日)
ディスインフレと雇用問題に頭を悩ませる他の国々からしたら、「贅沢な悩み」といったところでしょうか。

「今回の景気回復が非製造業中心で雇用創出効果が強く、労働市場が引き締まっている点を日銀が民間より重視している影響があるのだろう。賃金が上がりやすく、物価を押し上げている」(24日付日本経済新聞 「日銀総裁インタビュー」)

少し前まで「需要不足社会」に悩んでいた日本。それが、何時の間にか中央銀行が「人手不足社会」を懸念するになっているようです。

「人手不足社会」を裏付ける材料として挙げられているのが「有効求人倍率」であり、「すき屋」や「和民」などが飲食業界の「人手不足」によって閉店に追い込まれていることです。しかし、こうしたことを理由に「人手不足社会」になって来ているという懸念を示しているのだとしたら、中央銀行の判断としては余りにも幼稚過ぎるような気がします。

「すき屋」や「和民」が「人手不足」によって店舗閉鎖に追い込まれたのは、経済的要因よりも企業固有の問題が高いことは明らかです。「すき屋」は「すき屋強盗」に見られるように店舗管理に問題がありましたし、「和民」も従業員の過労自殺事件などもありました。こうした企業固有のスキャンダルによって「和民」は2013年の「ブラック企業大賞」に選ばれましたし、「すき屋」を運営するゼンショーも2012年に「ブラック企業ありえないで賞」を受賞しています。

こうした、企業固有の要因を抱える両社が、従業員を十分に確保することが出来ずに、閉店や営業時間の短縮を迫られたことを、日本を代表する経済紙などが、中央銀行が主張する「人手不足社会」を裏付ける証拠に持ちだすというのには驚かされるばかりです。

日銀が「人手不足社会」だとする統計的な裏付けは、「有効求人倍率」が1倍を超えて来ていることです。実際に、季節調整済みの「有効求人倍率」は2013年11月に6年ぶりに1倍を超えてから2014年3月まで5か月連続で1倍越えを記録しており、3月時点では1.07倍と、2007年6月以来の水準まで上昇して来ています。

この「有効求人倍率1倍超え」は、マスコミ等でも大きく取り上げられていますが、不思議なくらいその中身、「質」についてはほとんど報じられていません。

「有効求人倍率」は3月時点で1.07倍まで回復して来ていますが、この指数は「含むパート」のものです。「有効求人倍率」統計では、その他に「パート」と「除くパート」も公表されています。これらの統計を見てみると、「有効求人倍率(パート)」が3月時点で1.36倍であるのに対して、「有効求人倍率(除くパート)」は0.94倍と、未だに1倍未満となっています。

つまり、日銀が「人手不足社会」だとする重要な根拠として強調している「有効求人倍率」は、「パート」の「有効求人倍率」によって嵩上げされているのです。

さらに、忘れてならないことは、「有効求人倍率」というのは、あくまで「求人」であって、「雇用」を示すものではないということです。実際に雇用に至った「契約件数(含むパート)」の推移を見てみると、3月時点では178,963件と、日銀が「異次元の金融緩和」に踏み切る直前の2013年3月時点の187,157件から8,194件も減っています。

人手不足社会?

つまり、「有効求人倍率」が「パート」によって嵩上げされているだけでなく、その「求人増」は「異次元の金融緩和」以降も全く「契約増」に結び付いていないということです。「雇用増に結び付かない求人増」を以て「人手不足社会」を叫ぶ日本の中央銀行。失業率が改善し雇用者数増加も見られる米国でFRBが「雇用の質」を問題にしているのとは大きな違いです。

日銀が臆面もなく、「ブラック企業」固有の要因による「人手不足」問題から、「雇用増に結び付かない求人増」までも「異次元の金融緩和」の「成果」として強調するということは、そうしなければならないほど日銀が「成果」に飢えているということの表れかもしれません。それは、それだけ「異次元の金融緩和」が「成果」に乏しい政策であることの証明でもあります。

「雇用の質」に目を向けるFRBと、「雇用増に結び付かない求人数」を「成果」として強調する日銀。こうした「中央銀行の質」の違いによる信頼の差が、そのまま史上最高値を更新する株式市場と、世界で最も低迷する株式市場という差になって表れて来ているように思えてなりません。

統計の中身を検討もせずに「人手不足社会」懸念を叫ぶ日銀総裁と、それを一面で大々的に報じる日本を代表する経済紙。これらのことが世界中の投資家に示したことは、中央銀行と日本を代表する経済紙の「質」だったということのようです。
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近藤駿介

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