「既得権益」の塊と化した公的年金運用 ~素人運用委員長が振りかざす、的外れな「説明責任」

(2014年6月3日)
◆ プロの必要性が叫ばれる年金運用の分野に誕生した素人監督
資産運用会社が、年金資産の運用を委託する際に必要不可欠なものは「運用実績(運用成果=トラックレコード)」です。公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、運用委託先の選択基準に「年金運用資産規模」も条件に付けています。ようするに、多くの年金基金から資産を預かれる「信用」と「実績」を持っている運用会社でないと、公的年金の運用には携れないということです。当然、GPIFの運用委託先には、国内外の大手運用会社と信託銀行がずらりと名を連ねています。ベンチャー投資にも乗り出すといわれているGPIFは、運用委託先にベンチャーを選ぶことはないのです。

GPIFの運用委託先には「運用実績、トラックレコード」が求められるのに対して、その運用方針を決める政府の有識者会議のメンバーや、運用委員長には何の「運用実績」も求められず、必要なのは「肩書」だけだという現状には大きな疑問を感じます。GPIFの新運用委委員長がいくら「企業金融や年金資金運用が専門」といっても、あくまで「研究」「お勉強」の世界のお話しで、現場を知っているわけではありません。プロの必要性が強く叫ばれている年金運用の分野で、監督に未経験者を据えるというのは、サッカーゲームの上手い人をプロサッカーチームの監督に据えるようなものです。

資産運用の分野の代表的な理論に「資本資産評価モデル(CAPM)」というのがあります。詳細は割愛しますが、この理論は「9つの仮説」の上に成り立っています。

参考までに幾つか例を挙げると、「売買手数料などコストはかからない」「全ての証券は幾らでも小さい単位で売買可能」「個々の投資家の行動は市場に影響を及ぼさない」「資産の収益率は正規分布」「投資家は証券の収益率に関して同一の予想を持つ」…。

こうした「非現実的な仮説」に立った運用理論を、投資家よりも詳しく「研究」「お勉強」した人ならば、いい運用が出来るという理屈にはどの位の説得力があるのでしょうか。

「投資家は証券の収益率に関して同一の予想を持つ」という仮説が成り立つならば、日本を代表する経済紙が行っている「日経平均ダービー」や「円ダービー」という企画は成り立ちませんし、そもそも運用委託先の「運用実績」に差が出ることはあり得ないことです。長年運用に携わって来た経験から言えば、こうしたお伽話のような運用理論を知っていることは必要なことです。しかし、これを知っていることが「運用の専門家」を意味するわけでもありませんし、目的に合った運用が出来ることとも別次元の問題です。

◆ 的外れな「説明責任」
 「確かに(GPIFの運用変更を市場が先取りするため)多少は損をするかもしれない。しかしGPIFには(公的年金の資産を預かっており)説明責任がある。仕方がない」(3日付日本経済新聞 「株・海外資産に重点」)

「企業金融や年金資金運用の専門家」としてGPIFの運用委委員長に就任した米沢早大教授は、「先に計画を発表すると、GPIFが買い増す予定の資産が値上がりしてしまう」 という記者の質問に対して、このように答えています。

米沢委員長の論理は、公的年金の資産を預かるGPIFは「説明責任」を負っており、それを果すために「GPIFがいつまでにどの資産の比率を何%に引き上げるという工程を示し、それに従って売買を進める」必要がある。それによって「(GPIFが)多少損をする」ことは「仕方がない」というものです。

この発言を聞いて感じることは、米沢委員長は、公的年金の資産を預かるGPIFの「説明責任」を勘違いしているということです。

「現在12%としている日本株の基本比率は、『20%というのも高すぎるハードルではないかもしれない』とし、大幅な引き上げを検討する意向を示した」(3日付日本経済新聞 「株運用8月にも方針」)

GPIFの「説明責任」を強調する新委員長は、「現在の株価は割安である」という曖昧かつ個人的感覚を根拠に、日本株の基本比率の大幅な引き上げを検討する意向を明確にしています。

130兆円近い規模のGPIFの収益を決める最大の要因は「資産配分」ですから、GPIFの運用委員長としてまず果たさなければならない「説明責任」は、「何故日本株の基本比率の大幅な引き上げを行うのか」「何故20%というのも高過ぎるハードルではない」と考えるのか、という根拠を示すことであって、「GPIFがいつまでにどの資産の比率を何%に引き上げるという工程を示し、それに従って売買を進める」ことではありません。

何故日本株の基本配分を現在の12%から20%を超える水準にまで引上げる必要があるのかという点において「説明責任」を果せば、「GPIFがいつまでにどの資産の比率を何%に引き上げるという工程を示す」ことなど、負う必要のない「説明責任」でしかありません。

必要な「説明責任」から国民の目を逸らすために、不必要な「説明責任」を持ち出した上に、「多少の損は仕方がない」というのは、とても「年金資金運用の専門家」として発言とは思えないものです。

◆ 国民のためではなく、政府のための存在になったGPIF
「政府から要請があれば、8月に発表する可能性もある」(同)

GPIFの新運用委員長は「政府の要請」によって、GPIFの資産配分を前倒しで発表することも考えているようです。こうした発言は、経済や金融市場の動向ではなく、「政府の要請」に基づいてGPIFの資産配分の変更時期などを変えていく可能性があることを示唆したものです。

政府がGPIFの資産配分発表を8月に前倒しすることを検討しているのは、4月からの消費増税の影響が現れてくるなかで、「株価」を「国内景気」から切り離しておきたいという猿知恵を働かせているからであることは容易に想像がつくことです。「株価」と「国内景気」がリンクしたままだと、アベノミクスの唯一の効果である「株高」が失われてしまいかねないからです。「株高」が終焉してしまえば、高い支持率を維持することは難しく、そうなれば来年度に予定されている10%への消費税率引上げはもとより、安倍総理の最大の目標である「集団的自衛権の憲法解釈変更」などの「政治的悲願」を自分の手で実現出来なくなるリスクが高まるからです。

2013年1月の「政府・日本銀行の政策連携」と称する共同声明によって中央銀行が政府からの独立性を失い、お友達人事によって「政府が右と言っているのに左と言えない」とする人物が公共放送の会長に就任したのに続き、公的年金の運用を行うGPIFまでもが「政府の要請」に従う機関に成り下がろうとしています。

日本の公的年金制度は、「年金資金運用上は破綻している」ことは「年金資金運用の専門家」である新運用委員長なら十分にご存知のはずです。それに伴って、GPIFの運用自体が、霞が関や永田町、そしてそのステークホルダー達にとっての「既得権益」になっているということも十分認識されているはずです。

【参考記事】
ブラマヨの不愉快な仲間 ~「論理的思考能力」に欠けた「経済スペシャリスト」が勧める「金融投資」
何故厚生年金基金だけが「大解散時代」を迎えたのか~公的年金を「将来の危機」にすることで生じるメリット  

国民は、自分達の大切な老後の資金が、このまま「政府の要請」によって都合よく使われていくことを容認するか、「年金資金運用上は破綻している」という事実を受け入れ、公的年金制度を廃止して私的年金制度に移行する等、他の選択肢を模索するかの岐路に立っていることを覚悟するべきかもしれません。

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