「公的年金、お前はもう死んでいる」~「運用利回り」を高くして生きているようにお化粧される「逃げ水公的年金」

(2014年6月4日)
◆「抜本改革」ではなく「倒産先送り」
「働く人が増え、高い経済成長を続け、運用で高い収益をあげ続ける――これらの前提が1つでも崩れれば所得代替率は50%を割り込む」(4日付日本経済新聞 「年金『現役収入の半分』以下も」)

「3つの奇跡」が同時に起らないと、国が国民に約束して来た公的年金は給付できないということが、3日の厚生労働省の発表によって明らかになりました。

しかし、田村厚生労働大臣は「経済が成長し労働参加が進む前提では年金の安定性が保たれることを確認出来た」 ことに安堵しているようです。日本を代表する経済紙も「年金制度のもろさを浮き彫りにした」と指摘しつつ、年金制度を維持することを前提に、「抜本対策 急務に」と報じています。日本を代表する経済紙が「年金維持へ3つの道筋」として掲げる「抜本的対策は、「足元の年金の給付抑制」をしたうえで、「受給年齢、段階的上げ」「保険料納付、5年延長」「株式活用、利回り高く」というものです。

「公的年金の財政検証結果から見えてきたのは、年金制度と社会経済システムの改革を同時に進めていかないと将来十分な年金が受け取れなくなるという現実だ。年金の『安心』は今のままでは確保できない。痛みを伴う改革も必要で、政治の覚悟も問われる」(4日付日本経済新聞 「細る現役世代 改革急務」)

日本を代表する経済紙は、「痛みを伴う改革」の必要性を主張し、「政治の覚悟」を求めています。しかし、今求められるのは、「政治の覚悟」とともに「国民の覚悟」です。

「受給年齢に達しても予定した年金を受け取ることが出来ず」、「保険料納付期間が終わると思ったら5年延長された挙句に、年金受給できる年齢も引上げられる」という、「逃げ水公的年金」という制度を本当に「痛みを伴う改革」をしてまで維持する必要があるのかということです。

受取れるはずの給付金を減らし、支払期間を延長した上に年金受給を先送りにするというのは、世間一般の常識で言えば「抜本対策」ではなく「倒産先送り」に過ぎません。

◆「運用利回り」を上げると「破綻」を先送りできる
「最悪シナリオでは36年度に50%、55年度には39%まで下がり、積立金は枯渇する」(同日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、55年度、つまり今から40年後に、厚生労働省が示した最悪のシナリオ(運用利回り=実質運用利回り1.7%+物価上昇率0.6%=2.3%)では、現在128兆5790億円ある公的年金の「積立金は枯渇する」という「不安」を煽り、株式への投資比率を上げて、「運用利回り」を高める必要性があるという主張をしています。

「運用利回り」が改善出来れば年金制度は維持出来るというのは確かです。しかし、それは「実績運用利回り」が上がった時の話しで、財政検証で将来の「運用利回り」を高く設定するというのは、現在必要な積立金を少なく見せるための金融テクニックでしかありません。

例えば、現在の1年物国債の利回りは0.082%です。もし、1年後に100万円支払わなければならないとしたら、今手元に99万9181円持っていれば確実に返済出来るということになります。これに対して「年5%で回せれる」という仮定をたてれば、現時点で95万2381円持っていればいいということになります。

このように、将来の「運用利回り」を0.082%から5%に上げるだけで、今持っていなければならない金額は4万6800円(=95万2381円-99万9181円)も少なくて済むように見せることが出来るのです。

公的年金の運用利回りの想定が、現実よりも「高過ぎる」という批判を浴びることが多いのは、現在持っていなければならない積立金を少なく見せるため、極言すれば「今は破綻していない」とお化粧するためなのです。

◆金融的には「既に破綻」している公的年金
厚生労働省が示した最悪シナリオ(運用利回り=2.3%)で、現在GPIFが持っている128兆5790億円という積立金が40年後に無くなるということは、年平均で5兆円弱ほど積立金を取り崩す必要がある(給付超過)ということです。

さて、現在の40年国債の利回りは1.79%で、厚生労働省が「最悪のシナリオ」で仮定した「運用利回り=2.3%」よりも低い水準にあります。この40年国債の利回りを「運用利回り」だとした場合、厚生労働省が示した給付をするためには、現在GPIFは140兆強の積立金を持っている必要がある計算になります。つまり、現在の128兆円というGPIFの積立金は、現実の「運用利回り」に基づいて計算すると12兆円も不足しているということです。

厚生労働省が「最悪シナリオ」でも「運用利回り」を2.3%と置いたのは、そうしないと現時点で公的年金が「積立不足(≒破綻)」していることになってしまうからです。厚生労働省が標準的ケースと想定しているとみられるケースでは、「運用利回り4.2%(=物価上昇率1.2%+実質運用利回り3.0%)」と、「夢のような運用利回り」を示しています。この「夢のような運用利回り」を用いて現在GPIFが積み立てていなければならない金額を計算すると95兆円強ということになります。したがって、GPIFは33兆円ほど余裕資金を持っていることになりますから、公的年金は「破綻していない」と主張することが出来るのです。

公的年金の「運用利回り」を現実の水準まで引き下げることが出来ないのは、「公的年金が金融的には破綻するリスクがある」からではなく、「公的年金は金融的には既に破綻している」ことがばれてしまうからです。

「公的年金は金融的には既に破綻している」となれば、受給者である国民は当然「積立金を返せ」と主張しますから、日本経済も金融市場も大混乱に陥ることになってしまいます。

「公的年金は破綻するリスクがある」ということにしておけばこのような混乱は避けられますし、「破綻を避けるために株式の組入れ比率を上げて運用利回りを改善させる」という本末転倒の理屈で、空想に過ぎない「運用利回り」を高めに設定して「公的年金は破綻していない」と主張し続けられることになります。それによって政策当局は都合よく使える資金を確保出来ますし、政策当局に都合のいい尤もらしい理屈を付ける学者達も甘い汁を吸い続けることが出来ます。ちなみに、今回厚生労働省が示した最も楽観的なシナリオの「運用利回り=5.4%」を用いれば、GPIFが今持っていなければならない積立金は80兆円強で済むことになります。

厚生労働省の計算では、最悪のケースでも後40年くらいは年金受給が可能のようですが、国内株式への投資比率を引き上げて少しでも損失が出た場合、この期間はどんどん短くなっていくことになります。つまり、株式投資比率の引き上げは、所持金が残り少なくなった「ギャンブラーの最後の賭け」であり、「失敗できない賭け」だということです。「失敗できない賭け」に出なければいけないということは、金融的には現在の公的年金制度は「既に破綻している」ということと同義です。

本来、年金資産運用の専門家や日本を代表する経済紙は、金融的に言えば「公的年金は破綻の危機にある」のではなく、「既に破綻した状態にある」という事実を国民に知らせるのが筋のはずです。その上で、「政府の任命する運用経験のない学者のギャンブルに賭ける」のか、「今の年金制度を根本から見直す」のか、国民に問うべきであるように思います。

ギャンブルが上手く行かなかった場合、年金が給付される期間は、厚生労働省が提示した最悪のケースよりも短くなってしまいます。しかし、それでも政府の意を汲んだ有識者達によって、財政検証に使われる「運用利回り」と「年金給付開始年齢」はどんどん引上げられ、何時までも「100年安心」という言葉だけが空しく叫ばれ続けるのかもしれません。

年金制度に求められているのは、「倒産先送り」のための「抜本的改革」ではなく、「公的資金はもう既に死んでいる」という事実を受け入れることかもしれません。
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