「お金もうけ」の匂いを感じた「似非専門家」がお墨付きを与える「リスク許容度」の低いGPIFの「日本株比率大幅引き上げ」

(2014年6月6日)
◆「成熟度」が高く、「リスク許容度」の低いGPIF
「安倍晋三首相が公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用の見直しを前倒しするよう田村憲久厚生労働相に指示していたことが5日、分かった。厚労省は年末までに新しい資産構成割合を発表するとしてきたが、9~10月に前倒しする方向だ。GPIFは今後、国債に偏った資産構成を改めて日本株などを買い増し、収益率を高める」(6日付日本経済新聞 「株比率上げ前倒し指示」)

「円安・株高」という金融現象以外に成果を挙げられないでいる安倍総理は、昨年日本株を15兆円強買い越した「外国人」が、今年に入り約1兆5000億円の日本株の売り越しに転じたことが気掛かりで仕方がないようです。安倍総理は、世界最大の年金基金であるGPIFの資産構成変更を前倒しし、日本株を買い支え出来る体制を早めに作るよう指示を出したようです。

日本を代表する経済紙は、こうした安倍総理の意向を、「日本株などを買い増し、収益率を高める」と報じています。しかし、高められるのはあくまで「期待収益率」であって、それが実際の「収益率」と一致する保証はありません。しかも、「期待収益率」を高めるということは、「リスク」も高まるということです。

「高い利益が得られそうな金融商品は損失が発生するリスクも高い。逆に、損失の可能性を低く抑えれば高利回りはあまり期待できない。これが忘れてはならない資産運用の大原則である」(2013年5月6日 日本経済新聞 社説「まず資産運用の常識を養おう」)

MRIインターナショナルの事件が起きた際に、日本を代表する経済紙は社説でこのように主張していました。ということは、GPIFによる「日本株比率の大幅な引き上げ」が、「リスクの大幅な上昇」を伴うことは当然知っているはずです。

資産運用において、資産配分を決定する際の重要な制約条件の一つが「リスク許容度」です。GPIFの資産配分の見直しにおいて、この「リスク許容度」に関して、どこからも何の意見も聞こえてこないというのは不思議でなりません。

「資産運用の大原則」と偉そうに主張していた日本を代表する経済紙も、安倍総理が株価買い支えのために、「リスク許容度」が極めて低いGPIFに対して、「日本株比率の大幅な引き上げ」を求めることに対して、何の異議も唱えておりません。

「一般的には、成熟度が低い基金はリスク許容度が高く、成熟度が高い基金はリスク許容度が低いといえる」(国民年金基金 運用関係用語集 「リスク許容度」)

国民年金基金のHPでは、「リスク許容度」について、このように解説しています。ここに出て来る「成熟度」については、同じ用語集のなかでこのように説明されています。

「年金受給者の加入員数に対する比率、給付金の掛金に対する比率等で表された年金制度の状況。恒常的に、給付金が掛金を上回る状況であれば、成熟度は高いと見なされる。」

高齢化によって、GPIFは「給付金が掛金を上回る状況」になって来ていますから、「成熟度の高い基金」だということが出来ます。したがって、一般的に、つまり「資産運用の大原則」からするとGPIFの「リスク許容度」は低いということになります。

「成熟度」が高く、「リスク許容度」が低いGPIFに対して、運用の素人である有識者会議のメンバーや安倍総理が、「日本株比率の大幅な引き上げ」によって大きなリスクをとりに行くことを求めていることについて、どうしてどこからも疑問の声が挙がらないのでしょうか。

◆矛盾だらけの証券界
「ファンド購入者が若年層の場合は、運用の期間が長くなりますので、リスクは大きくとも長期的には高いリターンが期待できる株式の組み入れ比率を高めた積極運用を行います。一方、高齢層に近づくにつれて運用の期間が短くなるため、確定利付き商品の組み入れ比率を増やした安定運用に資産配分を変えていくものです」(日本証券業協会「もっと知りたい!Q&A 投資信託編 ~ ライフサイクルファンド」)

証券業界は、以前から投資家の年齢の上昇に伴う運用期間の短縮化にともない、株式などのリスク資産を減らし、確定利付き商品などの組入れを増やしていく「ライフサイクルファンド」を運用・販売して来ています。こうした商品を販売して来ているということは、運用期間の短縮化とともにリスク資産の比率を下げて行くことが、資産配分として論理的だと考えているからのはずです。

それにもかかわらず、証券界からも、高齢化によって資金流出が始まっているGPIFが「日本株比率の大幅な引き上げ」を目指していることについて、何の疑問の声が挙がって来ません。それどころか、有識者会議のメンバーに名を連ねて、「リスク許容度」の低いGPIFに大きなリスクを取りに行くことを正当化する側に回っている始末です。

もし、証券界の人間が、「成熟度」が高く、「リスク許容度」の低いGPIFが「日本株比率の大幅な引き上げ」によってリスクを増やしていくことを正当化するのであれば、「ライフサイクルファンド」の販売を中止する位の姿勢を見せるのが「専門家」としての義務だと思います。

逆に、「ライフサイクルファンド」の商品性が正しいと思うのであれば、「専門家」として、GPIFが「日本株比率の大幅な引き上げ」をすることに堂々と意義を唱えるべきです。

◆「お金もうけ」の匂いを感じれば、「白いものでも黒だ」と主張する専門家
「麻生太郎副総理・財務・金融相は6日午前の閣議後記者会見で、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の新しい資産構成割合の発表時期について『GPIFが決めることだが、年末よりは前倒しで結論が出ると思う』と述べた。併せてGPIF改革について『お金もうけではなく安心なものにする手段だ』との認識を改めて示した」(6日日経電子版 「GPIF改革『お金もうけではない』 財務相」)

麻生財務相が、GPIFの改革について「お金儲けではなく安心なものにする手段だ」との認識を示したことが報じられています。「リスク許容度」の低いGPIFが、「日本株比率の大幅な引き上げ」でリスクを増やしていくことのどこが「安心なものにする手段」だというのでしょうか。結果は分かりませんが、国民にとって「不安を高める手段」でしかないことは、「運用の大原則」を熟知している日本を代表する経済紙や証券界の「専門家」なら、十分に理解しているはずです。

それにもかかわらず、日本を代表する経済紙からも、証券界からも、全く何の疑問が投げかけられないというのは、彼らが、「仮に10%動いたら13兆円。これだけ動いたら日本で動いている(民間の)ファンドとはケタが違う」(麻生財務相)ところに「お金もうけ」の匂いを感じているからに他なりません。

「お金もうけの匂い」を感じれば、「白いものでも黒だ」と平気で主張できる人達が、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて「資産運用の専門家」として生息出来ている現状を見ていると、国民の投資に対する認識が深まるより前に、日本から運用する資産がなくなってしまう可能性の方が高いように思えてなりません。

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近藤駿介

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