ECB「マイナス金利」導入~「異次元の金融緩和」を反面教師にした中央銀行らしい「金融」政策

(2014年6月9日)
◆ 慎重に練られた金融政策
「欧州中央銀行(ECB)は5日の定例理事会で追加の金融緩和策を決めた。指標となる政策金利を0.1%引き下げ、過去最低の年0.15%とする。主要国・地域で初めて、民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金の金利をマイナスにする政策も導入する」(6日付日本経済新聞 「欧州中銀、初のマイナス金利」)

前回の定例理事会で、追加の金融緩和を実施することは予告されていましたので、ECBが金融緩和に踏み切ることは想定の範囲内と言えます。注目を集めていたのは、金融緩和の中身です。

個人的に感じることは、今回の金融緩和は期待通りの効果を生むかどうかとは別に、日本の金融緩和を反面教師にして、欧州の「金融」を担う中央銀行らしい、慎重に検討された「金融」政策だということです。

政策金利を0.15%にしたのは、もう一回利下げ余地を残したのと同時に、「民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金の金利をマイナスにする」という「マイナス金利」を導入するからだと思われます。

「マイナス金利」を簡単に言えば、これまで民間銀行の資金を「預金」という形で預かってくれていたECBが、今後は民間銀行の資金は「貸金庫」に入れるようにすると宣言したイメージです。ECBが「預金」として預かってくれるのであればECBから「預金利息」が貰えますが、ECBの「貸金庫」に預けることになったことで、ECBに対して「貸金庫代(保管料)」を支払わなければならなくなったという感じです。

民間銀行はECBに余剰資金を持ちこんでも「マイナス金利(保管料を取られる)」ですから、「金利」面からECBに余剰資金を預けるインセンティブはなくなることになります。ECBは「マイナス金利」にすることで、民間銀行が余った資金を「保管料の取られるECB」に預けるのではなく、「金利のとれる貸出し」に回すよう促したということです。

これは、黒田日銀総裁が「異次元緩和」で繰り返すだけで実現しない「ポートフォリオ・リバランス効果」と同じものです。

しかし、ECBが「マイナス金利」にしたからといって、直ぐに貸出先が見つかるわけではありませんから、民間銀行がECBに預けていた余剰資金を全て貸出しに振り向けることは不可能です。それ故に、民間銀行はECBに預けていた余剰資金のほとんどを短期金融市場で運用せざるを得なくなります。このように、民間金融機関が短期金融市場で運用せざるを得なくなった状況の中で、政策金利が0%に引き下げられた場合、どうなるでしょうか。

短期金融市場は、金融機関だけが参加し、金融機関同士が資金を融通し合う市場です。ここで重要なのは、例え参加者が金融機関だけだとしても、貸倒れる(貸出した資金が回収できない)リスクは0ではないということです。

貸倒れるリスクが0ではない状況で、金利が0%まで引き下げられたら、民間金融機関には短期金融市場に余剰資金を供給するインセンティブは無くなってしまいます。金融機関は日々の資金の過不足を、短期金融市場からの資金調達(借入)と運用(貸出)で調整していますから、金融機関が資金を放出するインセンティブが失われてしまった場合、短期金融市場の流動性が失われるリスクが出て来ます。それは、短期金融市場から資金を調達しなければならない金融機関が、必要な資金を市場で調達できなくなることを意味しますから、金融危機を誘発しかねないことになります(担保となる適格債を持っていれば中央銀行から資金を借り入れることは出来ますので、直ちに金融危機に繋がるわけではありません)。

今回ECBが、「マイナス金利」を導入しつつ、政策金利を0.15%と0%としなかったのは、利下げ余地を残すと同時に、短期金融市場の流動性を確保し、金融危機を避けるために必要な措置だといえます。

◆ 「異次元の金融緩和」を反面教師としたECB
さて、今回ECBは、日米が実施している「量的緩和」という選択肢もあるなかで、それに先行して「利下げ」と「マイナス金利」という政策を打出しました。ここにECBが日銀の異次元金融緩和を研究し、その効果に疑問を抱いていることが示されているのではないかと思います。

日銀もECBも、目指しているところは「金融緩和によるポートフォリオ・リバランス効果」によって、「貸出し増加」を促すというものです。

黒田日銀総裁は、「異次元の金融緩和」の目的にこの「ポートフォリオ・リバランス効果」を掲げていますが、その効果はほとんど表れていないというのが現実です。2013年4月に日銀が「異次元の金融緩和」に踏み切ってから、マネタリーベース(日銀の資金供給量)は87兆円強増加しました。しかし、このうちの84兆円強、率にして96.3%の資金が「民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金」となり日銀の当座預金に還流して来ており、金融機関の「貸出」は、9兆3719億円、率にして2.3%しか増加していません。

過去1年強の「異次元の金融緩和」が示したことは、資金需要が乏しい中では、幾ら「異次元の金融緩和」と称して資金供給量を増やしても、「ポートフォリオ・リバランス効果」は現れないということです。

「5月の消費者物価上昇率が前年同月比で0.5%にとどまったユーロ圏。『需要不足が原因』(オーストリア中央銀行総裁のノボトニー氏)だ」(同日本経済新聞)

このようにECBが足元のユーロ圏の経済を「需要不足経済」だと認識しているとしたら、黒田日銀のように「異次元の金融緩和」というスローガンを掲げるだけでは「ポートフォリオ・リバランス効果」を生まないと考えたとしても不思議ではありません。

大規模な量的緩和を行っている日米両国では、法的に定められた準備預金を遥かに上回る余剰資金が「当座預金」に「超過準備預金」として預けられています。その規模は米国では「法定準備預金」の約18倍、日本では約14倍に達しています。

黒田日銀が実施している「異次元の金融緩和」も、今回ECBが打ち出した「マイナス金利」も、民間金融機関の「ポートフォリオ・リバランス」を促すという点においては共通のものです。違うのは、その目的を達成するために、日銀は「出戻りを認める資金」を金融機関に大量に供給する「ザル政策」をとっているのに対して、ECBは「出戻りにペナルティを課す」という「ムチ政策」を採ったところです。

おそらく、「需要不足経済」であると分析しているECBは、日銀と同様に「大規模な量的緩和」を行っても、殆ど「貸出」には向かわず中央銀行に出戻って来てしまうと考えたのだと思います。ECBは今回の理事会で「資産担保証券(ABS)の買い入れ準備でも合意」しましたが、その「量的緩和」に踏み切る前に「マイナス金利」を設けることで、中央銀行への資金の「出戻り」の道を細くするとともに、民間金融期間にポートフォリオ・リバランスを促す選択をしたということです。

ECBは、日銀やFRBと異なり、「法定準備預金」には利子を付けます(付利)が、「超過準備預金」には付利していませんでした。現在日銀は「超過準備預金」に0.1%を「付利」しています。ですから、当座預金に110兆円を超える「超過準備預金」が積まれているということは、単純計算で年間1,100億円を超えるコスト(民間金融機関への利息支払い)を掛けて「異次元の金融緩和」を行っているということになります。

一方、もともとECBは「超過準備預金」に「付利」していませんから、「超過準備預金」が幾ら積まれてもコストが掛かりませんので、「超過準備預金」にマイナス0.1%を「付利」したのはコストの問題ではありません。ECBが「超過準備預金」にマイナス0.1%という「マイナス金利」を「付利」するということは、金融機関が余剰資金をECBに預けるのではなく、0.15%でも利子を生む金融市場を含めて、中央銀行以外に資金を向けさせるための当然の「金融」政策だったということです。

「量的緩和」よりも「マイナス金利」を先行させる。今回ECBは、「マイナス金利」政策を導入するに当たり、「金融」に与える影響にかなり気を配ったと同時に、「異次元の金融緩和」が効果を生んでいない原因を研究し、中央銀行らしい「金融」政策の手順も踏みました。

「金融」に十分な配慮を見せたECBに対して、「2%の物価安定目標」という唯一の教義を達成するために、年間1,000億円以上のコストを掛けて単純に資金供給を続け、しかも金融政策を「市場を動かす」道具として使おうと考えている日銀。こうした中央銀行の「質の差」が近い将来の市場に現れてくるような気がしてなりません。
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コメント

通りすがりのコメントに対し、真摯にご対応を頂き、却って恐縮です。

通りすがりとは申しましたが、御自身の「市場コンセンサスと異なる鋭い切り口」に大いに注目しながら、日々ブログを拝見しております。

(蛇足ながら)今回のECBの追加緩和については、以下の点から「やや実効性に乏しく、さりとて「日米型QE」のハードルも高く、「政策的には膠着状態に陥るのではないか」とみています。
1)民間銀行は、資産査定やストレステスト等の過程にあり、リスクテイクして融資を増やすインセンティブに乏しい
2)今回の措置は、ECBのB/S拡大(TLTRO、SMP不胎化)と同縮小(マイナス金利導入による中銀預金減少)が混在しており、政策の一貫性に欠ける

引き続き、当ブログを興味深く拝見させて頂きます。
この度はありがとうございました。


こちらこそこの度は貴重なご指摘をありがとうございました。限られた時間内で記事を書くこともあり、今回のような見落としもあろうかと思いますので、今後ともおかしな点がございましたら是非指摘して頂きますようお願い致します。
確かに、ECBの金融政策の効果が出るかは疑問ですね。昔から金融政策は引くことは出来ても押すことはできないといわれていますし。金融政策に過度に依存しなければならない状態に陥ってしまった時点で、金融政策の効果は限定的になるということだと考えています。
今後とも宜しくお願い致します。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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