日本人は情報をタダだと思っている ~ 投信の高い手数料を是正するために必要なパラダイムシフト

(2014年6月11日)
「日本市場では、先進主要国に比べて、個人が個人投資信託を買付け、ならびに保有する際に投資家が負担する費用の高さが指摘されている。その背景として、販売会社の営業員に対するインセンティブが投資信託の買付時に投資家が負担する手数料収入に依存する傾向にあることが挙げられる」(「個人資産軽視の拡大に向けての提言」より)

楽天証券が中心となってつくる民間グループが、「個人資産形成の拡大に向けての提案」という、国内の投資信託の販売手数料の不透明さなどを問題視する提言をまとめました。

面白いところは、販売時の手数料を取らないノーロード商品を取り揃えているネット証券が、投資信託の販売手数料の高さや不透明さを問題視したところです。ビジネス的にいえば、リアルの証券会社が高い販売手数料を取れば取る程、ネット証券は有利な立場に立てるように思えるのですが、実際にはそうなっていないのかもしれません。

さて、いま、投資信託を購入する際には、最大3%ほどの販売手数料がかかります。この投信の販売手数料というのは、約款の中で販売会社が3%以内で決定し徴収できると定められているもので、一律幾らと決められたものではありません。その投信を販売する会社が自由に決定出来る決まりになっていますから、同じ投信であっても販売会社によって販売手数料が異なる「一物二価」ということもあり得るのです。

また、販売手数料は販売会社が決めて、販売会社が徴収するものですから、運用会社には一銭も入りません。

投信の販売手数料を決定し、徴収しているのは販売会社ですから、それを直接的に是正できるのは販売会社以外にないと言えます。しかし、個人的見解でいうと、高い投信の販売手数料を引下げて行くためには、個人投資家の認識も切り替える必要があるように思います。

切り替える必要があるのは「情報」に対する認識です。

投資家にとって、投資信託の販売手数料は高いものに映るかもしれません。では、何故高いのかというと、その一つの理由は、販売会社がタダで提供した「情報」の料金を回収しているからというものです。販売会社は個人投資家を「貯蓄から投資へ」誘うために、無料セミナーを繰り返し開催しています。時には講演料の高い有名人を呼んで参加者を集めたりもしています。

投信の主要投資対象である企業経営の分野では、「所有」と「経営」の分離が進んで来ていますが、投信ビジネスの分野では、「情報」と「販売」「運用」の分離は進んでおりません。

無料ビジネスといっても全てがタダということではなく、どこかでそのコストを吸収しています。ネットゲームなどであれば広告収入やアイテム課金、携帯端末なら月次の通話料などでコストを回収するのが一般的です。しかし、中途解約が頻繁に行われる投信ビジネスでは、ビジネスモデル上、無料で提供した情報のコストを販売手数料で回収して行く以外にないというのが現実です。

投信の販売手数料を引き下げるためには、投資家側も「情報は有料」だという認識を持つ必要があります。「情報は無料」が当然のことだと思い、無料の情報だけに接している限り、「情報の審美眼」は身に付かない恐れがあります。「審美眼」を身に付ける唯一の方法は、本物を見ることだからです。

販売会社が無料セミナーで提供する情報で、投資家の「情報の審美眼」は養われるでしょうか。正直かなり難しいと思います。それは、販売会社が提供する「無料の情報」は、セミナーに参加した人を顧客にするためのもので、個人投資家の知識やリテラシーを上げるために提供されているものではないからです。

顧客の金融リテラシーが上がってしまったら、提供する情報のレベルも上げなくてはならなくなりますから、とても無料では提供できなくなるからです。無料セミナーが続いているのは、「参加された方が分かったような気分にはなるけれども知識や金融リテラシーが向上に繋がらない情報」を提供し続けているからです。

「情報」と「販売」の分離が進み、投資家側に「情報はお金を払って得るものだ」という認識が広まれば、当然投信の販売手数料は下がっていくことになります。もちろんそれは、今投信の購入時に掛かっている3%という販売手数料を、販売会社ではなく情報提供会社に支払うということになる訳ですから、投資家側にコストが生じることには変りありません。むしろ目につく形でコストとして現れます。

しかし、「情報」と「販売」を分離し、「情報コスト」を見える形にすることによって、投資家は「参加者を顧客にするための情報」や「知識や金融リテラシーの向上に繋がらない情報」以外の多くの情報に接する機会を増やすことが可能になります。

「日本人は水と安全はタダだと思っている」

1970年に発行され300万部を超える大ベストセラーとなったイザヤ・ペンダサンの「日本人とユダヤ人」の冒頭では、このような指摘がなされています。しかし、「日本人とユダヤ人」が発行されてから約45年経った今、ミネラルウォーターを買うのも、ホームセキュリティや防犯にお金を掛けるのは当然の社会になりました。

こうした社会になっても日本人に根強く残っているのが「情報はタダ」という認識です。

タダで得られる情報は、もともとお金を払うほどの付加価値がないものか、後で別の形で請求書が回って来るものであるかどちらかであることを認識するべき時期に来たと思います。

投信の販売手数料が高いのが問題であるのであれば、「無料の情報+高い販売手数料」という組み合わせを止めて、「有料の情報+安い手数料」という組み合わせに変えていく必要があります。投資家が情報に対してコストを負担することには変りはありませんが、「有料の情報+安い手数料」という組み合わせを選択した方が、投資家が「有益な情報」に接する機会が増えることは確かだと思います。

「日本人は情報はタダだと思っている」

こうした認識の強さと、国民の金融リテラシーは反比例の関係にあるといえます。一日も早く、こうした認識が日本人の常識から消えて行くことを願ってやみません。そして、この認識が消えた時こそが、「貯蓄から投資へ」という長年の夢がかなう時かもしれません。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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