大胆な公的年金運用改革~ 「税金を払うことが企業の責任」という「美意識」を持つ国内企業にチップを張れ!

(2014年6月16日)
◆ 国内企業の「美徳」か、実際の法人税は言われているほど高くないのか
「日本企業の多くはトヨタのように 『税金を払うことが企業の責任』 との意識が強い。欧米企業の過度な節税は国際問題にもなったが 『日本の大手企業では聞いたことがない』(財務省主税局)」(16日付日本経済新聞「Tax ウォーズ~今こそ法人減税」)

「日本の大手企業では聞いたことがない」というのは、さすがに美談にし過ぎだとは思いますが、日本企業が欧米企業ほど「過度な節税」に熱心でなかったことはその通りかもしれません。しかし、日本企業が欧米企業ほど「過度な節税」に熱心でなかったのは、「税金を払うことが企業の責任」という「美意識」だけでなく、「実際の法人税の負担率が言われているほど高くない」という現実があったことは否めないと思います。

「政策減税や繰越欠損金控除などで企業の法人税負担率がどの程度下がったか財務省が推計した。税引前利益に対する全業種の法人税負担率の平均は17.8%だった。政策減税が1.4%、繰越欠損金の控除が1.9%の引き下げ要因になった」(3日付日本経済新聞 「小売・サービス法人税負担重く」)

日本の法人実効税率は35.64%(国税25.5%+地方税:東京都)とされています。しかし、財務省の推計で2012年度の実際の法人税負担率(国税分25.5%)は17.8%だったことが明らかにされています。国税負担が「定価」より7.7%も低いわけですから、地方税を含めた実際の法人実効税率も35.64%ではなく27.94%(東京都)で、既に安倍政権が目指す「法人実効税率20%台」になっているということです。

つまり、既に法人税負担率が20%台まで下げられて来たわけですから、欧米企業のように「過度な節税」に走る必要がなかったという面も否定出来ません。

◆ 「国際競争力のある国」の税率か、「タックスヘイブン」の税率か
特に、グローバル競争に晒されている「電機や自動車を含む機械工業」の負担率は、同じ財務省の推計で「政策減税2.6%、繰越欠損金の控除が3.7%の負担の引き下げ要因」もあり、「11.6%にとどまる」(日本経済新聞)とかなり優遇されていることが報じられています。「定価」の25.5%(国税)よりも、実際の法人税負担率が13.9%も低くなっているということは、地方税を含めた法人税負担率は21.74%と、「20%台すれすれ」になっているということですから、「過度な節税」に努める必要を感じなくても当然かも知れません。

日本を代表する経済紙は、2週間前に「激しいグローバル競争」を繰り広げている「電機や自動車を含む機械工業」の実際の法人税負担率が20%台すれすれまで下がっていることを報じたことを忘れたのか、ここに来て連日法人実効税率の引下げの必要性を主張しています。

現在35.64%とされている実行法人税率の「定価」を20%台まで引き下げたら、「電機や自動車を含む機械工業」の実際の法人税負担率が16%程度にまで下がってしまう可能性があります(繰越欠損金控除が3.7%ありますから、これがなくなれば20%程度)。これは、「国際競争力のある国」の法人実効税率というよりも、立派な「タックスヘイブン」の税率です。

「法人実効税率35.64%」という、現実とはかけ離れた高めの「定価」」を掲げ、「アジアや欧州の主要国に比べて高い税率」の引下げの必要性を強調する安倍総理。そのやり方は、昨年の優勝セールで通常価格を実際より大幅に引き上げて表示し、割引率を大きく見せかけていたネット企業と同じやり方だといえます。偶然なのかもしれませんが、産業競争力会議の民間議員を務めているこのネット企業の創業者兼会長は、6月10日に開催された会議に「改訂『日本再興戦略』に対する意見」という資料を提出し、その中で「法人実効税率を少なくとも20%台前半まで引下げるべき」だという主張をされています。

◆ 海外投資家に媚を売るために使われる公的年金資金
「しかし激しいグローバル競争で日本企業特有の意識は崩れつつある。海外投資家は『税金を払い過ぎていないか』と目を光らせ、税負担の低い企業を評価する。きちんと納税の義務を果たす企業を日本につなぎ留めるには、法人減税と同時に不公平な税制にメスを入れる改革が欠かせない」(同 日本経済新聞「Taxウォーズ」)

「Taxウォーズ」という特集記事では、日本の株式市場で売買シェアは60%超を持つ海外投資家の影響によって、「税金を払うことが企業の責任」という日本企業の「美意識」が失われて来ていることが指摘されています。

海外投資家への依存度が上がり、「税金を払うことが企業の責任」という日本企業の「美意識」が失われつつあるなかで、「株価こそ政権の命綱」(日本経済新聞)である安倍総理は、公的年金を管理運用するGPIFの運用改革を成長戦略に掲げ、海外投資家に媚を売ろうとしています。

安倍総理が、GPIFの資金を海外投資家の気を惹くために「年金運用という本来の目的を外れ、目先の株価対策」(日本経済新聞)に使うということは、政権維持のためには「税金を払うことが企業の責任」という本来日本企業が持っていた「美意識」を犠牲にすることも厭わないということです。

単にGPIFが「巨像」ではなく「虚像」であることを隠す目的で高い「実質運用利回り」を掲げ、それを達成するためという子供染みた発想で、日本株の資産配分大幅引上げという「玉砕」に舵を切ったGPIF。例えこうした「玉砕改革」が惨めな結果に終わっても、心優しいうえに、節約を美徳とする日本国民が「少子高齢化」だから仕方がないと、「給付金引下げ」と「給付開始年齢引き上げ」、「掛け金引き上げ」という、公的年金改革「3本の矢」を、「耐え難きを耐え、忍びがたきを忍び」といって受け入れてくれることまで計算済みなのだと思います。

ちなみに、国家公務員共済組合連合会(国共済年金、KKR、積立金7.8兆円)も、国内債の比率を引下げ、国内株式などリスク資産への投資を増やすことを決定しています。しかし、見直し後でも国内債の配分は74.0%(▲6.0%)、国内株式8.0%(+3.0%)と、「国内債60%という国債偏重運用」と批判されているGPIFよりも遥かに「国債偏重運用」を維持しますし、「20%というのも高すぎるハードルではないかもしれない」とされている国内株式への投資比率も、GPIFの半分以下の比率に留めています。要するに、国家公務員の年金は引き続き安定的に運用し、サラリーマンの年金だけを博打に使うということです。

◆ 「法人税を多く納める企業」にチップを張れ
「4月、資産運用業界に衝撃が走った。GPIFが日本株の運用委託を見直し、大半の国内運用会社との契約を解除。日本株運用にもかかわらず、外資系運用会社が10社と委託先の7割を占めることが決まったためだ」(16日付日本経済新聞 「動く巨像GPIF」)

国内株式の運用比率引上げとともに、委託先の7割を外資系運用会社が占めるようになったということは、国内企業が持っていた「税金を払うことが企業の責任」という「美意識」が今後急速に失われていく可能性を感じさせるものです。

GPIFが、「運用効率を上げるにはTOPIX偏重を脱するしかない」(日本経済新聞)と考えているのであれば、是非それを国内企業が持ってきた「税金を払うことが企業の責任」という「美意識」の維持にも使ってもらいたいと思います。海外投資家の「『税金を払い過ぎていないか』と目を光らせ、税負担の低い企業を評価する」のとは一線を画し、「税金を国内に多くおさめている企業」を母集団にするようなことを検討して貰いたいものです。

そもそも、「国内で法人税を払っている企業」は利益を出している企業ですから、市場で高く評価されても当然です。GPIFが世界に先駆けて「一株当たり納税額」といったような新しい指標を考案し、「国内で法人税を払っている企業」を重要な投資対象とすれば、株価上昇によってその企業の資金調達コストを引下げることになりますし、買収防止策にもなります。つまり、GPIFが「国内で法人税を払っている企業」を重要な投資対象とすることで、国内企業の資金調達面での「国際競争力」向上を後押し出来るということです。

資産規模が大きいだけで、将来の年金給付に必要な積立金を持っていない「虚像」のGPIFを、国内株式比率の引上げで「巨像」に戻すことは不可能に近いことです。それは、国家公務員を除く多くの国民は、想定した年金を受け取ることは難しくなることを意味するものです。

安倍総理が成長戦略で掲げるGPIF改革は、所詮「報われる可能性の低いギャンブル」ですから、せめて「税金を払うことが企業の責任」という「美意識」を維持する国内企業が生き残るための環境整備のためにチップを張るくらいの、「大胆な公的年金運用改革」をして頂きたいものです。

「金融講座」始めました。
「無料体験&事前コンサルティング」受付中!!  詳細はこちらから。


スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR