巨大銀に新たな資本規制検討 ~ タコ糸を引く中央銀行と、中央銀行の足を引くG20

(2014年6月18日)
銀行に貸出しを増やさせたいのか、増やさせたくないのか…。中央銀行と政治の間に微妙なすきま風が吹いているようです。

「20カ国・地域(G20)は国際的に活動する巨大な金融機関に補助的な自己資本の導入を義務付ける検討に入った。破綻した場合の税金投入を減らすのが狙いだ。日本の3メガバンクも対象となる見込み。納税者ではなく、債権者に損失を負わせながら大銀行を破綻処理する方針へ転換する」(18日付日本経済新聞 「巨大銀行に新たな資本規制」)

日銀が「異次元の金融緩和」、ECBが「マイナス金利」によって、銀行にポートフォリオ・リバランスを促し、貸出しなどリスク資産を増やさせる政策を採っているなかで、G20は政治面からこうした動きにブレーキを掛けるようとしているようです。

「米国や英国はバーゼル3と補助資本の組み合わせで銀行が持つ貸し出しなど『リスク資産の20%以上』を義務付けるよう提案している」(同 日本経済新聞)

中央銀行が銀行に対して貸出し増を働きかける中、G20は巨大銀行破たんによる税金投入を避けるために、リスク資産による損失をカバーするのに十分な自己資本を積ませる検討をしているようです。

少し脱線しますが、自己資本に関しては、借入(他人資本)と違って「返済する必要がない資金」ということもあり、時々「コストのかからない資金」だと誤解されている方がおられます。しかし、実際は自己資本というのは「借入(他人資本)よりもコストの高い資金」です。

自己資本を増やす主な方法として「増資」と「劣後債・劣後ローン」があります。確かに、「増資」は「利子もなく、返済する必要のない資金」ですし、「劣後債・劣後ローン」は「利子はあるが、返済順位の低い債券・借入」です。「返済する必要がない」「返済の優先順位が低い」から「コストが低い資金」という誤解は、調達側(企業側)から見た論理であり、投資家側から見た景色は全く違うということを見落としたものです。

「返済されない」「返済される順位が低い」ものに投資をするということは、それだけ一般の貸付を行う(他人資本を提供する)投資家よりも大きなリスクを採っているということです。大きなリスクを引き受ける訳ですから、自己資本を提供する投資家の求めるリターンは、他人資本を提供する投資家よりも大きくなるのが当然です。したがって、自己資本を増やすということは、企業にとって資本コストの上昇を意味するものなのです。

本題に戻りますが、銀行に「リスク資産の20%以上」の自己資本を積むことを求めるということは、中央銀行へ債券を売却したことによって得た手元資金を、銀行は単純に貸出しに振り向けることが出来なくなるということです。貸出しを増やすためには、それに見合う「コストの高い自己資本」を調達しなければならないからです。

日本では、日銀が224兆円を上回る資金(マネタリーベース)を供給していますが、その内の133兆円強の資金は貸出しには向かわず、日銀の当座預金に還流して来ています。日銀は法定準備預金(8兆円強)を上回る超過準備預金(約115兆円)に対して、0.1%の金利を付けています(付利)。

こうした状況下で、さらに銀行に「リスク資産の20%以上」の「コストの高い自己資本」を積むことを求められれば、リスク資産を積むインセンティブは失われることになります。日銀の当座預金に資金を置いていれば0.1%の金利収入が得られるのですから、コストを掛けて自己資本を集めてまで貸出しを増やす意味がないからです。

一方、ECBは先日、超過準備預金に「マイナス金利」を付利することを決定しました。これによって、銀行には余剰資金をECBに預けておくメリットはなくなりました。しかし、「自己資本を集めるコスト」と、「マイナス0.1%の金利」とを比較した場合、「マイナス0.1%の金利」が割高であるとは言い切れません。

今のような「借手不足社会」で、銀行が貸出しを増やすためには、与信基準を緩め、信用力の低い貸出先にまで貸出しを行う以外にありません。一方、与信基準を緩めるということは、貸し倒れリスクが高まるということです。

中央銀行が、銀行に対して貸倒れリスクの高い、信用力の低い企業に対する貸出しを増やさせようとする中、政治が税金投入を減らすために、「リスク資産の20%以上」の自己資本を積むことを迫るというのは、中央銀行の政策と全く方向性が逆の政策を採ろうとしているということです。

中央銀行が、「凧の糸のようなもので(景気の異常な上昇を止めるために)引くことはできるが、(景気を浮揚させるために)押すことはできない」といわれる金融政策を用いて、「借手不足社会」の中で貸出しを増やして景気を浮揚させようと腐心しているさなか、G20が「リスク資産の20%以上」の自己資本を求めるという足枷を嵌めて足を引っ張るという構図で、景気浮揚を図ることは出来るのか、甚だ疑問ではあります。

G20が巨大銀行に対して「リスク資産の20%以上」の自己資本を積むことを求めるのは、「(巨大銀行が)破綻した場合の税金投入を減らすのが狙い」のようですが、G20が懸念するリスクは「貸出増加」後に示現するものです。G20が求める新たな資本規制の詳細は分かりませんが、リスクウエイトの設定を、一般企業向け貸出しは低く、不動産価値に基づく貸出しのリウクウエイトを大きくするなど、これまでとは異なった現実的な配慮が求められるような気がします。


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