「消費」が増えて貯蓄率「64年ぶりマイナス」?~「素人の常識」からかけ離れた「専門家ならではの見立て」

(2014年6月24日)
◆ 現役世代の約4割が「保険料免除」を受けている中での「年金納付率改善」
「厚生労働省は23日、2013年度の国民年金保険料の納付率が60.9%と前年度より1.9ポイント改善したと発表した。上昇は2年連続で4年ぶりに60%台を回復した。雇用や所得が持ち直しているほか、未納者への督促も強化したため」(23日付日本経済新聞夕刊 「国民年金納付率60%台」)

日本を代表する経済紙は、2013年度の国民年金保険料の納付率が「雇用や所得が持ち直している」ことを背景に回復して来ていることを報じています。

しかし、国民年金保険料の納付率は、保険料を納めることが出来る人達が「実際に保険料を納めた月数を納付すべき月数で割った数字」(同 日本経済新聞)であり、被保険者(現役世代)全体でどの位の人達が保険料を納付したかを示すものではありません。

ですから、今回の納付率の改善は、「所得が低い人に保険料の納付免除の申請をしてもらい、納付率の分母である納付すべき月数が押し下げられたことも数値改善につながった」(同 日本経済新聞)という「統計上のマジック」という面も否定出来ません。

この「国民年金保険料の免除」を受けている割合は、全国では「全額免除」が34.1%と前年度比2.1%増加、「一部免除」が3.3%と前年度比0.7%増加となっています。つまり、現役世代で何かしらの「年金保険料の免除」を受けている人の比率は、37.4%と、40%に近付いているということです。

現役世代で「年金保険料の免除」を受けている人の比率が40%に近付く中、年金保険料を支払える収入がある人達の40%近くが国民保険料を納めていないわけですから、単純計算すると現役世代の36%(≒免除を受けていない現役世代60%×納付率60%)しか、まともに国民年金保険料を納付していないということになります。こうした状況で、「雇用や所得が持ち直していること」を背景に納付率が上昇して来たと喜ぶ姿には、違和感を覚えます。

「納付率の改善」よりも、「年金保険料の免除」を受けている人達が増えていることの方が深刻な問題であるように思えます。

◆ コストパフォーマンス的には高過ぎる訳ではない年金保険料
「保険料を会社員の給与から天引きする厚生年金と違い、国民年金は自分で振り込む仕組みのため未納が起きやすい。だが、それ以上に問題を深刻にしている理由は、職に就けない人や低所得の人が増えているためだ。年金制度への不信も根っこにあるとされる。 厚労省の調査によれば、年金保険料を払わない理由として最も多いのが『保険料が高い』で回答の7割。2番目が『年金制度の将来が不安・信用できない』で1割だ」(24日付日本経済新聞 「国民年金瀬戸際 未納率なお4割」)

国民年金は、月額約1.5万円の保険料を40年払い続ければ、毎月6.4万円を受け取れるという制度になっています。ざっと計算すると、40年間で納める保険料総額は720万円、給付月数に換算して112.5か月分(9.4年分)を納めるということですから、年金を10年受け取れば元を取れてしまう計算になります。つまり、平均年齢が80歳を超えた今日、多くの人は納付額以上に給付を受けられる可能性を持っているわけです。

それにもかかわらず「保険料が高い」というのは、「雇用や所得が持ち直している」という見方が間違っているか、「年金制度の将来が不安」だと感じている国民が厚労省の調査以上にいることを示唆するものです。

◆ 消費が増えて貯蓄率がマイナスになる?
「ちょっと逆説的ですが、消費税率を引き上げたから消費が増えたのだと思います」(24日付日本経済新聞 「エコノ探偵団~日本人の貯蓄、大丈夫?」)

4割近い人が「年金保険料の免除」を受け、4割近い人が「年金保険料を支払っていない」なかで、日本の貯蓄率が64年ぶりにマイナスになる可能性が高まった理由について、マスコミで重用される著名な御用エコノミストはこのようにコメントしています。

「増税による増収分は社会保障財源になる。そのメリットは若い世代よりもシニア層の方が大きい。そこで『これまで将来への不安から消費をためらい、お金を溜め込んでいたシニア層が安心してお金を使うようになった』というのが〇●さんの見立てだ」(同日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、日本を代表する御用エコノミストの楽観的なコメントを紹介し、「消費が増えて日本経済は意外と堅調」なことが、貯蓄率の「64年ぶりマイナス」の主要因だという結論を導いています。

しかし、先日公表された公的年金の財政検証によって、日本経済が消費税率を引上げという逆風を受けても安定的な成長を続ける、という「お伽の国シナリオ」でも、年金制度の維持は難しい状況が明らかになりました。また、このエコノミストがいう「将来への不安から消費をためらっていた」というのは、想定以上に長生きしたり、病気をしたらお金が足りなくなる不安を感じている経済的に盤石とはいえないシニア層ですから、この人達が僅か3%程度の消費増税によって「安心してお金を使うようになった」という見立ては、とても素人とでは思い付かない「専門家ならでは」のものです。

内閣府の「国民経済計算」をみても、可処分所得は1997年度の308.44兆円から、2012年度286.44兆円まで、金額にして16兆円強、率にして5.4%減少して来ています。単純計算では、1997年度の可処分所得が維持されていたら、2012年度の貯蓄率は1.0%でなく、6.4%であったことになりますから、日本の貯蓄率が「64年ぶりマイナス」になる可能性が高くなって来ているのは、「消費が増えた」ことではなく、「可処分所得が減った」ことが要因だと考えるのが、「素人の常識」だということです。

貯蓄率推移


現役世代の4割近くが「年金保険料の免除」を受けていることに加え、「年金制度の将来が不安」だと感じている国民が多数存在する中で、消費増税によって「これまで将来への不安から消費をためらい、お金を溜め込んでいたシニア層が安心してお金を使うようになった」ことを貯蓄率低下の要因だと、素人では思いもつかない「専門家ならでは」主張する日本を代表する経済紙。

「専門家ならでは」の論理構成の杜撰さにも、同日の紙面で矛盾した内容を掲載するその感覚にも、呆れ果てるばかりです。


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