日本経済新聞による根拠怪しき主張 ~「人手不足」物価押し上げ?

(2014年6月26日)
◆ 運送費の価格上昇は「人手不足」に非ず「人手不足が物価の上昇圧力となっている。日銀が25日発表した5月の企業向けサービス価格指数は、消費増税の影響を除いても約21年ぶりの上昇率となった。運輸業や建築業など働き手が足りない分野で、企業間価格を引き上げる動きが目立つ。デフレ脱却の追い風となるが、働き手不足が長引けば成長の制約要因となりかねない」(26日付日本経済新聞 「人手不足 物価押し上げ」)

またか、といった感じでしょうか。日本を代表する経済紙は、何としても「人手不足社会」ということを擦り込ませたいのか、「人手不足が深刻な運輸や建築業など」を中心に、5月の企業向けサービス価格指数が約23年ぶりの上昇率、消費増税の影響を除くベースでみても約21年ぶりの伸びとなったことを大きく伝えています。

「全日本トラック協会の調査では、6割の企業が4~6月期の雇用状況を『人手不足』と回答した」(同 日本経済新聞)

企業向けサービス価格指数が23年ぶりの上昇率になったことや、全日本トラック協会の調査で6割の企業が「人手不足」と回答をしたことは事実です。しかし、4月末に同協会が発刊した「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2013」をみると、「人手不足」がサービス価格上昇の根本的原因であったかは疑わしい限りです。

この資料の中の「トラック運送事業の総経費の構成」では、「トラック運送事業は、典型的な労働集約型の事業です。このため、運送コストのうち人件費の比率がもっとも高く、平成23年度で38.4%にのぼります」と、人件費比率が高い特徴があることは記載されています。しかし、「人件費」の比率の推移を見てみると、平成21年38.4%、平成22年38.0%、平成23年38.4%と、直近のデータは掲載されていませんが、「人件費」の比率は概ね横ばいで推移していることが示されています。

一方、「燃料油脂費」の構成比を見てみると、平成21年14.2%、平成22年16.1%、平成23年17.7%と同じ3年間に3.5%も上昇しています。資源エネルギー庁の「給油所小売価格調査」によると、この間軽油価格は全国平均で101.8円/ℓ から128.81円/ℓ へと26.5%上昇しています。さらに、直近では145.4円/ℓ と、平成23年6月時点からさらに12.9%上昇していますから、「トラック運送事業の総経費の構成」における「燃料油脂費」の割合は、平成23年の17.7%からさらに上昇していることは間違いありません。

こうした燃料価格の急騰を受けて、全日本トラック協会は、荷主に対して「燃料価格の上昇・下落によるコストの増減分を別建ての運賃として設定する制度」である「燃料サーチャージ制」の導入をお願いしており、既に1047社が同制度の届出を済ませているようです。

こうした事実に基づく限り、「運輸貨物輸送」の企業向けサービス価格の上昇は、好景気による「人手不足」よりも、円安や原油価格上昇に伴う「燃料費高騰」の影響の方が大きいといえます。例え運送費が上昇していることが事実であったとしても、「人件費」の構成比に変化がないのだとしたら、運送費の上昇は「人件費」以外の要因で上昇していると分析するのが常識です。構成比が上昇している「燃料費高騰」に全く触れず、構成比が横這いである「人手不足」によって「道路貨物輸送」価格が上昇しているという主張は、「人手不足社会」を演出したい勢力によるこじつけに近いものだとしか言いようがありません。

◆ 「公共事業=悪」という洗脳によるツケ
運輸業と共に「人手不足」が叫ばれている「土木建設サービス業」。こちらは「人手不足」であることは間違いありません。しかし、「土木建設サービス業」が「人手不足」に陥った根本的な原因は、日本を代表する経済紙をはじめとした多くのメディアが「公共事業=悪」という報道を繰り返し行ったことで、公共事業費を1998年度以降15年間も削減し続け、規模を3分の1程度にまで縮小させてしまったことによるツケでしかありません。

公共事業の大幅削減に伴い、1998年には670万人程度であった建設業就業者数は、2013年7月には472万人まで減少、その後510万人程度まで回復しているのが現状です。しかし、「人手」が回復しても、「人材」が不足していたままでは工事は進めることは出来ません。鉄筋工や型枠工など、専門技術を持つ職人は「ローマは一日にしてならず」で、1年や2年で作り出せるものではありませんから、景気対策として公共事業費を積み増したとしても、「人材」がボトルネックになってしまう状況にあるのです。

日本では「公共事業=悪」というイメージが浸透し、公共事業費が削減され続けて来ましたから、構造不況業種である建設業界を目指す若者は少なくなって来ています。公共事業に対する国民の反感は根強いものがあると思いますが、このままでは金融政策に続き、財政政策も効かない恐ろしい経済になってしまうという危機意識を持つべき時期に来ています。

安倍政権は外国人労働者を受け入れる方向に動いていますが、必要なのは「人手」でなく「人材」ですから、ボトルネックを解消する根本的な解決策にはあり得ません。それどころか、逆に、日本人の「人手」の賃金を引下げることで、さらなる「人手不足」を生む危険性すら秘めています。

「人手不足は経済成長そのものにブレーキをかける懸念がある」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、お気に入りの御用エコノミストのこのようなコメントを載せています。確かに、公共事業に関しては、「人手不足」がボトルネックになる可能性を秘めていますから、「経済成長そのものにブレーキをかける懸念」はあると思います。

しかし、道路貨物輸送の価格上昇は、「人手不足」よりも「燃料費高騰」の影響によるものですから、土木建築サービス業と同列に扱うべきではありません。

◆ ブラック企業以上、正社員未満
日本を代表する経済紙は、「運輸や建築人件費上昇」を証拠に「人手不足社会」を強調するのは、経済の好循環が生まれているように演出する必要があるからだと思われます。

拙Blog記事〝「デフレ経済下の行き過ぎたビジネスモデル」の終焉と、復活をさせるための「成長戦略」″でも指摘した通り、現状の「人手不足」は、「低賃金、苛酷労働」を前提に成長を図るビジネスモデルが崩壊しつつあることを示唆したもので、必ずしも経済の好循環によってもたらされたものだとは言えない状況にあります。

安倍政権がアベノミクスの成果として強調する有効求人倍率の1倍越えも、単に求人数の問題であると同時に、正社員の有効求人倍率は依然として0.6倍台で低迷しています。現在の「人手不足」による「人件費上昇」は、「ブラック企業以上、正社員未満」で起きている極地現象でしかないというのが現実のように思えます。

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