FRBのジレンマ ~ 高まる「抽象的出口論」と「具体的出口論」の狭間

(2014年7月4日)
「FF金利先物動向によると、当局が来年6月に利上げを実施する確率は49%と、前日の44%から上昇した。5月末時点では33%だった」(Bloomberg)

雇用統計の予想以上の改善を受け、市場の関心は完全に「テーパリング後」、「具体的出口論」に移って来ました。

今回の雇用統計の予想以上の改善によって、FRBの利上げ時期が早まったという見方も強まって来ています。しかし、FRBの利上げ時期が早まったという見方は、経済統計に基づく「抽象的出口論」によるもので、実際の「金融」を軽視した見方だと思います。

「抽象的出口論」からすると、テーパリング終了後FRBは何時利上げをしてもおかしくない状況だといえるかもしれません。しかし、「金融」を考えた「具体的出口論」からすると、実際の利上げはかなり先になる可能性があるのと言えそうです。

FRBにとっての「金融」上の最大の現実的課題は、経済統計や日々の市場の動きではなく、必要以上にFRBに積み上げられた超過準備預金をどのように解消して行くかということです。

超過準備預金はFRBに積まれていますが、金融機関が保有してFRBに預けているものです。公表されている直近のデータによると、FRBには法定準備預金の実に19.3倍にも及ぶ準備預金が積み上げられています。

参考までに、日銀に積み上げられている準備預金は6月末時点で139兆4046億円となっており、法定準備預金の16倍超に達しています。これは、日銀に積まれている準備預金のうち約94%に相当する131兆円が、不必要に日銀に預けられているということです。

問題なのは、この超過準備預金が貸出し等という形で一気に中央銀行から流出した時に、マネーサプライの大幅上昇を引き起し、急激なインフレを起こす要因になり得るということです。

こうしたマネーサプライの急上昇によるインフレを抑制するためには、FRBは利上げをする必要がありますが、準備預金が取り崩される形でマネーサプライが急上昇する局面では、市場金利も急上昇している可能性があります。市場金利が急上昇している中でFRBがマネーサプライの抑制を目的に利上げに踏み切った場合、さらなる長期金利の上昇を招き、景気に冷水を浴びせることになりますから、金融市場が大きな混乱に陥ることは想像に難くありません。

QEによる大量の資金供給を行って来たFRBにとっては、ポートフォリオリバランス効果によって徐々に貸出しが伸び、超過準備預金が減っていくことが理想だったはずです。しかし、現実には法定準備預金の19.3倍に及ぶ準備預金を抱える結果となってしまいました。

現実には、日米ともにQEによるポートフォリオリバランス効果というのは現れなかったということです。こうしたことが明らかになる中で、批判がある中でも「テーパリング」に踏み切ったFRBの決断力はさすがといったところです。これに対して、「2%の物価安定目標」というシングルイシューに向かってQEのさらなる拡大強化を図ろうとする日銀。このまま行けば法定準備預金に対する準備預金残高の倍率でFRBを抜くのは時間の問題です。そしてこれは、「具体的出口論」をFRB以上に難しくすることでもあります。もちろん、経済音痴の安倍総理も、行政の専門家であって金融の専門家でない黒田総裁も気付いていませんが。

FRBにとっての理想形は、穏やかな景気回復が続き、徐々に超過準備預金が減っていくという形だと思います。穏やかな景気回復によって長期金利には上昇圧力が加わることが想定されますが、長期金利に対する上昇圧力自体に、景気の過熱を抑え、超過準備預金の急激な現象とそれに伴うマネーサプライの大幅上昇を抑制する効果がありますから、出来れば政策金利の引上げという手段を使わずに済ませたいと考えるはずです。

一方、FRBによる利上げ先送り観測が市場で強まれば、株価の上昇など金融市場でバブルを生じさせる懸念が生じます。イエレン議長は現時点ではバブルにはなっていないという見解を示していますが、6月18日の記者会見では「高利回り債はもちろんわれわれの目に留まっている。一部で利回り追求の兆候が出ている。これが低ボラティリティー環境を警戒していると述べた理由の1つだ。これがレバレッジの増大や、急激な巻き戻しや金利急騰などを招きかねないリスクテークを誘発するようなら、懸念材料だ」(ロイター)と、ボラティリティーの低下やそれに伴うレバレッジの増大などに対する警戒感は示しています。

金融市場でバブルが発生することを未然に防ぐためには、金利の引上げや、銀行に対する資本規制の強化などをする必要があります。しかし、こうした政策は景気と銀行貸出を抑制するものですから、ポートフォリオリバランス効果によって貸出しが増え、超過準備預金が減っていくという「出口」を自ら塞ぐ政策でもあります。

「抽象的出口論」の上では、FRBの利上げは近くなったといえるかもしれません。しかし、「具体的出口論」では、そう簡単には行かないというのが現実です。FRBがどこまで株価の上昇や、ハイイールド債の金利低下に目を瞑るのかが今後の焦点になりそうです。イエレン議長の本音は、穏やかな景気回復と、穏やかな長期金利の上昇が起きることかもしれません。

一つハト派であるイエレン議長にとって都合がいいことは、今年のFOMCで投票権を持っているメンバーにタカ派が多いということです。現実には単純に利上げに踏み切ることが難しい状況にあるイエレン議長にとって、タカ派から出て来る利上げ圧力をうまく利用できれば、市場の牽制に使える可能性あるということです。今後の金融政策のポイントは、イエレン議長がどれだけタカ派の意見を市場の牽制に使ってバブルが膨らむのを抑え込むかに懸かっているのかもしれません。


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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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