投信、乗り換え販売増 ~ 矛盾する「販売額重視から預かり資産残高重視への転換」と「成果主義」

(2014年7月5日)
「金融庁は4日、金融検査の年次報告書を正式発表した。重点検証した投資信託の販売体制では、手数料稼ぎを優先した乗り換え販売が多いことが分かった。投信は乗り換えるたびに手数料を支払うため、運用効率が悪化して顧客の資産は元本割れしやすくなる。金融庁は銀行に販売体制の見直しを促す」(5日付日本経済新聞 「投信、乗り換え販売増」)

「貯蓄から投資へ」という流れの中で主役となることが期待されている投資信託。「投資信託協会が12日発表した5月の投資信託概況によると、設定額から解約・償還額を差し引いた株式投信の資金動向は6134億円の流入超だった。流入超は5カ月連続」(6/12付日経電子版「5月の株式投信、流入超は6134億円 5カ月連続の流入超」)と報じられている通り、昨年からのアベノミクスによる株高やNISAの登場を受けて販売は好調を保っています。

しかし、その好調な販売は、「手数料稼ぎを優先した乗り換え販売」によって支えられていることが金融庁の検査で明らかになりました。

「金融庁は営業職員を評価する際、販売額を重視する銀行が多いと指摘。顧客に投信の乗り換えを頻繁に勧める要因とみる。銀行に営業員の評価基準を販売額重視から預かり資産残高重視に変えるよう促す」(同 日本経済新聞)

金融庁は「営業員の評価基準を販売額重視から預かり資産残高重視に変えるよう促す」方針を示していますが、この方針はバブル崩壊以降国内の大手証券会社が対外的に掲げても、なかなか定着させられずにきたものですから、銀行で定着するかは保証の限りではありません。

「資産残高重視」がなかなか定着しないのは、公募投信のビジネスモデルによるところが大きいと言えます。「金融講座」の中でも取り上げる部分ですが、投資信託のビジネスモデルは、販売会社は「販売手数料」と「残高報酬(信託報酬)」を受けとり、運用会社は「残高報酬(信託報酬)」を受取る形になっています。

「販売手数料」も「信託報酬」も約款に定められていますが、「販売手数料」は販売会社が約款に定められた範囲(例えば3%)内で、自由に設定することが出来ます。ですから、約款で3%以内と定められていれば、「販売手数料」を3%にすることも可能です。これに対して、「信託報酬」は大体年間1.5~1.6%程度で、それを「販売会社」と「運用会社」「信託銀行」の3者で分けることになっており、「販売会社」の取り分は年間0.7%程度と、1%未満になるのが一般的です。

「販売手数料」から得られる収入が、顧客の保有期間に関らず販売代金の3%であるのに対して、「残高報酬(信託報酬)」から得られる収入は、1年間顧客が保有してくれても1%にも満たない状況にあります。このように、「販売」と「残高」から得られる「収入格差」も、「販売額重視」から「資産残高重視」への転換を阻む現実的な壁となっているのです。

ましてや、昨今は「成果主義」が叫ばれ、「成果に応じた報酬」というのが定着して来ています。こうした大きな社会の流れの中での「販売額重視」から「資産残高重視」への転換は、営業員の「成果」を数分の1に減らすものでもあります。販売会社にとっても「販売額重視」から「資産残高重視」へ転換することは、売上減、つまり「成果報酬」の原資の減少を意味しますから、「資産残高重視」に移行しつつ営業マンの「成果報酬」をそれに見合う形で引上げるというのは現実的に難しいということになります。

「販売額重視」から「資産残高重視」への転換というのは、証券業界で長年掲げられた美しい目標です。しかし、「成果主義」を推し進める中でそれを達成して行くというのは、ビジネスモデル上の矛盾を秘めたことですから、現実的には極めて達成が難しいと言わざるを得ない状況にあるのです。

「貯蓄から投資へ」と叫ばれる中で、投資信託は重要な役割を期待されています。しかし、日本の投資信託というのは、「運用環境の変化」ではなく、「販売環境の変化」に翻弄され続けて来た不幸な商品でもあります。「金融講座」のなかでは詳しくお伝えしていますが、投資信託などを購入し「投資家デビュー」する前に、投資信託業界の状況やビジネスモデルについては知っておく必要があります。

長年投資運用業務に携わって来た経験から不思議に思うことは、個別銘柄に投資する際にはその企業の収益状況やビジネスモデル、ビジネス環境を調べる人や、その重要性を解く専門家と称する人が多いのに対して、投資信託に投資する際に、投資信託のビジネスモデルを気に掛ける人など殆どいないということです。

なぜ、このような当たり前のことが行われていないのかというと、それは、「貯蓄から投資へ」を煽る政策当局や販売会社にとって、あまり都合が良くない情報だからです。

投資信託のビジネスモデルがどのようなものかを知らなければ、一般投資家が銀行や証券会社の営業員の説明を客観的に判断することは出来ません。しかし、販売サイドに都合の良くない情報はブラックボックスに納められたまま一切触れず、販売サイドに都合のいい情報だけを渡した上で、「自己責任原則」という尤もらしいキャッチコピーのもとで個人投資家はリスクをとらされているというのが現実です。

約25年資産運用業務に携わって来た経験を持つ一人の人間としては、こうした状況が続いて来たことが、「貯蓄から投資へ」という流れが日本で定着して来なかった最大の原因でもあると考えています。

「投信の平均保有期間は短期化しており、13年度末で2年と09年度に比べ1年近く短くなった」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、このように「投信の平均保有期間が短期化」して来ていることが、問題であるかのような書き方をしています。しかし、本質的問題は投信の平均保有期間が長いか短いかではなく、現在の投資信託が「長期保有」に値する商品性になっているのかという点です。もし、現在の投資信託の商品性が「長期保有に適さない商品性」だったとしたら、「投信の平均保有期間の短期化」は当然の行動ということになりますし、反対に「長期保有に適した商品性」であるのであれば、「投信の平均保有の短期化」は投資家にとって無駄な投資行動ということになります。

問題なのは、日本を代表する経済紙を筆頭に、このような観点からの考察が全く行われないことです。

個人的には、現在の投資信託は「長期保有に適さない商品性」になっているがために、「保有期間の短期化」が進んで来ていると考えています。そして、こうした状況になってしまったのは、投資信託の歴史が「運用環境の変化」ではなく、「販売環境の変化」によって積み上げられて来たということです。

「貯蓄から投資へ」という言葉に背中を押され、「投資家デビュー」を検討されている方には、その前に投資信託業界の仕組やビジネスモデルについて十分に勉強して頂きたいと切に思います。


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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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