「日経・東大日次物価指数」公表開始 ~ 「デフレからの脱却」が進んでいるかを測るバロメーター

(2014年7月10日)
吉と出るか凶と出るか。結果はともかく、日本を代表する経済紙の賭けには拍手を送りたいと思います。

中曽宏日銀副総裁が都内の講演で「2%の物価安定の目標の実現に道筋を順調にたどっている」「デフレの制圧が視野に入ってきた」と金融緩和の効果に自信を示した8日、「東京大学と日本経済新聞デジタルメディアは8日、日次の物価指数の情報サービスで提携すると発表」(9日付日本経済新聞 「東大と日経 日時物価指数で提携」)しました。

東大と日経は、以前から「東大日次物価指数の原データは株式会社日本経済新聞デジタルメディアから提供を受けています」(「東大指数の概要」より)という提携関係にありましたから、今回の提携も当然の流れだと言えます。

「東京大学と日本経済新聞デジタルメディアが提供する日次物価指数は、日本経済がデフレ脱却に向けて進んでいるかを検証するデータの一つとなる」(9日付日本経済新聞「東大・日経の物価指数 脱デフレ 検証の一助に」)

日本経済新聞は、「日経が算出業務などを受託し、今月下旬から『日経・東大日次物価指数』としてQUICKの情報端末や日経電子版などでデータを提供する」(同 日本経済新聞)ことが、「脱デフレ検証の一助」になると踏んでいるようです。

しかし、日本経済新聞の思惑通りにことが進む保証はありません。

日銀が「デフレの制圧が視野に入って来た」という自信を深めているのは、消費者物価指数が上昇して来ているからです。6月27日に発表された5月の全国消費者物価指数は、「総合指数」が前年同月比3.7%上昇、「生鮮食品を除く総合指数」(コア指数)が同3.4%上昇、そして「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数」(コアコア指数)が2.2%の上昇となっています。

日銀は消費増税の影響を2.0%程度だと見積もっていますから、消費増税の影響を除いた5月の消費者物価指の上昇率は1.4%程度となり、これを以て「2%の物価安定の目標の実現に道筋を順調にたどっている」と評価しているわけです。しかし、日銀の消費者物価指数に対する「消費増税の影響」が4月1.7%、5月2.0%というのは、あくまで日銀の推計に過ぎませんから、本当に「デフレからの脱却」が進んでいるかは判断することが難しい状況にあります。

これに対して、「東大日次物価指数」は、「個々の商品について税抜価格を計算し,それをもとに算出」(「東大日次物価指数プロジェクト」より)される物価指数ですから、消費増税の影響を考慮する必要がないという特徴を持っています。

そして、「東大日次物価指数」のもう一つの大きな特徴は、「対象店舗は約300のスーパーマーケットで,対象商品はそこで販売されているほぼ全ての商品です。具体的には,食品,飲料,家庭用品などです。スーパーでは生鮮食料品も販売されていますが東大指数の対象商品ではありません」(「東大日次物価指数プロジェクト」より)というように、生鮮食品は含まれず、主に加工食品と家庭用品から算出されている物価指数だというところです(参照:「東大日次物価指数に含まれる品目一覧」)。

「東大日次物価指数」が注目されるのは、消費者物価を押し上げている「生鮮食品」や「エネルギー」が含まれていないところです。

日銀は消費者物価指数が上昇して来ていることを理由に「デフレからの脱却」が進んでいると強調しています。確かに5月の消費者物価指数(総合)は前年同月比で3.7%の上昇となりましたが、それを牽引したのは「生鮮魚介」14.3%上昇、「生鮮野菜」11.6%上昇、「生鮮果物」10.2%上昇といった「生鮮食料品」を始め、「電気代」11.4%上昇、「灯油」9.9%上昇、「ガソリン」9.6%上昇といった「エネルギー価格」と、「消費者物価指数(コアコア指数)」や「日経・東大日次物価指数」に含まれないものばかりとなっています。

「生鮮食品」は天候要因が大きいですし、「エネルギー価格」は国際市場の動きや原発停止に伴うLPGの輸入増などの特殊要因の影響も大きく、日銀の金融政策の効果による「経済の好循環」によって物価上昇が起きていると言えるかは疑わしい限りです。実際に「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数」(コアコア指数)の5月の上昇率は前年同月比で2.2%ですから、消費増税の影響が2%程度なのだとしたら、国内要因ではほとんど物価上昇は起きていないということになります。

東大日次物価指数」の直近の動きを見てみると、消費増税が実施された直後の4月7日に一時0.73%上昇を記録しましたが、その後は一進一退を繰り返しながら低下傾向を辿り、7月7日時点では0.21%の下落と、「デフレからの脱却」どころか、「デフレに逆戻り」しかねない状況になっています。

「東大日次物価指数」の対象になっている商品は、加工食品と日用雑貨ですから、その価格には「電気代」を始めとした「エネルギー価格」の上昇に伴うコストの上昇が含まれています。コストサイドに消費者物価指数の上昇を牽引する「エネルギー価格」が含まれている商品の価格が「デフレに逆戻り」するかのような動きを見せているということは、販売業者がコスト上昇分を価格転嫁出来ていないことを意味しますから、政府・日銀「経済の好循環」は起きていないことの証左でもあります。

日本経済新聞は、「今月下旬から『日経・東大日次物価指数』としてQUICKの情報端末や日経電子版などでデータを提供する」ことが、「日本経済がデフレ脱却に向けて進んでいるかを検証するデータの一つとなる」と報じています。

しかし、原油価格の上昇、天候不順という日銀の金融政策の効果とは言えない原因で上昇する「消費者物価指数(総合)」と、天候不順の影響を受ける「生鮮食品」は含まれず、製造コストの上昇のみ反映する商品の価格から算出される「日経・東大日次物価指数」との乖離が広がるということは、それだけ家計の負担感の増加、実質購買力の低下を意味するものです。したがって、「消費者物価指数(総合)」と「日経・東大日次物価指数」の乖離は、「家計の実質購買力」をリアルタイムに示す指数という側面も持っています。

これまで日本を代表する経済紙は、政府・日銀の広報誌の如く「人手不足」を誇張して報じ、「経済の好循環」によって「デフレからの脱却」が進んでいるかのように宣伝して来ましたが、自分達が算出して公表する「日経・東大日次物価指数」が「デフレからの脱却」を示さなかったとき、どのように報じるのでしょうか。

政府や日銀の主張はデータ的には検証できないと物申す覚悟を持っているのか、それとも、その場合は、「日経・東大日次物価指数」には触れることなく、これまで通り政府・日銀の広報機関としての役割を務めるのでしょうか。日本を代表する経済紙が、自ら算出・公表する「日経・東大日次物価指数」を数多く紙面で報じることになるとしたら、それは「デフレからの脱却」が進んでいることの証であり、紙面で報じられることがなくなれば、それは「デフレからの脱却」が進んでいないことの証ということかもしれません。

「日経・東大日次物価指数」の動きのみならず、「日経・東大日次物価指数」がどれだけ日本を代表する経済紙の紙面を飾るのか、それも「デフレからの脱却」が進んでいるか否かを測る貴重なバロメーターとなりそうです。

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