投信残高過去最高に ~低金利下の「キャッシュフロー志向」の高まりと共に「リスク志向」を強める投信

(2014年7月11日)
◆ 「キャッシュフロー志向」の高まりを示す投信市場
「個人向け金融商品の代表である投資信託への資金流入が続き、資産残高が7年ぶりに最高となった。日本株の値動きがさえない中でも、新たな個人マネーが安定的に投資に向かう流れが定着。長引く低金利下で少しでも高い運用収益を稼ぎたいという投資ニーズは強まっている」(11日付日本経済新聞 「投信残高 最高に」

公募投資信託(契約型)の純資産残高が6月末で約83兆5000億円と、7年ぶりに最高となったことが報じられています。日経平均株価が38,915円の史上最高値を付けた1989年末時点での投資信託の純資産残高が約58兆円でしたから、日経平均株価が15,000円台の6月末時点でそれを15兆円以上上回っているというのは立派なものだと言えます。しかし、問題は「長引く低金利下で少しでも高い運用収益を稼ぎたいという投資ニーズは強まっている」というところです。

「前のピークの07年に残高が最大だったのは、リスクが低い主要国の国債で運用する『グローバル・ソブリン・オープン』(グロソブ、5兆6000億円)だった。投信全体の残高が積み上がる中で、4月に『USハイ・イールド』が『グロソブ』を逆転したのは、マネーの中身が利回り・リスク志向に変わってきたことの表れといえる」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、このように「マネーの中身が利回り・リスク志向に変わってきた」と指摘しています。しかし、こうした分析は短絡的かつ楽観的過ぎるものです。

現在の投資信託市場の特徴は、純資産残高上位10本のうち、上場投信を除く6本は「毎月分配型」が占めていることです。「毎月分配型」というのは、複利効果が低くなりますから、「利回り志向」の強い投資家にとっては必ずしも合理的な選択ではありません。それでも「毎月分配型」志向が強いということは、「利回り志向よりもキャッシュフロー志向が強い」ことを表したものです。

記事の中で紹介されている「USハイ・イールド」の毎月の分配金(実績)が70円であるのに対して、「グロソブ」は20円に過ぎません。そして、純資産残高上位10位に名を連ねている「毎月分配型ファンド」の分配金(実績)は、「グロソブ」を除くと全て50円以上となっています。こうしたことから窺えることは、「年金代わりの現金収入を見込む中高年層など投資家」(同日本経済新聞)が投信を購入する際に最も重要視しているのは、「利回り」ではなく、「キャッシュフロー」だということです。

◆ 「キャッシュフロー」を維持するための「リスク志向」
問題は、「先進国の金融緩和などで超低金利が長期化している」(同)ことで、「年金代わりの現金収入を見込む中高年層など投資家」が、投資対象を「為替変動リスクのほか、企業の信用リスク、景気(不動産)リスクがある」(同)に広げて来ているというところです。

世界的な低金利によって、安全性の高い債券だけでは分配金を確保することは難しくなっています。販売会社や運用会社が「年金代わりの現金収入を見込む中高年層」の期待に沿う分配金を提供するためには、よりリスクの高い商品を投資対象にしていく以外にありません。

例えば、「リスクが低い主要国の国債で運用」する「グロソブ」の分配金は、1998年8月から2000年12月までは毎月60円、2001年1月から2008年12月までは毎月40円でした。「グロソブ」で毎月40円以上の分配金を受け取った経験がある「年金代わりの現金収入」を求める投資家にとって、毎月20円という分配金は、「現金収入」が半分以下に減ることを意味するものですから、以前のように40円以上の「現金収入」を得られる投信に資金をシフトして行くのは当然のことです。

つまり、現在「年金代わりの現金収入を見込む中高年層など投資家」が、ハイ・イールド債や国内外のREITに投資する投信に多く投資して来ているのは、「リスク志向が強まった」のではなく、「キャッシュフロー志向の根強さ」を表したものだということです。換言すれば、毎月必要な「年金代わりの現金収入」が先にあり、それを確保するために無意識にリスクを広げて来ているということで、投資家が、ハイ・イールド債や国内外のREITのリスクを正しく認識してリスク志向を強めているとはいえません。

投資において、リスクとリターンはトレードオフの関係にありますから、安全資産である国債の利回りが低下する中でリターンの水準を維持しようとすると、取るべきリスクが高まっていくのは当然の帰結です。

◆ イエレンFRB議長からの警告
「市場の変動率(ボラティリティー)が非常に低下しているなかで、投資家がレバレッジを膨らませたり、運用リスクを取ったりする姿勢を強めて、その後に急速に巻き戻すなどした場合、市場金利の急騰などを招きかねない。世界経済に及ぼす影響を考えると、そうした事態は避けなければならない」(6月19日付日経電子版 「イエレンFRB議長の記者会見詳報」)

日本の投資信託で起きている「年金代わりの現金収入」を得るために「リスク志向」が強まって来ているという現象も、先月の記者会見でイエレンFRB議長が示した「投資家がレバレッジを膨らませたり、運用リスクを取ったりする姿勢を強める」という懸念の中に含まれる類のものです。

国債利回りの低下に伴って、世の中全体の期待利回りが下がる中で、リターンを保つために行われる代表的な投資行動は、不動産投資やオプション投資でよく見られるレバレッジを上げる、ヘッジファンドや投資信託によく見られる信用リスクを上げるといったものです。

この信用リスクを引上げるという投資行動の恐ろしいところは、ヘッジが効かないというところです。株式や為替となど、金融市場での価格変動リスクは先物やオプションなどを利用してある程度リスクをコントロールすることは可能です。しかし、信用リスクをヘッジするためには、投資しているもの以上に信用リスクの高いものを売る(例えばCDSを買建てる)などする必要がありますが、売建てた銘柄の信用リスクが顕在化しなければコスト倒れになってしまう可能性がありますから、期待するリターンを得られる保証はありません。

ヘッジファンド破綻の歴史をみても、大量の資金の運用先に困ったファンドが信用リスクに突っ込んでいき、最終的に信用リスクの顕在化によって多くの資産を失い破綻するということが幾度も起きています。

昨今の世界的低金利の中で、日本の投信も「年金に代わる現金収入」を求めて信用リスクに足を踏み入れて来ています。これまでと違うところがあるとすれば、信用リスクの対象が、新興国から先進国の財務リスクの高い企業に変って来たことで、ポートフォリオの分散が効く可能性があることかもしれません。

しかし、このまま低金利、低ボラティリティという状況が続けば、投資資金はもっとリスクの高いところに向かわざるを得ないことになります。「年金に代わる現金収入」を得るために、これ以上リスクを高めることが合理的な判断なのか。日本の投資家もイエレン議長の警告を胸に手を当てて考えるべき時に来ているのかもしれません。

少なくとも、投信残高が増えて来たことで、「新たな個人マネーが安定的に投資に向かう流れが定着」、「マネーの中身が利回り・リスク志向に代わって来た」と能天気に喜んではいられない局面に差し掛かって来ていると考えた方が賢明だと思います。


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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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