官制「下げ渋り相場」 ~ 主役はやっぱり公的年金?

(2014年7月12日)
◆ 報じられる「アベノミクス相場初」と、報じられない「アベノミクス相場初」
「5日続落は12年11月5~13日に7日続落して以来、1年8カ月ぶりの長さとなる」(12日付日本経済新聞 「株、個人の強気一服」)

東京株式市場で日経平均株価がアベノミクス相場で初めてとなる5日続落を記録したことが報じられています。しかし、5日間の下落幅が273円と小幅なこともあり、市場の悲観ムードは限定的だとも報じられています。その一方で、日銀がETFを「アベノミクス相場で初めて4日連続購入(1日の購入額144億円)」したことは、全く報じられていないようです。

◆ オプション取引を理解出来ていない日本を代表する経済紙
「日経平均の1万5000円の水準を、あたかも『鉄板』と意識しているかのような相場展開だ。市場参加者の間に『すわ、公的年金の買いか』との臆測も広がる。ただ本当の理由は別にありそうだ。鉄板形成の主戦場は日経平均オプション市場だった」(12日付日本経済新聞 「公的年金、主役にあらず」)

日本を代表する経済紙は、株式市場が下げ渋りを見せている理由について「真相はプットオプションと呼ぶ金融派生商品だ」という解説を紹介しています。

「7~8日、プロの度肝を抜く取引があった。日経平均オプションのプットで約2万2500枚、想定元本で3500億円と大規模なものだ。14年9月物で権利行使価格は相場水準に近い1万5375円。3回に分けて取引された。…(中略)… しかも主役はヘッジファンドではないという。長期資金を動かす海外の年金か運用会社が、大量にプットを売ったようだ」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、「今回、巨額プットの買い手になったのは外資系証券とされる。実は、証券会社側の行動にも株価を支えるメカニズムが内包されている。多くの場合、プット買いと同時に証券会社が日経平均先物を買うことで相場に中立になろうとする。その行動が相場下落を阻む」と解説しています。

確かに、投資家の巨額のプット売り注文に応じてプットの買手になった外資系証券会社は、自分のポジションが売りに傾かないように、まず日経平均先物を買建てるのが基本です。そして、基本形に従えば、日経平均株価がこの先上昇すれば、外資系証券会社のポジションは、今度は買いに傾いていくので、買建した日経平均先物売っていき、反対に日経平均株価がこの先下落した場合、外資系証券会社のポジションは売りに傾いていくので、日経平均先物を買い増していくという調整行動をとることになります。

こうした外資系証券会社の行動は、確かに「相場下落を阻む」ものだと言えますが、同様に「相場上昇を抑える」効果も含んでいるということを忘れてはいけません。おそらく、この記事を書いた記者も、記者に情報を提供した関係者も、こうしたオプション取引に関る売買(デルタトレーディング)に関して正確な知識を持っていないのだと思われます。彼らには、拙著「中学1年生の数学で分かるオプション取引講座」(Kindle版)を読むなり、「金融講座」を受講して頂き、オプション取引に関する正確な知識を身に付けて頂きたいと切に願うばかりです。

◆ 主役は国内投資家である可能性が高い
「しかも主役はヘッジファンドではない」、「長期資金を動かす海外の年金か運用会社が、大量にプットを売ったようだ」とこの記事では指摘しています。おそらく、プットオプションの売手がヘッジファンドでないという推察は正しいと思います。しかし、大量のプットの売手が「長期資金を動かす海外の年金か運用会社」であるという推測は間違いだと思います。それは、オプション取引を熟知している海外投資家は、直近の相場環境は大量のプット売りを行うのには適した環境ではないことを理解しているはずだからです。

「彼らは、今回のプット売りで約85億円を手にしたとみられている」(同日本経済新聞)

このように、オプションを売建てた際に受け取るプレミアムに目を奪われてしまっているところに、この記事を書いた記者がオプション取引に精通していないことが如実に現れています。受け取るプレミアムは市場のボラティリティに連動するものです。その日経平均のボラティリティ(21営業日ベース)は、11日時点で11.4%と、2013年以降の平均値24.1%の半分以下、かつ最低水準にあります(日経平均のボラティリティのチャートはこちらから)

つまり、足下の株式市場の状況は、オプションを売ってプレミアムを受取るには最も適していない状況にあるのです。こうした環境の中で「想定元本3500億円」ものプットオプションを売建てるという投資行動をとるということは、「オプション取引を理解していない投資家」が行った取引、つまり、国内投資家が行ったと考える方が理に適っているように思います。

◆ 「大規模な資金を持ち、一流の人材がいない国内投資家」は…
「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本株を買い増すのはまだ先」(同日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、GPIFが「日本株を買い増すのはまだ先」だということから、今回の大量のプットの売り手はGPIFではないと決めつけているようです。しかし、GPIFは、「今秋をメドに、資産構成割合を議論」しているところで、国内外の株式の構成比率を引上げるという新しい方針は「9月にもまとまる」と言われています。

今回のプットオプション売建の一つのポイントは、決済日が9月12日だと思われるところです。例えばGPIFが9月中に日本株を買い増すことを決めれば、日経平均株価が下落してGPIFが9月12日に約3500億円の日本株を現引きしたとしても、新しい資産構成に基づいた日本株買いと言えることになります。反対に日経平均株価が上昇していれば、今回のプット売りによって手にした「約85億円」をそのまま手に入れることが出来ます。このように考えると、今回のオプションの売り建は、GPIFにとっては都合のいい取引だと言えます。

GPIFは、2014年3月にも日本株を2500億円買い増していますから、9月1ヶ月で3500億円買い増してもおかしくありません。その時には日本株の構成比率を上げるという結論が出ているはずですから。

GPIFは、現在「経営トップである理事長に投資対象や運用会社を選ぶ権限が集中している」(日本経済新聞)状況である上、「現場の運用責任者に、銀行や証券会社から一流の人材を招く」(日本経済新聞)ことを検討している段階です。つまり、「一流の人材」なら行わないような取引を行ってもおかしくない状況にあるわけです。

「想定元本3500億円」のオプションを売り建てられるほどの資金を持っている国内投資家は限られています。さらに、それだけの規模のオプションの売建を、理に適わないタイミングで実行するということは、「一流の人材がいない」という証拠でもあります。「想定元本3500億円」ものオプションを売り建てられるほどの資金を持ち、かつ、「一流の人材がいない」という国内投資家は、GPIF以外にいないといっても過言ではありません。

オプション取引を理解出来ていない日本を代表する経済紙は、今回の大規模なプット売りについて、「公的年金、主役にあらず」と大きな見出しを付けて報じていますが、状況証拠は「公的年金はクロ」だと言っているように思えてなりません。

◆ 一流シェフを八百屋さんや魚屋さんに求めるGPIF
最後に蛇足となりますが、12日付の一面に掲載された「公的年金に民間人材」という記事の中で、「GPIFは国債に偏った運用から脱却し、国内外の株式などを増やす方針」であること、「現場の運用責任者に、銀行や証券会社から一流の人材を招く」ことが報じられています。

国債に偏った運用から国内外の株式を増やす方向へ舵を切る中、国債偏重でリスク資産投資の経験の乏しい銀行や、ブローカレッジ業務が本業の証券会社に「一流の人材」を求めるという発想自体が、GPIFや有識者達が、株式や債券の「売買」と「資産運用」の違いを全く理解していないことの現れです。

GPIFがやろうとしていることを分かりやすく例えれば、優秀なシェフを八百屋さんや魚屋さんから探そうとするようなもの。こうした状況を見る限り、資産構成比率を見直したところで、GPIFの運用が市場任せ、風任せであり続けることは避けられないと思います。国民は金融市場がGPIFに都合のいい方向に動き続けるよう、これまで以上にただただ、毎日祈るしかない状況に追い込まれているようです。


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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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