建築費21年ぶり高騰 ~「人手不足」は「金目」で越すが、越すに越されぬ「人材不足」

(2014年7月17日)
「住宅や公共施設など建物の建設コストが上昇している。建設業の人手不足が続くなか、2020年の東京五輪対応など旺盛な建設需要が工事費を押し上げている。個人の住宅投資や企業の出店意欲に悪影響を及ぼし、経済成長の足かせになる懸念もある」(16日付日本経済新聞 「建設費21年ぶり高騰」)

「経済成長の足かせ」という表現が適切であるかは定かではありませんが、「人手不足」が経済のボトルネックになっている部分があることは確かだと思います。

「建設費の高騰を如実に示しているのが、建築着工単価の動きだ。床面積1平方メートルあたりの工事費を示す建築着工単価は5月に前年同月比9%増の18万7千円と、16カ月連続で前年同月を上回った。単価の水準はバブル崩壊から間もない1993年1月以来21年ぶりの高さだ」(同 日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は、「人手不足」によって建築着工単価が1990年代前半の水準にまで上昇して来たことを、「経済の好循環」「デフレ脱却」の一環として捉えているのかもしれません。しかし、1990年前後の建築着工単価の上昇と、今回の建築着工単価の上昇を同列に捉えるのは危険です。

建築着工単価は、東京都庁と幕張メッセの着工が重なった1980年代後半から急上昇、7年ほどの間に65%ほど上昇しました。今回、建築着工単価は1990年代中頃の水準まで戻りましたが、当時と大きな違いがあります。それは、1980年代後半には、建築着工単価の上昇と共に建設業就業者一人あたりの建築着工床面積が上昇したのに対して、今回は頭打ちになっており、1994年と比較して23%強も低い水準に留まっていることです。これは、1980年代後半には、建築着工単価の上昇と共に生産性も上昇したのに対して、今回は、建築着工単価が上昇しても生産性が上昇して来ていないことを意味するものです。

建築費(人手不足)

生産性が上昇しないのは、建設業の就業者数が1997年の平均685万人をピークに直近500万人程度まで低下していることではなく、「技能労働者」と言われる「人材」が足りなくなって来ていることによるものです。忘れてならないことは、工事量を決めるのは「人手」ではなく「人材」だというところです。鉄筋や型枠を運ぶ「人手」が幾らいても、それを加工し組立てる技術を持った「人材」が不足していたら工事量を増やすことは出来ません。

「政府は人手不足解消に向け対策を急いでいる。まずは即戦力となる外国人労働者の活用だ。現在は新興国から受け入れている『技能実習生』の滞在期間を最長3年間としているが、建設業では来年度から一定条件のもとで5年間に延長する。過去の実習生が再入国して働くことも解禁する」(同 日本経済新聞)

政府は、建設業界の人手不足を「即戦力となる外国人労働者」で補おうとしています。しかし、「即戦力」といっても、所詮「技能実習生」という「人手」であり、技術を持った「技能労働者」ではありません。工事量のキャパを決めるのは「人手」ではなく「人材」ですから、単純に「技能実習生」を増やすだけでは工事能力を引上げることは出来ません。

重要なことは、90年前後までは「技能労働者」は「金目」で集めることが出来たが、今では「技能労働者」を「金目」でも集められなくなってしまっているということです。それは、長期に渡る公共投資の削減などによって、建築工事額が1990年の49兆円強から足下で24兆円強と、ほぼ半分の水準になってしまったことで、「技能労働者」の育成が進まず、絶対量が不足してしまったからです。

安倍政権は、「機動的な財政政策」で景気浮揚を図ろうとしていますが、こうした財政政策が効果を発揮するためには、それに応えられる「技能労働者」が社会に存在していることが絶対条件になります。「技能労働者は一日にしてならず」で、「技能実習生」という「安価な人手」を確保することでは埋め合わせることの出来ないものです。

政府がなすべきことは、「人手」を「金目」で買うことは可能だが、工事量を減らし続ければ「人材」は「金目」で買うことが出来ないものになるということを認識することです。

そのうえで、「機動的な財政政策」を短期的な景気浮揚の手段として利用するだけでなく、何時起きてもおかしくないとされる南海トラフ地震などからの復興のためにも「人材不足」に陥らないように、公共事業などで一定の工事量を確保することです。政府は、公共事業の量を維持しておくことの重要性を訴え、国民の間に定着している「公共事業=悪」という図式を取り除いて行かなければなりません。もちろん、その過程では、政治家や一部の業界団体などが、公共事業から甘い汁を吸うことのないように襟を正していくことを忘れてはいけません。


金融講座

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR