粉飾される「月例経済報告」 ~ 「前向きな循環メカニズム」は崩壊している

(2014年7月18日)
◆ 「個人消費の持ち直し」を理由とした景気判断引上げ
「政府は17日、7月の月例経済報告をまとめた。4月に消費税率を上げた直後と比べると個人消費の落ち込みが和らいだと見て、6ヵ月ぶりに景気の基調判断を引上げた」(18日付日本経済新聞「景気判断 半年ぶり上げ 個人消費持ち直し」)

政府が景気判断を6ヵ月ぶりに引上げました。

「設備投資を含め、国内需要は、基調としては堅調に推移しており、そのもとで、景気の前向きな循環メカニズムは、雇用・所得環境の明確な改善を伴いながら、しっかりと作用し続けています」(日銀「2014年7月15日総裁記者会見要旨」)

日銀の黒田総裁も2日前の記者会見で「景気の前向きな循環メカニズム」が「しっかりと作用し続けています」と発言していましたから、政府も日銀も、日本経済は上向きであると主張したいのは間違いありません

政府と日銀が繰り返す「経済の好循環」「景気の前向きな循環メカニズム」。これは、「生産」活動が活発化に伴って「所得」が増え、それによって「支出」が増えて行くというサイクルが構築されていくことです。つまり、政府と日銀は、この「経済の好循環」の最後に位置する「支出」が持ち直してきたことを理由に景気の基調判断を引上げたということです。

政府、日銀が、「個人消費の持ち直し=支出の持ち直し」を理由に景気の基調判断を引上げ、「経済の好循環」が続いていると主張するためには、「個人消費の持ち直し」が、「生産」と「所得」の回復が維持されているのと同時に、次の「生産」と「所得」の回復に繋がっていくものでなければなりません。しかし、実際にはその「生産」と「所得」には陰りが見えています。

◆ 「生産」「所得」「支出」、全ての段階ででっち上げられている好循環
日本を代表する経済紙は、「景気指標はまだら模様」という題名の表を掲載し、その中で各種景気指標を「回復目立つ」「改善途上」「反動減続く」「停滞」の4段階に分類しています。そして、「生産」「景況感」「雇用」の3項目を「回復目立つ」に、「個人消費」を「改善途上」に、「設備投資」を「反動減続く」に、そして「輸出」を「停滞」に分類しています。

この表は、「生産」と「雇用(所得)」が「回復目立つ」なかで、「個人消費」が「改善途上」になって来たことで、「生産」「所得」「支出」という、経済の好循環のための「3本の矢」が揃ったことを印象付けるものになっています。

しかし、「生産」と「雇用(所得)」が「回復目立つ」というカテゴリーに分類されることには違和感を覚えます。

まず「生産」ですが、この表では「鉱工業生産指数」が取り上げられ、「13年12月の水準まで回復」という説明が加えられています。しかし、6月30日に発表された5月の鉱工業生産指数について、日本を代表する経済紙は「増税後の回復は業種ごとにばらつきがあり、当面は横ばい基調が続きそうだ」(6/30日経電子版)と報じていますし、今回の記事の中でも「5月の鉱工業生産指数が駆け込み生産が膨らむ前にあたる2013年12月の水準に戻った。一方、出荷指数は5月まで4カ月続けて前年比を下回り、底打ちが見えない。多くの専門家は景気が夏場には回復すると見るものの、出荷の回復が遅れれば在庫が積み上がり、いずれは生産の頭を押さえる」と、とても「回復目立つ」というカテゴリーに分類出来るとは思えないように報じています。

次に気になることは、政府、日銀とその広報誌である日本を代表する経済紙の常套手段ですが、「経済の好循環」の「所得」の回復を示すために「有効求人倍率」を持ち出して、如何にも「所得」が「回復目立つ」であるかのような姑息な手を使っていることです。

確かに5月の有効求人倍率は1.09倍と「21年11か月ぶりの高水準」になっていますが、以前、「『採用する気のない求人』によって嵩上げされる『有効求人倍率』と、でっち上げられる『人手不足社会』という記事でもふれたように、「正社員の有効求人倍率」は0.67倍に留まっている上、正社員の有効求人に対する就職件数の割合は7.67%と、2004年11月以降で最低、直近の最高値13.08%(2009年12月)と比較しても半分程度の低水準になっており、とても「回復が目立つ」とは言えない状況にあります。

また、そもそも論として、「経済の好循環」を主張するのであれば、「有効求人倍率」ではなく「実質所得」が回復していることを示さなければならないはずです。

「家計調査で見た2人以上世帯のうち勤労者世帯の5月の実収入は物価上昇分を差し引いた実質で前年同月比4.6%減と、8カ月続けて前年割れだ。世帯主の収入が名目で1.1%増えるなど賃金増の動きはあるものの、3%の増税分を含めた物価上昇には追いついていない」(6/28付日経電子版)

日本を代表する経済紙が「所得」の代わりに「雇用」、それも「有効求人倍率」を持ち出すのは、実際にはこのように「所得」が増えていないからに他なりません。

さらに「支出」については、「消費総合指数」などという月例経済報告でしか使われない一般に馴染みのない指数を持ち出して「2か月ぶり改善も、13年1月と同じ水準」と回復感を出しています。

月例経済報告では、「個人消費」の状況を判断する材料として「家計調査」と「販売側統計」に含まれる延12項目の指標が掲載されていますが、このうち前年同月比で改善を示している指標は、「コンビニエンスストア販売額(既存店、名目)」の1.3%と、「旅行業者取扱金額(国内、名目)」の2.5%の2項目に過ぎません。延12項目のうち、10項目が前年同月比で低下を示しているなかで、「消費総合指数(実質)」なるものは、何故か前年同月比で1.3%も改善を示しています。

「総務省が27日発表した5月の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出が1世帯あたり27万1411円と、物価の動きを除いた実質で前年同月に比べて8.0%減った。減少率は4月の4.6%減よりも大きい」(6/28付日経電子版)

日本を代表する経済紙がこのように伝えている通り、「個人消費」は本来「改善途上」ではなく、「停滞」あるいは「反動減続く」に分類されて然るべき状況にあります。

このように考えると、政府と日銀は、実際には「停滞」あるいは「反動減続く」という状況にある「生産」と「所得」を「回復目立つ」にでっち上げた上に、「個人消費」を「改善途上」に嵩上げすることで「経済の好循環」が続いているかのような演出をしていると言えます(正確には「所得」は「反動減続く」ではなく、「現象傾向継続」ですが)。

◆ 安倍政権のジレンマ、そして公的年金資金が投入される
実際の日本の経済が「前向きな循環メカニズム」から脱線してしまっていることは、債券市場で金利が低下して来ていることにも表れています。政府、日銀が、この先も「経済の好循環」が続いていると粉飾し続けるためには、「円安・株高」の維持、加速が絶対条件となって来ています。ただ、2年続けてアベノミクス2本目の矢である成長戦略が市場に無視されてしまいましたから、「円安・株高」を維持するためには1本目の矢である「追加緩和」に頼る以外にない状況にあります。

しかし、日銀に「追加緩和」に踏み切らせるためには、「2%の物価安定目標」の達成が困難になったこと、つまりは「前向きな循環メカニズム」が途切れたことを日銀が認めることが必要になります。一方で「前向きな循環メカニズム」が崩れたことを認めるということは、日本経済が来年に予定されている消費税率引上げを行える経済状況にないことを認めることにもなりますから、すんなりとは「追加緩和」に踏み切ることは難しくなって来ています。もちろん、政府、日銀は、そうした事態に追い込まれた場合は、「物価」と「経済の好循環」は別問題だという詭弁を生み出すとは思いますが。

このように、「追加緩和」と「消費増税」との間でジレンマに陥っている安倍政権と日銀が打てる手立ては、日銀がETFを買い続けることで株価を支え、国民の大切な公的年金の資金を出来るだけ早く国内株式に振り向けるということです。国民は、安倍政権が「経済の好循環」という粉飾をするために、自分達の大切な公的年金資金が「成長戦略」という名のもとに使われていくことを覚悟しなければならないようです。


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