日銀総裁を務めるために必要なたった「2つの台詞」

(2014年8月9日)
8日の金融政策決定会合後の黒田日銀総裁の記者会見を聞いていて、以前、

「法務大臣とは良いですね。二つ覚えときゃいいんですから。 個別の事案についてはお答えを差し控えますと、これが良いんです。 わからなかったらこれを言う。で、後は法と証拠に基づいて適切にやっております。この二つなんです。まあ、何回使ったことか」

という軽率な発言をして辞任に追い込まれた法務大臣がいたことを思い出しました。

その法務大臣風に言えば、今の日銀総裁というポジションは、

「日銀総裁とはいいですね。二つ覚えておきゃいいんですから。『景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている』、何があってもこれを言う。で、後は『今後とも2%の物価安定目標の実現をめざし、量的・質的金融緩和を継続する』。この二つなんです。まあ、何回使ったことか」

と言う感じなのではないでしょうか。

辞任に追い込まれた元法務大臣には、何が起きても壊れたレコーダーのように同じ発言を繰り返すことが許されている黒田日銀総裁の姿が羨ましく映っているのかもしれません。これだったら俺でも日銀総裁は務まると。

問題なのは、何が起きても「前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」ということばを繰り返すことに対してマスコミや有識者、エコノミスト達から全く反論が出てこないことです。

2004年12月に、野村証券出身で当時CSFB証券チーフ・ストラテジストであった現クレディスイス証券取締役副会長水野温氏が、民間エコノミストとして日銀政策委員メンバーに選出されてから、民間エコノミストにとって日銀政策委員は現実可能性のある目標になりました。水野氏は就任記者会見で「これからもこういう人間が入れるように、私がつまずいてしまうとまたそういう道が途絶えてしまうので、しっかりやらせてもらえればと思う」と発言され、後進の民間エコノミスト達に日銀政策委員になる道を残すことに意欲を示していました。

その水野氏の功績のおかげか、現在では6人いる日銀政策審議委員のうち2人は佐藤委員(モルガン・スタンレーMUFG証券)と木内委員(野村証券金融経済研究所)という民間エコノミストで占められています。日銀政策審議委員の任期は5年ですから、この2人の任期は2017年7月で、あと3年ほどになっています。3年後にあわよくばと虎視眈々とその席を狙っている民間エコノミスト達は、日銀に批判的なコメントをするようなリスクを冒すことはせず、残り3年間日銀に媚を売るようなコメントをすることに精を出すことになります。

民間エコノミストの政策審議委員への登用は、日銀政策委員会の形骸化を避けるための一環として取入れられたものです。しかし、今ではその座を得るために民間エコノミストが日銀にゴマをすり続けるようになってしまっており、チェック機能が全く働かない危険な状態になってしまっています。

「日本の景気は、このところ輸出や生産に弱めの動きが見られるものの、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」(同 日本経済新聞 「日銀総裁の会見要旨」)

黒田日銀総裁は「雇用・所得環境が着実に改善するもとで」という条件付きで「景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」と主張しています。もしそうであるならば、エコノミストのやるべきことは、「雇用・所得環境が着実に改善する」と判断している材料を確認することであるはずです。日銀総裁の記者会見を報じている9日付の日本経済新聞の一面トップ記事「増益確保 製造業けん引」のなかでは「一方で非製造業は7%の減益となった。小売りやサービス業など内需企業が多く、消費増税が影を落としている」と、内需が厳しい状況にあることが報じられているのですから。

「輸出や生産に弱めの動きが見られる」なかで、「小売りやサービス業など内需企業が多く、消費増税が影を落としている」状況で、どのようにしたら「景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」という結論が導かれるのでしょうか。

「日銀はなぜこの実態を認めない?政府からの言論統制でもあるのか?」(同 日本経済新聞 「スクランブル~ 『格差』突くファンド勢」)

証券欄の「スクランブル」では、このようなマクロ系ヘッジファンドの苛立ちの声を紹介しています。この記事自体は余りレベルの高い内容ではあるとは思えませんが、紹介されているこのコメントは日本の実態を表したものだと思います。

政府との共同声明によって、「2%の物価安定目標」という達成が極めて難しいハードルを達成するまで、独自の判断で金融政策変更をする権利を奪われた日銀と、日銀の政策委員会メンバーになることを夢見て政府・日銀の政策にヨイショすることを優先する民間エコノミスト達。こうした政府をトップとしたヒエラルキー(階級、階層)が構築されたことで、政府や日銀に対する批判は封じ込められ、「政府からの言論統制」があるかのような社会に見えるようになってしまっています。

それと同時に、日銀総裁という重要なポジションが「景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」と「今後とも2%の物価安定目標の実現をめざし、量的・質的金融緩和を継続する」という「2つの台詞」を繰り返せば成り立ってしまうものに貶められてしまいました。

国民にとって不幸なことは、法務大臣の立場を貶めた政治家を辞任に追い込むことは出来ましたが、今の金融政策に関る分野でヒエラルキーが確立されたことで、どんなに日銀総裁が現実を直視する能力に欠けたとしても、ヒエラルキーのトップに君臨する政府都合のいい「2つの台詞」を繰り返す限り辞任に追い込まれることはないということです。

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR