「人手不足倒産の再来」をでっち上げることで露呈した日本を代表する経済紙の「人材不足」

(2014年8月12日)
「1980年代末のバブル経済がもたらした『人手不足倒産』の再来である。民間信用調査会社の東京商工リサーチによると今年1~7月には人が集まらないことを原因とする『求人難』型の倒産が15件発生。前年同期の4件から急増した。人件費の上昇が影響した倒産も4件から11件に倍増」(12日付日本経済新聞「成長の誤算 人手不足」)

「1980年代末のバブル経済がもたらした『人手不足倒産』」の再来」ですか…。土木技術者として社会人のスタートを切り、1988年9月まで7年弱ゼネコンに籍を置いていた人間には、懐かしい響きに聞こえるとともに、記事の内容には大きな違和感を覚えます。

確かに、80年代後半は幕張メッセ(1987年着工、1989年完工)と東京都庁舎(88年着工、1990年完工)という大きなプロジェクトが重なり、「関東中の職人が駆り出された」といわれた時代で、人件費が高騰していました。

この記事には、「求人難型の倒産が再び増え始めている」というタイトルで東京商工リサーチのデータに基づいたグラフが掲載されています。このグラフでは、「求人難型倒産」が1990年から1992年にかけて急増していることが示されていますが、この時期はバブル崩壊が始まった時期であり、日本を代表する経済紙のいう、「1980年代末のバブル経済がもたらした『人手不足倒産』」の再来」とはそもそも時期がずれています。もし、「人手不足」による「求人難型倒産」が増加したのであれば、幕張メッセと東京都庁舎というビッグプロジェクトが重なった1980年代後半に起きていなければおかしいと言えます。

日本を代表する経済紙が「求人難型倒産」増えた」と主張する時期は、1990年12月に東京都庁舎の完工によってビッグプロジェクトが終了したのと同時に、1990年3月に大蔵省(当時)から「総量規制」と言われる、不動産向け融資に関る行政指導が行われた時期です。1989年5月から始まった日銀による公定歩合の引上げと、この「総量規制」という行政指導によって不動産投資が急速に萎み、バブル崩壊が加速して行ったのは周知の事実です。

つまり、日本を代表する経済紙が「求人難型倒産」が増えたことを示す証拠として示しているグラフは、「人手不足」に伴う「求人難型倒産」ではなく、単に仕事が減った「不況型倒産」を表している可能性が高いように思えます。

日本を代表する経済紙は、「求人難型倒産が再び増え始めている」というタイトルを付けたグラフに、「東京商工リサーチまとめ、1998~2012年は統計なし」という、驚くような注釈を付けています。簡単に言えば、このグラフは14年間も統計がないものを合成して作成したものだということです。14年間も統計が存在しなかったデータを、如何にも連続性があるようなデータとして示すというのは、捏造だとの批判を受けても仕方ありませんし、統計データを扱う人間は決してこのようなことを行うことはありません。

もう一つ気に懸かる点は、「東京商工リサーチによると今年1~7月には人が集まらないことを原因とする『求人難』型の倒産が15件発生。前年同期の4件から急増した。人件費の上昇が影響した倒産も4件から11件に倍増」(同 日本経済新聞)というくだりです。

まず、この記事のお粗末なところは、記事で示した倒産件数が、全業種に関するものなのか、建設業に限定したものなのかが明記されていないところです。東京商工リサーチのHPで確認すると、この件数は全業種のもので、建設業に限れば、「求人難」「人件費上昇」ともに4件ずつとなっています。

さて、東京商工リサーチが公表している倒産情報によれば、1~7月の間の倒産件数は全国では5,955件、建設業では1,231件です。

つまり、「今年1~7月には人が集まらないことを原因とする『求人難』型の倒産が15件発生。前年同期の4件から急増した」「人件費の上昇が影響した倒産も4件から11件に倍増」ということが事実だったとしても、「求人難型倒産」「人件費上昇型倒産」合わせても26件で、全国規模でみれば倒産件数の僅か0.44%、建設業に限れば合わせて8件、0.65%に過ぎません。換言すれば、倒産の99%以上は「求人難」「人件費上昇」以外の原因で起きているということです。

99%以上が「求人難」「人件費上昇」以外を原因とした倒産であるにも関らず、日本を代表する経済紙は何故 「今年1~7月には人が集まらないことを原因とする『求人難』型の倒産が15件発生。前年同期の4件から急増した。人件費の上昇が影響した倒産も4件から11件に倍増」と誇張して報じたのでしょうか。

14年間も公表されていない統計と連続性が担保されていない最近の統計を繋ぎ合わせるという、捏造ともいえるグラフを作成し、1%未満に過ぎない「求人難」「人件費上昇」を原因とした倒産を「急増」と誇張して伝える日本を代表する経済紙。その報道姿勢からは、何かしらの悪意を感じずにはいられません。こうした捏造と批判されかねないグラフや、誇張した表現で埋め尽くされた日本を代表する経済紙のこの記事は、証券会社の営業用資料でも社内のコンプライアンスを通過することが難しい代物です。

捏造と批判を受けても仕方のないグラフや、読者に錯覚を植え付けるような記事が、社内チェックに引っかからずに平気で紙面を飾れるほど、日本を代表する経済紙は「人材不足」に陥ってしまったのでしょうか。日本を代表する経済紙がこうした証券会社の営業用資料にも劣るようなお粗末な記事を書き続け、読者の信頼を失うことで「人材不足型倒産」第一号に追い込まれるのではないかと心配せずにはいられません。

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近藤駿介

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