民間の効率性と官僚主義的非効率性 ~ 企業年金が目指す「国内株式比率引下げ」と公的年金が目指す「国内株式比率大幅引上げ」

(2014年8月13日)
「会社員の公的年金に上乗せする私的年金として企業が運営する企業年金が、日本株の運用を減らしている。企業年金連合会の調べによると、2014年3月末の運用資産に占める国内株の比率は14.9%と前年同期に比べ0.9ポイント下がった。株価上昇で評価額は高まったが、売却のペースが上回る。日本株の買い増しを目指す公的年金とは対照的な動きだ」(13日付日本経済新聞 「国内株の売却を加速」)

3階建てとなっている会社員の年金の3階部分に相当する企業年金が、1、2階に相当する公的年金の運用を担うGPIFとは反対に日本株の運用を減らしていることが報じられています。

「企業年金が株式を減らしているのは、バブル崩壊後の株価下落が運用の足を引っ張ってきたことが大きい。確定給付企業年金では運用利回りが加入者に約束した水準(予定利率)に届かなければ、企業が差額を穴埋めする必要がある」(同 日本経済新聞)

この記事では、確定給付型の企業年金が「公的年金とは対照的な動き」をとっているのは、「運用利回りが加入者に約束した水準(予定利率)に届かなければ、企業が差額を穴埋めする必要がある」という企業決算上の問題を抱えているからだと解説しています。

確かに、企業年金の運用が予定利率に届かなかった場合には、企業がその穴埋めをする必要があり、その分企業業績は下方圧力を受けることになります。したがって、企業年金には運用利回りが予定利率を下回るリスクを回避するために、予定利率を引き下げるインセンティブも、価格変動リスクの高い国内株式の比率を引下げるインセンティブもあるということです。

この記事を読んで気になることは、予定利率との差額を埋め合わせる必要が生じるのは、企業年金に限った印象を与える書き方になっていることです。しかし、実際には確定給付型年金であれば、公的年金でも企業年金でも、誰かがその埋め合わせをする必要があるという点では同じです。異なるのは、決算があるために企業年金は毎年それをコストとして認識し「見える化」する必要があるのに対して、公的年金にはそれがないというところです。

公的年金は運用資産の損益だけを公表していますが、予定利率との差額については「見える化」していません。しかし、予定利率を高めに設定し、給付開始年齢の引上げや給付金を引下げが行われているという事実が、「見えない化」されてしまっている公的年金の予定利率と実際の運用利回りの差額が大きいことを物語っています。

【参考記事】 「公的年金、お前はもう死んでいる」~「運用利回り」を高くして生きているようにお化粧される「逃げ水公的年金」

企業年金であろうと、公的年金であろうと、確定給付型年金である以上、誰かが予定利率との差額を負担しなければならないことに変りはありません。企業年金はその不足額を企業が負担しているのに対して、公的年金は加入者(国民)が負担するという仕組み上の違いがあるだけです。

予定利率との差額を誰かが負担しなくてはならないということに変わりがない中で、企業年金は企業がその差額を負担しなくてはならないから予定利率を下げ、国内株式の比率を下げる必要がある。一方、公的年金はその差額を国民が負担するのだから予定利率も国内株式の比率も高めに設定するべきだという論理にどの位の整合性があるのでしょうか。国民をばかにした議論のように思えてなりません。

安倍総理は、「岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要だ」「自分自身が既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃となる」と、規制を廃し、民間の自由な発想で経済効率性を上げて行くことを成長戦略の根幹に据えています。それは、新自由主義の主張でもある官僚主義的非効率を排除することによる効率性上昇が、成長に繋がると考えているからに他なりません。

もし、そのような考えが正しいのだとしたら、企業が自分達の裁量で行っている年金運用の方が、厚生労働省の監督下で運用されている公的年金よりも効率的運用を行えているということになるはずです。

官僚主義的非効率のもとで運用されている公的年金が、企業の自由裁量に従って効率的に運用されているはずの企業年金が予定利率を下げ、国内株式比率も引下げる方向に動く中、何故予定利率を高めに設定し、国内株式比率を大幅に引き上げる必要があるのでしょうか。

安倍総理が本気で「自分自身が既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃となる」つもりがあるのであれば、アベノミクスの成果を演出するために公的年金の資産を株価上昇のための資金に使うのではなく、国民のために、官僚主義的非効率のもとで運用されている公的年金のあり方を根本的に見直し、民間の効率性を取りいれることを早急に検討するべきだと思えてなりません。

「自分自身が既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃となる」と宣言されている総理が、公的年金運用にドリルの刃を向けないのは、自らの政権維持のために自由に使える官僚主義的非効率のもとで運用する公的年金資金が必要だということに他なりません。その結果、運用利回りと予定利率の差額を負担する国民の老後に穴が開く可能性が高くなるということかもしれません。

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