GDP実質6.8%減 ~ 「所得減、消費減、在庫増、生産減」という後ろ向きの景気循環メカニズムの注意報

(2014年8月14日)
「日本経済は年後半にかけて緩やかな成長軌道に戻りそうだ。4~6月は消費増税の反動減でマイナス成長となったが、7~9月以降は企業が設備投資を積み増し、個人消費も回復に向かうためだ。消費税率を2015年10月に10%に引き上げるかどうかの判断材料となる7~9月の実質国内総生産(GDP)は、民間調査機関12社の予測平均では前期比年率で4.4%増える見通しだ」(14日付日本経済新聞 「景気、穏やか回復続く」)

13日に発表された4~6月期の実質GDPが、前期比年率で▲6.8%と、「減少幅は、現行統計でさかのぼることができる1994年以降で最大」(同日本経済新聞社説)となっても、日本を代表する経済紙は日本経済の先行きに自信を持っているようです。

しかし、悲しいことは、その自信の源が根拠の乏しい「気」だけであり、何の説得力のある論理的根拠が伴っていないところです。「7~9月の実質国内総生産は、民間調査機関12社の予測平均では前期に年率で4.4%増える見通し」になっていることが「日本経済は年後半にかけて穏やかな成長軌道に戻りそうだ」という見通しの根拠というのは、寂しい限りです。

日本経済新聞は1面トップで「民間調査機関の実質GDP成長率見通し」という一覧表を掲載しています。興味深いところは、民間調査機関の中で飛び抜けて強気の見通しを示しているのが、奇しくも「景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」とオオムのように繰り返している日銀の政策審議委員を輩出している「三菱IFJモルガン・スタンレー証券」と「野村証券」の2社だというところです。

日本経済新聞は「7~9月以降は企業が設備投資を積み増し、個人消費も回復に向かう」と、「設備投資」と「個人消費」が景気の牽引役になるとしています。こうした見方の根拠として、記事の中で「日本政策投資銀行によると14年度の設備投資計画は前年度比15.1%増と、24年ぶりの高い伸びを示した」ことを挙げています。

「経験則上、当年度期中の計画値が実績に向けて下方修正される『くせ』がある」(日本政策投資銀行「2014年度設備投資計画調査の概要」)

日本経済新聞が「企業が設備投資を積み増す」根拠として挙げた日本政策投資銀行の「2014年度設備投資計画調査の概要」のなかでは、1頁を使って「<参考1>計画から実績にかけての『くせ』」という見出しで「設備投資増減修正パターン(計画 → 実績)」について説明しています。そして、この下方修正の「クセ」について、「2008年以降、実績にかけての下方修正幅は大きくなっていたが、2013年度は約7%pt.に留まった」と記されています。

政策投資銀行設備投資調査
        「政策投資銀行HPより転載」

つまり、2008年以降、設備投資計画は計画時点では実績よりも7%以上高めに出ているということです。ですから、「14年度の設備投資計画は前年度比15.1%増と、24年ぶりの高い伸びを示した」といっても実績が前年度比5%増程度で終わってしまうことは十分に想定の範囲内だということです。

この日本政策投資銀行の設備投資計画調査に下方修正の「クセ」があることは、経済分析をしている人間の間では常識中の常識であり、「14年度の設備投資計画は前年度比15.1%増と、24年ぶりの高い伸びを示した」ことをもって、実際の設備投資も「24年ぶりの高い伸び」を示すという妄想を抱く人は、日本経済新聞社以外には殆ど存在しないといっても過言ではありません。

一方、日本経済新聞が設備投資と共に7~9月期の景気の牽引役になると考えている個人消費も心もとない状況にあります。

「実質雇用者報酬については、家計最終消費支出デフレーターが上昇したことから、前年同期比で▲2.2%、季節調整済前期比で▲1.8%とともにマイナスとなった」(内閣府 「2014(平成26)年4-6 月期GDP速報(1 次速報値)~ ポイント解説 ~」

マスコミではほとんど取り上げられていないようですが、GDP統計と一緒に発表された「雇用者報酬」について、内閣府はこのような解説を加えています。確かに「名目雇用者報酬は、前年同期比で1.3%増、季節調整済前期比で0.6%」(同内閣府)となりましたが、雇用者報酬が物価上昇に追い付けていないことが明らかになっています。

受取る報酬を、物価上昇率を控除した実質で計る人は殆どいないはずですから、名目賃金が上昇した際には「貨幣錯覚」という現象が起こり、個人消費が増えても不思議ではありません。しかし、実際に発表された個人消費支出は前期比▲5.0%と大幅な減少となりました。これは、国民が抱く「物価上昇懸念(物価VIX指数)」が「貨幣錯覚」を起こしえないほど「報酬上昇期待」を上回っていることを示唆するものです。

4~6月実質GDPが落ち込んだことを受けて、一部の有識者は日銀が追加緩和に動く必要性に言及をしているようです。しかし、GDPと同時に発表された「雇用者報酬」の動きは、日銀の追加緩和が個人消費を活性化することは難しいことを示しています。

実質雇用者報酬(季節調整済)は、2013年1~3月期の263兆8805億円をピークに、2014年4~6月期には257兆7831億円まで、金額にして6兆974億円(実質GDPの約1.2%)、率にして▲2.3%減少して来ています。つまり、2013年4月に「異次元の金融緩和」が実施されてから実質雇用者報酬は低下し続けているのです。

実質雇用者報酬

23日のセミナーでも触れるつもりですが、黒田日銀総裁は、「生産、雇用、消費という景気の前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けている」と繰り返していますが、実際には「異次元の金融緩和」の副作用として消費の原動力となる実質雇用者報酬が減少し続け、「賃金減、消費減、在庫増、生産減」という「景気の後ろ向きの循環メカニズム」を心配しなければならない状況に近付いて来ているのです。

「異次元の金融緩和」によって為替が円安にふれても輸出数量は増えず、物価上昇によって実質雇用者報酬が減少することで個人消費が低迷して行くという現状で、日銀の追加緩和に期待をかけるのは如何なものでしょうか。消費税率の10%への引上げを実施するためにGDPを一時的にお化粧することを画策することよりも、日本経済が再び「負のスパイラル」に陥ることを防ぐために、予断を持たずに経済分析をするべき時期に差し掛かって来ているように思えてなりません。

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