独禁法に守られた新聞業が主張する「人手不足社会」と「雇用の流動化」

(2014年8月25日)
「労働人口の5%近くを占めており、失業率に対して、また歴史的標準と比較してパートタイム就業者の数は多い。そのため現在の失業率水準は、労働市場に残る緩みの度合いを過小評価している、との見方を裏づける根拠の1つとなっている」(22日付ロイター「ジャクソンホールでのイエレン議長講演要旨」)

米国の失業率が6.2%まで低下し、雇用者数がリーマン・ショック前の水準を回復したなか、今でもイエレンFRB議長は「労働市場に残る緩み(slack」を強い懸念を示し続けています。「失業率水準は、労働市場に残る緩みの度合いを過小評価している」というコメントに、失業率をフォワードガイダンスから外した理由が滲み出ています。

「あっという間の変化だ。サービス業を中心に人手が不足し、雇用の実態は今や完全雇用に近い。日銀が目指す年率2%の物価上昇も荒唐無稽でなくなった」(25日日本経済新聞「核心 脱ぎ難し デフレ期の衣」)

米国とは対照的に、非正規雇用の比率が35%を上回る水準に達しているという大きな「労働市場の緩み」を抱えている日本では、有効求人倍率が1倍を超えて来たという表面的な理由から、議論は「労働市場の緩み」を越え、「人手不足」になってしまいました。

「雇用」と「物価」の両方に責務を負い、当初掲げていた「失業率」目標を達成し、成果を訴えるのに有利な状況になったなかで「失業率」をフォワードガイダンスから外し、新たに「雇用の質」「労働市場の緩み」の改善という高い目標を設定したFRB。

それに対して、「雇用」に対する責務を負っていないにもかかわらず、雇用者増を表すわけでもない「有効求人倍率」の上昇を成果のように振りかざす一方、非正規雇用比率の上昇や「実質雇用者報酬」の5四半期連続マイナスには触れずに、「生産、所得、消費の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」と金融政策の成果を自画自賛し続けるだけの政府・日銀とそれをヨイショし続けるマスコミ。この組合せでは「全国津々浦々まで景気回復の実感」が届くことは期待薄だと言わざるを得ません。

「仕事がない社員を企業に抱えさせるのは人手余り時代の産物だが、政府は来年も続ける考え。一方で生産性の低い産業から高い産業へ人の移動を促す政策は、北欧諸国やドイツなどと比べ手薄である」(同 日本経済新聞)

「人手不足社会」の演出を担当している日本経済新聞は、企業が「仕事がない社員」を抱えている原因を「人手余り時代の産物」だと意味不明の解説をしています。「人手余り」ということは、「仕事不足」であるか、「生産性向上」によって余剰人員が生じたかのどちらかのはずです。

「仕事不足」であるならば「人手不足」という主張がおかしいということになりますし、「生産性向上」によって余剰人員が生じたのであれば、「生産性の低い産業から高い産業へ人の移動を促す」ことは机上の空論だということになります。生産性が向上している産業は、生産性向上によって「人手余り」になるか、現状の人員で生産量を上げられるわけですから、「人手不足」にはなり難いはずです。

「人手」は「生産性の高き所から低き所に流れる」という基本構図になっているわけですから、「生産性の低い産業から高い産業へ人の移動を促す」というのは、上り坂で車を押して上がるようなもので、効率性が高い政策であるとは言えません。政策的には、「生産性」の高い産業を後押しすることよりも、「人手不足」に陥りやすい「生産性の低い産業」を雇用の場として確保し続けることの方が「生産性」が高い可能性があるのです。全員が「効率化」を推し進めようとすれば、社会全体が「非効率化」するという「合成の誤謬」に備えることも、大きな政治の責任であるはずです。

「企業が海外投資の可否を決める鍵は、法人税の水準ではない。そこで事業を展開して利益を生み出せるかどうかだ。米国(の一部の州)の税率は日本とほぼ同水準だが、米国向けの投資は日本向けより活発だ」(25日付日本経済新聞 「月曜経済観測 外から見たアベノミクス」)

雇用の流動化と共に、アベノミクスの成長戦略の柱になっているのが「法人税減税」です。日本国内では政府や有識者達から、「法人税減税」は「海外からの直接投資を呼び込む起爆剤」(同日本経済新聞)であるかのような宣伝が繰り返されています。しかし、日本通で知られる英エコノミストの元編集長ビル・エモット氏は、明確にこれを否定しています。

これまで拙Blogでも、投資を決定する判断材料は「売上」と「利益」が上げられるための需要が存在することであり、「法人税減税」が「海外からの直接投資を呼び込む起爆剤」にはなり得ないということをたびたび指摘して来ましたが、ビル・エモット氏も「企業が海外投資の可否を決める鍵は、法人税の水準ではない」と明快に答えています。

【 参考記事 】
  本当のような嘘の話し ~ 法人税減税は「成長戦略の柱」、 「家計の7割」「企業の6割」が消費増税の影響はない
  実質金利 ~必要以上に重視される、「教科書の世界」には存在するが、「事業計画の世界」には存在しない項目  

「法人税減税」によって増えるのは、「株主配当」「役員報酬」「内部留保」の原資です。そして、日本株の26%は海外の投資家が保有していますから、「法人税減税」によって「株主配当」が増やされれば、その26%は国外に流出することになります。

また、「内部留保」が増えれば、企業が金融機関からの借入を増やさずに設備投資等が出来ることになりますから、まずまず銀行貸出しは抑制され、「異次元の金融緩和」による「ポートフォリオ・リバランス効果」を薄める方向に作用する可能性があります。さらには、増えた「内部留保」によって企業が「効率化投資」を行えば、それは「人手不足」の解消と同時に、「人余り」の原因を作り出すことにもなって来ます。

「不況の嵐から企業や個人を直接守る政策は、沈滞する分野に多くの人材を留め置く弊害を招いた。財政を悪くもした。心地よい政策に潜む『毒』を政治家が語る時だ」(同日本経済新聞)

日本を代表する経済紙は「心地よい政策に潜む『毒』を政治家が語る時だ」と尤もらしい主張をしています。しかし、その前に必要なのは、永田町と霞が関の広報誌に成り下がったマスコミが、日本社会にとって「毒」になるような政策をスポンサーにおもねて「心地よいフレーズ」で如何にも「良薬」であることのように報じることを止め、「毒」は「毒」だと客観的に報じることのように思えてなりません。

独禁法で「特殊指定」され、自由競争を避けられている新聞業。政府の保護が雇用の硬直化と日本経済の生産性向上を阻んでいるというこの記事の主張が正しいことを証明するためにも、新聞業の「特殊指定」を外して自由競争に晒し、新聞業の従業員が「より必要とされ生産性も高い企業・業種でいかせる」(同日本経済新聞)かを確認することをお勧めしたいものです。

もし、新聞業が「生産性の高い産業」であるならば、率先して雇用を増やすべきですし、「生産性の低い産業」であるならば、社会のために率先してもっと従業員を「生産性の高い産業」に移動させて行くべきであるように思えてなりません。


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