需要不足は深刻になりつつある ~ エコノミストが口にする予想以外に「景気回復期待」のない経済

(2014年9月7日)
長年資産運用業務を経験して感じていることは、人間は苦しくなってくると「自分に都合のいい情報を探そう」とするということです。言い換えると、「都合のいい情報を探そう」としている自分を見付けたら危険信号で、一度ポジションを清算して冷静になる必要があるということです。

こうした視点で日本経済新聞の報道をみていると、「自分に都合のいい情報」を探し、報じることに必死になっているようです。7日付日本経済新聞の一面を飾った「景気回復もたつく」という記事の中でも、

「『新車需要はそろそろ例年の水準に戻る』と見る」
「消費増税後の落ち込みは一時的で『景気は穏やかながら回復する』との見方が多い」
「『企業収益の改善と給与増でこれから景気は良くなる』と先行きに期待を寄せる」

と、企業経営者やエコノミストが口にする「期待」を幾つも紹介しています。換言すると、客観的裏付けのない企業経営者やエコノミスト達が口にする「期待」以外に、景気回復を報じるネタがないということです。

「脱デフレの流れは続きそうだ。家電量販大手のケーズホールディングスの店頭では4月の増税後も薄型テレビや冷蔵庫などの平均単価が前年より1割上がった。売れ行きは鈍ったが、加藤修一会長は「企業業績の改善と給与増でこれから景気は良くなる」と先行きに期待を寄せる」(同日本経済新聞)

日本経済新聞はこの記事内に「脱デフレ続く」という小見出しを付けて、ケーズホールディングスの加藤会長のコメントを掲載しています。「売れ行きは鈍った」が「平均単価が前年より1割上がった」ことを「脱デフレの流れ」と報じるところがこの新聞の凄いところです。

世間の常識では、「平均単価」の上昇に伴って「売上」の上昇して始めて「脱デフレの流れ」と言えるようになるはずなのですが、この新聞は世間の常識に先んじて「期待」だけで「脱デフレの流れ」と報じており、「客観的事実」と「自らの期待」を混同するという典型的な間違いを犯しています。

「デフレの根っこにある供給過剰=需要不足は解消しつつある」(同日本経済新聞)

日本経済新聞は「物価も今は消費増税分を除いても1%強上がっている」ということを根拠に、このように断じています。しかし、8月29日に経済産業省が発表した7月の鉱工業指数は、「生産」が0.2%の増加(季節調整済み前月比)、「出荷が0.7%増加(同)と「総じてみれば、生産は弱含みで推移している」(経産省)なかで、「在庫」は0.8%増(同)となっており、日本経済新聞の「供給過剰=需要不足は解消しつつある」という主張とは整合性のない動きとなっています。

「需要不足が解消しつつある」のであれば、物価の下落は起こり難いですし、売上は維持されるはずです。しかし、日本経済新聞が東大と共同で発表している「東大日次(月次)指数」では、8月の「売上指数」は前年同月比▲1.14%、「物価指数」も同▲0.53%と低迷が続いています。

重要な点は、「売上指数」が「物価指数」を上回って下落しているところです。「売上=単価×数量」ですから、「売上指数」が「物価指数」を上回る下落を見せているということは、「数量」も減少しているということを意味するものです。

もし、消費者の購買力(≒有効需要)が一定であれば、「単価」の下落は「数量」増要因となりますから、「売上」が減少する可能性はあまり高くありません。しかも、「東大日次(月次)指数」では内容量削減という「隠れ値上げ」は反映されていません。つまり、顧客が同じ効用を維持しようとすれば、「隠れ値上げ」によって「数量」が低下した分を、「購入数量」を増やすことで埋め合わせるのが自然です。

「隠れ値上げ」によって内容量と「単価」が共に下がるなかで「(販売」数量」も減り、「売上」が低下するという姿は、「需要不足が解消しつつある」なかでは極めて起こり難い現象です。

鉱工業指数の動きや、東大日次物価指数の動きを予断なく常識的に解釈すれば、「(有効)需要不足が顕著になりつつある」という結論に至るにが自然です。

「設備投資が増え続け物価を超える賃上げへの期待が生まれるかどうかが焦点となる」(同日本経済新聞)

日本経済新聞は、「日本政策投資銀行が調べた14年度の国内設備投資計画は前年度比15.1%増と計画段階で24年ぶりの伸びとなる」(同日本経済新聞)ことに最後の「期待」を掛けているようです。

しかし、日本経済新聞が拠り所としている国内設備投資計画は「経験則上、当年度期中の計画値が実績に向けて下方修正される『くせ』がある」(日本政策投資銀行)ものであることは周知の事実であり、

「2008年以降、設備投資計画は計画時点では実績よりも7%以上高めに出ているということです。ですから、『14年度の設備投資計画は前年度比15.1%増と、24年ぶりの高い伸びを示した』といっても実績が前年度比5%増程度で終わってしまうことは十分に想定の範囲内」(8月16日付拙ブログ ”GDP実質6.8%減 ~ 「所得減、消費減、在庫増、生産減」という後ろ向きの景気循環メカニズムの注意報 ”

という不確かの調査でしかありません。こうした「下方修正される『くせ』がある」調査結果によって、どのようにして国民の間で「物価を超える賃上げへの期待」が醸成されていくのか、日本経済新聞にはきちんとしたロジックを示して頂きたいものです。

自分達が繰り返してきた「消費増税の影響は一時的かつ軽微」「夏場から景気回復」という主張を否定する指標が次々に明るみになり、「需要不足が顕著になりつつある」ことが懸念される中で、何時までも企業経営者やエコノミストが口にする「期待感」に基づいて「景気回復期待」を報じ続ける日本経済新聞。

自紙のこれまでの主張に都合のいい情報だけを集めて報じている姿をみると、日本経済新聞はとても客観的な判断が下せる状況にはないと言えます。

もし、日本経済新聞が読者に客観的事実を伝えることを使命だと感じているのであれば、一旦これまでの主張を取り下げ、今一度客観的に日本経済の状況を俯瞰するべきであるように思います。

反対に日本経済新聞が、スポンサーである永田町や霞が関、財界に恩を売ることを使命に、64%に及ぶ「消費税率10%への引上げ反対」という国民世論(日経緊急電話世論調査 2014年9月実施調査)を覆すために、これまで通り自紙に都合のいい報道をし続けるとしたら、それは慰安婦問題で不正確な報道をし続けた新聞と同じ位罪深い行為として断罪されて然るべきであるように思います。

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近藤駿介

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