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短期国債オペ、初のマイナス金利 ~ 異次元のおバカな金融緩和、ここに極まれり

(2014年9月10日)
「日銀は9日、大規模な金融緩和策の一環として、初めてマイナス金利で市場から短期国債を買い入れた。マイナス金利は購入額が償還額を上回る状態を指す。買い入れた短期国債を満期まで保有すると日銀が損をする。主要中銀では異例の対応といえる。損失覚悟で市場にマネーを供給する意思を示した格好だ」(10日付日本経済新聞 「日銀、損失覚悟で資金供給」)

「異次元の金融緩和、ここに極まれり」といったところでしょうか。正確には「おバカな」という修飾語を付けて、「異次元のおバカな金融緩和、ここに極まれり」ということですが。

「景気持ち直しがもたつく中で、大規模緩和を徹底する意思を市場に示す狙いがあったとみられる。損失覚悟による国債買い入れが一層の金利低下につながり、円安基調を後押しすることになりそうだ」(同日本経済新聞)

日銀の「おバカ」なところは、国債買入れ自体が目的化してしまっているところです。

日銀は「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」(2013/4/4付日本銀行~「量的・質的金融緩和」の導入について)という「異次元の金融緩和」を行って来ており、それによって8月のマネタリーベース(平残)は242兆3138億円まで膨らんで来ています。

マネタリーベースを「年間60~70兆円に相当するペースで増加」させるため」には、平均して毎月5兆円以上増やしていかなければなりません。しかし、マネタリーベースの月末残高は6月末に243兆円台に達して以降、3ヶ月連続で243兆円台に留まっているうえ、平残ベースで見ると8月のマネタリーベースは7月から7,930億円も減少しています。

マネタリーベースの増加が鈍ってきた原因は、資金余剰になった政府が日銀に資金を預ける形でお金が戻って来ていることが原因となっています。8月1ヶ月間でみると、日銀は「長期国債の買入れ」で6兆965億円マネタリーベースを増やしましたが、政府からそれを上回る6兆8350億円が戻って来ており、マネタリーベースの増加額は毎月5兆円以上という目標に対して3065億円にとどまる結果となりました。

政府の資金過不足状況は季節要因が強いのでこうした状況は一時的だと言えますが、毎月5兆円以上マネタリーベースを増加させることを政策目標として掲げている日銀にとって、マイナス金利であっても、目標達成のためには5000億円の買いオペをやらないわけにはいかなかったという事情があったとも言えます。

「足元では国債の取引が細っており、日銀が購入を打診しても売り手が現れない『札割れ』が懸念されていた」(同日本経済新聞)

日銀がマイナス金利での買いオペに踏み切ったのは、長期国債市場の取引が細って来ていることで、長期国債を対象とした買いオペでは「札割れ」となる可能性があり、予定通りマネタリーベースを増やすことが出来ないリスクを感じたからかもしれません。

「欧州中央銀行(ECB)は、民間銀行の貸し出し増を促す金融緩和策の一環として『マイナス金利政策』をとっている。銀行が基準額を超えてECBにお金を預けた場合に、0.2%分の手数料を徴収する仕組みだ」(同日本経済新聞)

日本経済新聞は、このように今回日銀が「損失覚悟で」マイナス金利でのオペに踏み切ったことを、ECBの「マイナス金利政策」とあたかも同列であるかのように報じていますが、これは大きな間違いです。

ECBが「マイナス金利政策」をとったのは、ECBが供給する資金(マネタリーベース)が、ECBの当座預金に還流することを防ぐために設けられた「ペナルティ金利」という意味合いがあります。これに対して、供給したマネタリーベースの約97%が日銀当座預金に還流して来ている日銀がとった「マイナス損失覚悟のマイナス金利政策」は、見かけ上のマネタリーベースを増やすために設けられた「プレミアム金利」の意味合いを持つものだと言えます。

欧州各国で長期金利が大幅に低下して来ている一つの要因は、ECBの当座預金に「ペナルティ金利」が課せられたことで、行き場を失った資金が国債市場に流れ込んだことだと思われます。ECBが「ペナルティ金利」を設定しても、銀行の貸出先が増える訳ではありませんから、それを回避する資金は国債に向かわざるを得ないということです。

【参考記事】 ECB「マイナス金利」導入~「異次元の金融緩和」を反面教師にした中央銀行らしい「金融」政策

長期国債の買いオペが「札割れ」になる可能性が高いということは、世の中の資金需要が弱いということですし、日本には「ペナルティ金利」はありませんから、最低▲0.011%という日銀が損失を出す額面を上回る高い価格で落札された5,000億円の資金は、これまで通り殆どが日銀の当座預金に還流すると思われます。

日銀とECBとの違いは、日銀が「法定準備預金を上回る超過準備預金に0.1%という金利を付けている(付利)のに対して、ECBは「法定準備預金にのみ付利」しており、超過準備預金にはマイナス金利が適用されるというところです。

したがって、ECBは例え供給した資金が当座預金に還流して来てもコストは発生しないどころか▲0.2%という「ペナルティ金利」を得ることが出来ます。これに対して日銀が民間に支払った▲0.011%という高い短期国債購入資金は、その殆どが0.1%が付利される日銀当座預金にブタ積みされることになります。

8月時点で日銀当座預金にブタ積みされている超過準備預金は約128兆円ありますから、日銀は年間で1,280億円程度の金利を金融機関に支払う計算になります。短期国債を損失覚悟で額面を上回る高い価格で買い取ったうえに、その資金に0.1%の金利を付けてあげるのですから、「異次元のおバカな金融政策」としか言いようがありません。

日銀の収益は国庫納付金として政府に支払われます(2013年度 5,793億円)から、この「異次元のおバカな金融政策」によって生じるコスト増は日銀の収益を減らし、政府の財政を悪化させ、間接的に国民負担を増やす要因になるものです。要するに、「異次元のおバカな金融政策」のツケは、国民に回って来るということです。

「金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更する」という「異次元の金融緩和」が実施されてから1年半。日銀当座預金に法定準備預金の16倍を上回る資金がブタ積みされ、マネタリーベースが242兆円(平残ベース)と国家予算の約2.4倍、名目GDPの約半分に達した今、「マネタリーベースを金融市場調節の操作目標にする」という金融政策も限界に達したのかもしれません。

為替市場では、「日米の金利差が拡大した」ことや、「日米の金融政策と景気の方向性の違いが意識された」(日本経済新聞)ことで、円は5年11か月ぶりに106円台まで下落しました。確かに、こうしたファンダメンタルズの違いが反映された結果だと思いますが、消費増税によって内需を冷やす中で、「異次元のおバカな金融緩和」によってインフレを起こそうという、自らスタグフレーション(不況下の物価上昇)を目指す日本政府・日銀に対する失望と嘲笑が含まれている可能性があることも認識しておくべきではないかと思います。「異次元の金融緩和」が、近代経済史上最も「おバカな金融政策」として語り継がれることになるまで、10年も掛からないかもしれません。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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