世にも不思議な「国際公約」~「世界最大の債権国」が債務国に約束する「財政再建」

(2014年9月21日)
「主要20カ国・地域(G20)による財務相・中央銀行総裁会議は20日、初日の討議を終えた。麻生太郎財務相はG20各国に対し、消費税率10%への引き上げは『経済状況を総合的に考えて年内に判断する』と表明。財政再建に向けた取り組みを着実に進めると約束した」(21日付日本経済新聞 「財務相、G20で財政再建約束」)

今回もG20で日本が「財政再建に向けた取り組みを着実に進めると約束」する不思議な光景が見られました。

日本325.0兆円、中国207.6兆円、英国▲3.7兆円、フランス▲50.4兆円、イタリア▲67.7兆円、米国▲482.0兆円。これは日本の財務省が発表している「主要国の対外純資産」です。日本はGDPベースでは中国に抜かれ、世界第3位の経済大国になりましたが、対外純資産においては「91年以降、23年連続で世界最大の座を維持」しています。つまり、日本は1年間に生み出す付加価値というフロー面では世界第3位に後退しましたが、海外に持っている資産、債権の額というストック面では、依然として「世界一の金持ち」だということです。

反対に、世界最大の借金国は米国で、イタリアやフランスなども多額の債務を抱えている国です。

世間の常識で言えば、財政再建(節約)に励まなければならないのは、お金を借りている方で、お金を貸している方ではありません。しかし、ここ数年、「世界一の金持」である日本は、日本に対する債務を抱える国が多い国際社会に対して財政再建に励むことを必死にアピールしています。

つまり、「お金を貸している国」が、「お金を借りている国」に対して節約に励んで財政再建をすると頭を下げているという、世間の常識とかけ離れた状況になっているのです。

「世界一金持ち」のはずの日本が、「借金国」であるかのように世界各国に頭を下げている構図が繰り返し報道されることで、多くの日本国民は日本が「世界一の借金国」であるかのような錯覚を抱くようになっています。政府やマスコミが、このような日本国民を貶めるような行為を繰り返すことをこのまま許していいのか、大きな疑問を感じずにはいられません。

政府やマスコミが国を貶めるような行為を繰り返しているのは、国民に対して「政府の借金」を「国の借金」であるかのような錯覚を植え付けるためです。それによって、次世代にツケをまわさない為に「消費増税止む無し」という世論を形成して行くことです。

国内では、国債と借入金、政府短期証券を合計した国(政府)の借金が昨年度末時点で1024兆9568億円となり、国民一人当たり約806万円の借金を抱えていることが大きく報じられています。しかし、これは「国の借金」ではなく「政府の借金」に他なりません。

これを「政府の借金」と報じてしまうと、借金返済の努力をする必要があるのは「政府」となってしまいます。ですから「国の借金」と繰り返ししつこく報じることで、国民も政府と一緒になって返済しなければならない借金を負っているという世論を醸成しているということです。

2014年3月末時点で「政府」は998兆1530億円国債を発行していますが、その内の914兆1392億円は日本の投資家が国債を購入して政府にお金を貸しています。つまり、「政府」は約998兆円の負債を抱えていて、「民間」は政府に対して914兆円の債権(資産)を持っているということです。

会計上「誰かの借金(負債)は誰かの債権(資産)」というのは当たり前なのですが、国民全体の会計・金融リテラシーが低いことをいいことに、「政府の借金は国民の借金」というように永田町や霞が関に都合のいい形に歪められているのです。

ところで、必ずしも「政府の借金は国民の資産」になるわけではありません。ソブリン危機に見舞われた南欧諸国の国債海外保有比率は軒並み50%を超えており、90%前後と国が必要とする資金のほとんどを海外から調達していた国もありました。こうした国々は「政府の借金≒国民の借金」となり、国の借金を返済するために国民が節約を強いられるのは仕方ないことです。

GIIPS国債海外保有比率

これに対して日本国債の海外保有比率は8%程度ですから、現状では「政府の借金のほとんどが国民の資産」という関係になっており、節約・倹約しなければならないのは国民ではなく政府であると言える状況にあります。しかし、永田町と霞が関は、情報を都合よく歪めることで自ら節約して国民に対する借金を返済するのではなく、国民に消費増税を課すことで借金を返すという暴挙に出ているのです。

政府の借金であれ、国民の借金であれ、政府の財政赤字を放置してもいいという訳ではありません。しかし、「政府の借金は国民の資産」となっている日本と、「政府の借金のほとんどは国民の借金」になっていた南欧諸国とは処方箋が異なって来て当然ですから、同列に論じるのは如何なものかと思います。

消費増税による財政再建は、国民の消費活動を抑制することで景気低迷を招きますから想定通りに財政再建が出来るとは限りません。一方、政府の節約による財政再建は、政府支出の減少を通して景気に悪影響を及ぼします。2014年4-6月期の実質GDPに占める「公的固定資本形成」と「政府最終消費支出」の合計は約24%と、「民間企業設備」(13.5%)の倍近い水準になっていますから、その影響は小さなものではありません。

「誰かの借金(負債)は誰かの債権(資産)」と同様、「政府支出の削減は、民間の収入の減少」というのも会計上当然ですから、景気に下押し圧力をかけずに財政再建をすることは極めて難しいということです。

どのような形でも財政再建を目指すならば景気に悪影響は及びます。それを推し進めるにあたっては、失われる民間の活力を財政で支えて行くという「政府主導」を目指すのか、財政支出抑制による景気下押し圧力を民間の活力が支えて行く「民間主導」に賭けるのか、政府も国民も覚悟を決めなくてはいけない時期に差し掛かっているようです。

忘れてはならないことは、「政府が景気浮揚を目的に財政支出を増やしても景気が浮揚しない」ということが最悪の状況だということです。霞が関や彼らに手懐けられた有識者達は「消費増税を実施できる環境を作るための景気対策」の必要性を叫んでいますが、財政問題を解決する上では最悪の選択であるように思えてなりません。消費増税を実施した時点で景気悪化は想定されたことですので、その規模が想定以上であったとしても、財政支出を増やして表面的に取り繕おうという歪んだ発想は捨てなければなりません。それが出来ないなら、退陣するくらいの覚悟がなければ財政再建など絵に描いた餅に過ぎません。

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コメント

借金は返済能力を超えればデフォルトしかありません。
日本はこの状況です。
ただ誰もがこの状況を認めたがらない。
ただそれだけで現状を悪化させながら維持している。
問題はお金(総生産)が消費に回らないだけの話で不足分を国が国債で消費を補ってカバーしているだけで、消費に回らない原因を解決しようとしていないことです。
お金がなぜ消費に回らないか?
それは消費に回るべきお金が富に流れ、マネーゲームの原資となっているからです。
富へのお金の流れを断つのが解決法す。
これをアピールすべきと思いますが?
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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