「恐怖指数(VIX指数)」は本当に「炭鉱のカナリア」なのか?

(2014年9月27日)
「ダウ工業株30種平均が大幅に下落した25日の米国市場では、いわゆる『恐怖指数(VIX)』が急上昇した。投資家心理のバロメーターとされる指数で、数値が大きいほど投資家が警戒感を強めていることを物語る。指数の水準はまだ低いものの、投資家は中東情勢の行方や欧州経済の先行きなど、さまざまなリスクを改めて意識し始めた」(27日付日本経済新聞 「リスクに目覚める世界」)

27日付の日本経済新聞マーケット総合面では、「炭鉱のカナリア」に例えた「恐怖指数(VIX指数)」が急上昇したことを、「高利回りを求めさまざまな金融資産に資金が向かう流れが転換点を迎えつつある」ことの警鐘であると報じています。

確かにこの記事で指摘されているハイイールド債の下落は注意を要する現象です。投資には様々なリスクが付きものですが、この「信用リスク」というのはヘッジ出来ない厄介なリスクです。これまでも何人もの伝説的なファンドマネージャーが、その優秀なパフォーマンス故に過大になり過ぎた投資金を「信用リスク」に振り向けざるを得なくなり、それが原因で破綻に追い込まれたことがあります。

「VIX指数」に関しては、この記事のように「投資家の警戒感」を示す先行指標のように伝えられることが多いですが、こうした見方は必ずしも正しいものではありません。

一口に「ボラティリティ」といっても、市場価格から統計的に算出される「ヒストリカル・ボラティリティ」、オプション取引価格(プレミアム)から逆算される「インポライド・ボラティリティ」、市場での取引基準となる「マーケット・ボラティリティ」と、大まかに3つのものがあります。

「VIX指数」というのは、「さまざまなストライクのインプライド・ボラティリティ加重平均値に基づく」(Bloomberg「SPXボラティリティ指数 指数概要」)ものですから、オプション取引のプレミアムから逆算して算出されたボラティリティの指数です。このインポライド・ボラティリティを簡単に言うと、「この価格でオプションを買うということは、この投資家はこの位のボラティリティを想定しているはずだ」ということで算出された「ボラティリティ」です。

しかし、現実には上場オプションは「価格(プレミアム)」で取引されるので、投資家自身が「ボラティリティ」を正確に意識しているとは限りません。「相場」が上がりそうだと思えばコールオプションの「価格」が上昇するという思惑でオプションを購入する投資家が増えるでしょうし、反対に「相場」が下がりそうだと思えば、プットオプションの「価格」が上昇することを見込む投資家が増えることになります。

このような投資行動をする投資家はオプションの「価格」が上昇することに賭けている訳で、「ボラティリティ」が上昇するか下落するかまで考えている投資家は少ないのが現実です。

つまり、「ボラティリティ」というのはもともと「統計上の指数」という無機質なものですが、オプションは「価格」で取引されますから「相場」という投資家心理を反映した感情的なものになっており、同じ「ボラティリティ」であっても意味合いが全く違うのです。

NYダウが大幅に下落した25日に「恐怖指数(VIX指数)」が急上昇したということは、「相場」が下落すると思ってプットオプションを買ってヘッジを掛けることを考えた投資家が増えたということです。このうち「ボラティリティ」水準を考えてプットオプションの「価格」を決めた投資家がどれほどいたでしょうか。つまり、「ボラティリティ」ではなく「相場」に基づいて行動する投資家が「VIX指数」を押し上げる主役になるのです。

「相場」に基づいて行動する投資家が高い「価格」まで買い上げたプットオプションが報われるためには、思惑通りに「相場」が下落してプットオプション「価格」がさらに上昇することが必要です。しかし、彼らは自分自身がどの位の「ボラティリティ」水準を想定してプットオプションを購入したのかは意識していませんから、「統計上の指数」である「ボラティリティ」を遥かに上回る水準までオプションを買い上がっている場合も少なくありません。

オプション価格は「ボラティリテイィ」が大きな決定要因ですから、「ボラティリティ」が彼らが無意識に付けた水準まで達さない、或いは多くの投資家が達さないと考えた場合、買上げたプットオプションは陽の目を見ずに価値を失う運命にあります。こうなると上昇した「VIX指数」は、彼らがプットオプションを損切ることによって急速に低下して行くことになります。

なお、「ボラティリティ」がオプション価格にどのように影響を及ぼしているのかについては拙著「中学1年生の数学で分かるオプション取引講座」を参考にして頂けたら幸いです。

要するに「VIX指数」というのは投資家の相場観の偏りを示す、つまり「結果」を表す指数ではあり、それ自体が「相場の先行指標」、「炭鉱のカナリア」ではないということです。

個人的にはオプションの取引価格から逆算される「VIX指数」だけをみて相場を判断するのは危険だと考えています。それは、「VIX指数」の上昇は、成長株が10年後の成長を織り込んだ水準までPERが拡大して買われていくのと同質の現象に過ぎないからです。

それよりも「ヒストリカル・ボラティリティ」と「VIX指数(インポライド・ボラティリティ)」の乖離の方が「炭鉱のカナリア」としては有益だと思います。市場は常に行き過ぎる習性をもっていますが、この「ボラティリティ格差」は市場の行き過ぎを測る一つの有効な指標だからです。

最後に、「ボラティリティ」が高い状態とはどういうことでしょうか。「専門家っぽく言ってみよう」と言われれば「不確実性が高い状態」ということになると思いますので、殆どの専門家がこのように答えるのではないでしょうか。

では、「現実っぽく言ってみよう」と言われれたとき、オプションの専門家は何と答えるのでしょうか。オプションを教科書的に、数学的に理解している専門家達は適切な言葉を見付けられないかもしれません。教科書の世界にはない現実の市場で棲息して来た人間の1人としての答えは、「損失を抱えて苦しんでいる投資家が増えた状態」となりますが…。

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コメント

しょうがないかな

日本国内ではオプション人口が少ない上、IVを重視して取引する人たちは1割以下でしょうから、IVやVIXの意味を勘違いして解説・報道しても違和感を覚えるひとがほとんどいないのが現状でしょうね。

IVを予想変動率と訳すこと自体が誤解の大元ですね。誤解が生じないよう、モデル逆算ボラティリティとかオプション需給指数とよぶのが適切だと思います。

Re: しょうがないかな

九条様、この度はコメントをありがとうございます。
運用の分野でも派生商品悪玉論が強かったせいもあり、ボラティリティを正しく理解している人は殆どいませんから、証券営業の方やマスコミ等が理解していないのも仕方ないのだと思います。運用部門に必要なのはデリバティブをどのように運用に活用するかであって、商品企画組成部隊のような正しいプライシングではないはずなのですが、そこに気付く人は殆どいないのが現実です。これもベンチマーク運用の弊害だと思います。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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