日銀とFRBの「信頼間格差」による円安 ~ 日銀総裁の「根拠なき強気」が貶める金融政策に対する信頼

(2014年10月8日)
「景気回復にはもたつき感があるが、黒田総裁は強気な景気・物価情勢の判断を崩さなかった」(8日付日本経済新聞「円安、むしろプラス」)

この一文に、日本の金融政策の大きな問題が凝縮されているように思います。

まず、「強気」「弱気」という曖昧なものが日銀の景気判断の基準になってしまっていることです。経済状況を客観的に判断しなければならない立場にある日銀総裁は、本来、景気や物価情勢に「強気」であるかないかという個人的な見解は口にするべきではないのは当然のことですし、景気判断材料から私的見解を真先に排除すべき立場にあります。

百歩譲って日銀総裁の景気に対する姿勢が「強気」であれ、「弱気」であれ、発言をするのであれば、その客観的根拠を示さなければなりません。実質可処分所得(家計調査、二人以上の世帯のうち勤労者世帯)が8月までで13カ月連続前年同月比マイナスを記録し、実質消費支出(同)が消費増税前の3月を除いて10カ月も前年同月比でマイナスを記録している客観的事実がある中で、「所得と支出の前向きな循環を維持している」と「異次元の見解」を主張するのであれば、なおさらその根拠を示すのが中央銀行総裁としての責務であるはずです。

日銀総裁が、何の根拠も示さずに客観的事実からかけ離れた「異次元の見解」を主張し、「強気」姿勢を示すことは国益に反することでしかありません。

世界の多くの投資家にとっての最大の「ファンダメンタルズの変化」は、金融政策です。その「ファンダメンタルズの変化」を読み解くために、公表される様々な経済指標から日本の経済状況を分析しているのです。ここで重要なことは、そこから得られる景気認識が中央銀行と同じであるということです。

この過程で分析しようのない日銀総裁の「強気」「弱気」が結論を支配するのでは、数多発表される経済指標など無用の長物ということになってしまいますし、経済指標自体が信じられない経済大国と変わらなくなってしまいます。要するに、客観的根拠を示さない日銀総裁の「強気」発言は、日本の金融政策の信頼性を貶めるものでしかないのです。

「米ニューヨーク連邦準備銀行のダドリー総裁は7日、政策金利の引き上げ時期について『来年(2015年)半ばとの大方の市場予想は妥当に思える』と語った。一方で利上げは今後の経済指標と見通しの変化によって決まるとした」(8日付日経電子版)

FRBで投票権を持つNY連銀のダドリー総裁のこうした発言も、経済統計に基づく客観的な景気判断において、FRBと市場に乖離がないことを示しています。

「米中央銀行のFRBは6日、雇用関連のデータを独自にまとめた新たな経済指標を公表しました。労働市場の主要な19の指標を一つにまとめ、新たに『労働市場情勢指数』というものを打ち出しました。新たな指数は雇用者数や失業率などを総合して作られたもので、今後、毎月発表されます。FRBはこれまで失業率以外にも雇用の状況を示す指標を幅広く見ると言ってきました。しかし、指標の数が多すぎて、外部の人にはどれをどう見たらよいかわかりませんでした。ただ、この指数が改善したらFRBが金利の引き上げを始めるかどうかはまだわからず、指標と利上げとをどう関連づけるかが今後の注目点になると思われます」(7日付WBS)

FRBと市場との間に経済状況に対する認識ギャップがないなかで、FRBは金融政策を判断する上で重要視する経済指標を市場に示し、金融政策に対する認識の乖離も小さくしていく方向に動いています。

経済状況に関する判断においても、金融政策の判断においても、市場との認識ギャップを小さくしようとしているFRBと、客観的経済指標に基づく常識的分析とは関係なく、総裁個人の「異次元の見解」によって景気判断と金融政策が決定されていく日銀に対する市場からの信頼は、天と地ほどの差になって来ているといっても過言ではありません。

「日銀の黒田東彦総裁は、7日の金融政策決定会合後の記者会見で、このところの円安の動きについて『これまで行き過ぎた円高が是正され、最近時点でいえば自然な動きと考えている』との認識を示した。円安のペースの速さについては『何か異常なことが起こっているとは思っていない』と話した」(7日付日経電子版)

黒田日銀総裁は、このように円安を「自然な動き」と発言しています。4月の消費増税の影響が少なくなってきているという見解を示している黒田総裁が、未だに市場が「行き過ぎた円高の修正局面にある」というのは如何なものかと思いますが、確かに「自然な動き」と言えないでもありません。しかしそれは、黒田総裁の指摘する「行き過ぎた円高が是正」される過程での「自然な動き」ではなく、金融市場において、FRBと日銀の間に埋めがたいほどの「信頼格差」が生じたことによる「自然な動き」であると捉えるべきだと思います。

円安による物価上昇は、日銀総裁が、数多くの経済指標が景気の落ち込みを示す中で、客観的根拠を何も示さずに「異次元の見解」を繰り返すことによって、日銀の金融政策に対する信頼性が貶められた結果という側面があることを、総裁自身も認識するべきですし、マスコミもそろそろ正直に指摘すべき時期に来ています。「裸の黒田総裁」の周りには、「王様は裸だ!」と正直に叫ぶ少年はいないのでしょうか。

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