恩賞なき成長戦略~ 世界の経済成長を享受する企業と、十分な分配を得られない国と雇用者

(2014年10月13日)
「積極的な世界市場展開と、対内直接投資拡大等を通じ、世界のヒト、モノ、お金を日本に惹きつけ、世界の経済成長を取り込みます」(首相官邸HP 「成長戦略で、明るい日本に!」)

アベノミクス成長戦略の根幹でもある「世界の経済成長の取り込み」。人口減と高齢化が進む日本にとっては、当然の戦略でもあります。しかし、この教科書の世界の中では日本の経済成長を引上げるための当然の戦略ですが、現実の世界で期待する効果を上げられるかは怪しくなってきているようです。

「統計では国内外での価値の伸びほど賃金は増えていない。海外で稼いだ企業が国内での賃上げをためらうためだ。企業が国内で収益力を上げなければ、賃金が増える展望は描きにくい」(13日付日本経済新聞 ~エコノフォーカス)

13日付日本経済新聞では、「海外で稼いだ企業が国内での賃上げをためらう」ケースが多いことが報じられています。これは、海外で稼いだ所得を企業が独占し、富の分配に偏りが出て来ていることを示したものです。

しかしそれは、民間企業は、株主に対して最大限の利益を還元しなくてはなりませんから、企業が海外で稼いだ所得をおいそれと海外で所得を得ることに貢献していない国内の雇用者に配分できないという資本主義の厳しい現実を表したものでもあります。

「企業が従業員の賃金を決める上で、海外事業を含めた連結業績ではなく、国内事業に絞った単体業績を重視する姿勢が背景にある」(同日本経済新聞)

こうした事実から言えることは、世界の経済成長を企業は享受できるのに対して、国内雇用者はそれを享受する機会を奪われているということです。

企業は世界の経済成長を取込むために海外現地法人を設立することで、成長部門も海外にシフトしますから、国内雇用者の多くは国内に残された成長性の低い部門で「成果主義」に晒されることになります。成長部門での「成果主義」ならともかく、低成長部門での「成果主義」が雇用者のやる気を引き出し生産性向上に寄与するかは疑問の残るところです。

この記事は、企業と雇用者との間で、世界の経済成長からの果実が企業側に偏在して来ていることを示したものです。しかし、果実の偏在は、企業と雇用者の間だけでなく、企業と国家の間にも存在しています。

経済産業省の「海外事業活動基本調査結果概要確報 (平成24(2012)年度実績)」によると、日本の海外現地法人は、進出先の国で2兆1649億円の法人税を納めています。12年度の国内法人税収が約9.8兆円ですから、その規模は国内の4分の1ほどに上っています。さらに、12年度の当期内部留保額は1兆7856億円で、内部留保額残高は28兆7006億円に達しています。

海外子会社からの受取配当は、2重課税を防ぐために95%が益金不算入(つまり課税されない)になっており、企業が世界の経済成長を取込んだ成果から、国もほとんど果実を得られない構図になっています。

「10年後には1人当たり名目国民総所得(GNI)を150万円以上拡大する」

安倍総理は2013年6月に経済財政運営の基本方針(骨太の方針)としてこうした目標を打出しました。

「1人当たり名目国民総所得」と表現されると、多くの人が「自分の所得」と重ね合せて考えてしまいがちですが、名目国民総所得(GNI)というのは、政府と民間(企業と個人)の所得を合計した国全体の所得額ですから、個人や国の所得が増えなくても、企業の所得が増加して所得合計額が増えさえすれば、その分配に偏りがあったとしても「1人当たり名目国民総所得」は増えることになります。

国が「世界の経済成長を取込む」ことを掲げて、法人税減税やTPP等で企業の成長を後押しするアベノミクス。その果実が政府に後押しされる企業に偏在し、国や雇用者に十分に分配されないとしたら、「経済の好循環」が「絵に描いた餅」になってしまうのも当然だと言えます。

世界の経済成長からの果実の分配を十分に得られない政府が、同じく十分な分配を得られない国民に対して増税を課すというという「負け組内での富の再分配」で財政再建を目指すという戦略があるべき姿なのか、大きな疑問を感じるところです。

1333年に滅亡した鎌倉幕府。その原因の一つは、元という海外との戦いの功績に対して恩賞がなかったことで、御家人の忠誠心が失われていったことだともいわれています。国内恩賞の少ない海外との競争を強いられる中での「成果主義」を推し進めるアベノミクス。鎌倉幕府滅亡から680年経過した安倍政権は、鎌倉幕府とは異なり一般国民からの信頼を保て続けられるのでしょうか。


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近藤駿介

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