増税を望む人もいる ~ 消費増税推進派の新聞が作り上げる尤もらしいフィクション

「私がいちばん気にしているのは、1920年代にドイツで起きたハイパーインフレだ。生活が崩壊し、ナチズムが生まれた。この教訓からいえば、経済というのは社会学にとって観測しなければならない非常に重要な要素だ」(23日付日本経済新聞 「風見鶏~増税を望む人もいる

日本経済新聞は、「アベノミクス解散」で先送りされた消費増税について、「景気条項」などの議論が再燃することなく1年半後に確実に実施できる環境整備を進めているようです。

今回安倍総理が消費増税先送りを余儀なくされたのは、7-9月期の実質GDPが想定外に▲1.6%(前期比年率)と2期連続マイナス成長となったという「経済的理由」によるものでした。消費増税の実施において「経済的理由」が制約条件になるという認識が社会に蔓延してしまうと、1年半後に確実に消費増税が実施できる保証はなくなってしまいますから、「経済的理由」以外の必要性を用意しておく必要があると考えているのかもしれません。

そこで持ち出したのが「社会学的理由」のようです。「アベノミクス選挙」を控えて、「社会学的理由」に基づく消費増税の必要性を流し続けることで、与党が勝ちさえすれば有権者は「社会的理由」に基づいて1年半後の消費増税を容認したと主張することで、「経済的理由」に基づく消費増税の再先送りを封印しようということだと思います。

「素人がいきなり偉そうなことは言えない」(同日本経済新聞)と考えた著名な社会学者を引きずり出し、「1920年代にドイツで起きたハイパーインフレ」や「ナチズム」の恐怖を訴え、こうした社会の混乱を招かないために消費増税が必要だという論法のようです。

しかし、こうした「社会学的理由」は、経済的見地からみると説得力の乏しい主張でしかありません。「1920年代にドイツで起きたハイパーインフレ」や「ナチズムの台頭」という社会的混乱を避けるために消費増税による財政再建が必要不可欠だと主張が正当性を持つためには、こうした社会的混乱の原因が財政赤字にあったという事実が必要です。

しかし、「1920年代にドイツで起きたハイパーインフレ」だけでなく、戦後の日本や、2000年代に起きたジンバブエでのハイパーインフレも、財政赤字や大規模な金融緩和によって起きたものではありません。その背景にあるのは生産設備の破壊等によって「供給不足」が生じる中で、大量の資金が供給された(結果財政赤字は拡大)ことによって引き起こされたものです。

最近の日本は、GDPギャップ(=(実際のGDP-潜在GDP)/潜在GDP)が▲2.3%(2014年4-6月期:金額ベースで約12兆円)と、2008年7-9月期以降23四半期連続でマイナスを記録(内閣府の推計)するという「需要不足経済」が続いています。6年間も「需要不足経済」に苦しんでいる日本で、大量の資金が供給されているという事実だけをもって「1920年代にドイツで起きたハイパーインフレ」と同様のことが起きるというのは、余りにも乱暴な議論です。

また、この記事は「財政赤字がナチズム台頭の原因になった」かのような筋立てになっていますが、これも論理の飛躍でしかありません。「経済の専門家」である野村総合研究所主席研究員のリチャード・クー氏は、2014年6 月9 日付の「マンデー・モーニング・メモ」のなかで次のような見解を示しています。

「これと同じ現象が1933 年のドイツで発生しているからだ。つまり、当時のドイツ経済は深刻なバランスシート不況であったにも拘わらず、当時のブリューニング政権はそのことに気付かず、昨今のEU やECB と同様にオーソドックスな財政再建一辺倒の政策運営を続けた。その結果、ドイツの失業率は28%にまで達し、極度の貧困と既存政党に絶望した人々は、彼等に残された最後の選択肢となったナチスに票を入れるようになったのである。

このヒトラーが政権を取るきっかけとなった1933 年の選挙での同党の得票率は43.9%だったとされているが、これは44%近くのドイツ人がある日突然、反移民や反ユダヤに走ったというよりも、それだけ多くのドイツ人がオーソドックスな発想から抜け出せない既存政党に絶望したとみるのが正しいだろう。

しかも政権を取ったヒトラーは、幸か不幸か、アウトバーンの建設など、バランスシート不況の克服に不可欠な財政出動を次々に打ち出し、5 年後の1938 年には、同国の失業率は2%にまで改善した。これは、同時期の英仏米といった民主主義国がオーソドックスな財政再建論から抜け出せず、高失業に悩まされていたのに比べると大成功と映った。このことがヒトラーを自信過剰にし、後の第二次世界大戦という人類の大悲劇につながったのである」

つまり、経済的見地からすると「ナチズムの台頭」は、「1920年代に起きたハイパーインフレ」や「生活の崩壊」が生んだのではなく、ナチスがオーソドックスな財政再建論から抜け出しドイツ経済を再建させたことによって生じたと言えるのです。

「供給不足」と「需要不足」という経済環境が正反対であることを無視し、「財政赤字」という共通点だけに着目して「ハイパーインフレ」や「ナチズム台頭」という社会的不安を煽るというのは、マスコミのあり方として如何なものでしょうか。

拙セミナーでも繰り返してお伝えしていますが、新聞は「客観的事実を報じる媒体」ではなく、「客観的事実を利用して、自分達の主張に都合の良いフィクションを作り上げる媒体」でしかありません。したがって、国民が新聞を読む際に気を付けなければならないことは、「事実」と「意見」を明確に区別して読むことです。

今回の記事で言えば、「1920年代にドイツでハイパーインフレに見舞われたこと」は「事実」ですが、「財政赤字がハイパーインフレを生んだ」ことや、「財政赤字がナチズムの台頭をもたらした」というのは、消費増税推進派である日本経済新聞が自らの主張を尤もらしく見せるために書き上げた「意見」、フィクションに過ぎないということです。

風見鶏~増税を望む人もいる」という記事は、「定見をもたず、周囲の状況を眺めて、都合のよい側にばかりつく人のこと」(goo辞書)という「風見鶏」の意味通り、政権に摺り寄ることを最優先する新聞の姿勢を強く表したものであるのと同時に、新聞を読む際の鉄則が「事実と意見を明確に分けて読む」ことであるということを改めて認識させられる記事でした。

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コメント

最後の一刀両断。素晴らしいですね。
おそらく軽減税率とのバーターで消費増税をプッシュせざるをえないのでしょう。

>国民が新聞を読む際に気を付けなければならないことは、「事実」と「意見」を明確に区別して読むことです

全く同意です。では(日本の大)新聞を読む意義はどこにあるとお考えですか。私には「これを読んでいる人が大勢いる」ということ以外に思いつかないのですが。

Re: タイトルなし

nobinobiさん、コメントをお寄せ頂きありがとうございます。
「軽減税率」というのも財務省の権力を増長する面が強いですから、そうなるのでしょうね。財務省を敵に回すと長期政権を築き難くなりますから。
新聞を読む意義は多くの「事実」を提供してくれることです。小生は新聞が提供してくれる「事実」に基づいて、第一次情報源にアクセスして確認しています。そうすると新聞が報じていない様々な「事実」を知ることが出来ます。もちろん同時に新聞に対する不信感、絶望感は増えますが。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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