衆院選公示~「失敗した姿が想像できるアベノミクス継続」か、「失敗した姿が想像できない野党の福袋」か

「経済成長では、首相は政権運営2年間の成果として『7~9月期は(前年同期比で)正規雇用者が10万人増えた』と強調した」(2日付日本経済新聞 「党首討論会 アベノミクスで火花」)

一面トップ記事の3行目から、安倍総理らしい発言が掲載されています。「雇用を100万人増やした」という実績を強調して来た安倍総理は、雇用増が「非正規の職員・従業員」によるものだという反論を封じ込めるためなのか、新たに「(前年同期比で)正規雇用者が10万人増えた」ことを成果として強調されました。

確かに総務省の「労働力調査」によると、「正規の職員・従業員」は2014年7-9月平均で3305万人と、前年同月の3295万人から10万人増加しています。しかし、民主党政権時代の2013年7-9月期は3327万人でしたから、「安倍政権になって正規雇用者は22万人減った」、さらに足下の2014年10月の「正規の職員・従業員」は3298万人と、「7-9月平均を7万人も下回っている」という事実は全く触れられていません。。

「7~9月期は(前年同期比で)正規雇用者が10万人増えた」というのはウソではありませんが、約3300万人いる「正規の職員・従業員」の0.3%程度の増加をもって「経済政策の成果」と吹聴するその神経は一般国民には理解出来ない感覚です。

安倍総理が信用できない大きな理由の一つは、こうした統計の都合の良いところのつまみ食いが多過ぎるところです。これに対して全く反論できない野党(討論中は仕方無い面もありますが)も、何のチェックもせずにそのまま発言を垂れ流すだけになっているマスコミも情けない限りです。

また安倍総理は、実質賃金が15カ月連続で低下していることについて、「単純な実質賃金という見方ではなくて、国民みんなの勤労者の所得『総雇用者所得』という概念があります。そこでみれば、消費税引き上げ分を抜けば、今年の6月からその実質賃金は上昇し始めています」と、ほとんど安倍総理しか知らず、誰も検証しようのない「総雇用者所得」という概念を持ち出して「(消費増税分を除けば)実質賃金は上昇し始めている」と強調する始末です。
【参考記事】 一般常識では理解不能の「与野党応酬」 ~「安部式実質賃金」と、調べようのない「総雇用者所得」

さらに、「来年アベノミクスが続けば経団連の会長はちゃんと賃金を引上げて行くという約束をして頂いておりますから、来年上がって行きます。そして再来年も上がって行きます。そしてさらに翌年もですね、賃上げを行えれば、しっかりと、実質賃金が消費税分をいれても追い越していくという状況を間違いなく私は作っていくことができると考えています」と発言し、「経団連の慈悲」にすがって実質賃金の上昇を図っていく考えを示しました。万が一選挙でアベノミクスの信認が得られなかった場合、経団連は安倍政権との賃上げの約束を反故にするつもりなのでしょうか。

実質賃金が16カ月連続して下落しているのは、物価上昇が賃上げ率を上回っているからです。そして、実質賃金を引下げている物価上昇は、円安による輸入物価の上昇によってもたらされています。こうした状況下で実質賃金を上げて行く道として、「経団連の慈悲にすがる」以外に、「異次元の金融緩和を止めて円安、輸入物価上昇を止める」というものもあるはずです。

両者の根本的な違いは、前者の道は「経団連の御心次第」であるのに対して、日銀の独立性が失われている今、後者は「政権の意思」によって解決出来るという点です。本当に財政再建と円安対策が必要だと考えているのであれば、財政支出を伴う円安対策ではなく、おおもとの「異次元緩和」を中止するのが最も論理的な選択肢になるはずです。なにしろ、「異次元の金融緩和」にも年換算で1200億円の財政負担が掛かっているわけですから。

この「異次元金融緩和」に財政コストが掛かっていることなどアベノミクスの問題点については、6日に市ヶ谷のビジネス教育出版社で行うセミナー「元ファンドマネージャーの眼~日本経済の現状と日米金融政策」でもお話しします。また、一部の候補者はFacebookでこの点について指摘しています。

個人的には、政策には優先順位がありますから、行き過ぎた円高に歯止めをかけることが政策的優先順位として高かった第二次安倍政権誕生当時としては、「大胆な金融緩和」は必要な政策だったと思います(「異次元の金融緩和」は全く無意味かつ無駄な政策)。しかし、為替が118円台まで円安になった今日、「2%の物価安定目標」を達するためだけに「異次元の金融緩和」によってさらなる円安を目指すというのは、実質賃金の上昇に比べて政策の優先順位として落ちて来ています。つまり、「アベノミクスは失敗」だったというよりも、「アベノミクスは経済状況に合わなくなって来た」ということです。だから「アベノミクス継続の是非」が争点になり得るのだと思います。

都合の良い事実を並べて実績を誇張する安倍総理に対して、野党は「柔軟な金融政策」、「人への投資」、「身を切る改革」といった抽象的なスローガンを並べて反論しています。しかし、野党がどのように主張しようとも今回の選挙は「アベノミクス選挙」≒「経済政策選挙」ですから、「アベノミクスは失敗」だと批判するのであれば、具体的な対案を提示するべきだと思います。

「大胆な金融緩和」と「柔軟な金融政策」とは具体的に何が違うのか。「大胆な金融緩和」が「2%の物価安定目標」の実現を目指した政策であるのに対して、「柔軟な金融政策」は何を目標に、何を基準においた政策なのか、もっと具体的に示さなければ言葉の遊びにしかなりません。

また、「身を切る改革」も結構ですが、「身を切る」だけで経済は回復するものではありません。「身を切る改革」によって浮いた財源を何に使うことによって経済を活性化できるのかをもっと具体的に示さないと、単なる選挙向けパフォーマンス、官僚バッシングで終わってしまいかねません。

特に自民党の一党支配の原因を作った民主党の党首には、可能であるならば元経済の専門家らしい提案を有権者に示して貰いたいものです。

「1日の日本記者クラブ主催の党首討論会で、各党党首は衆院選(2日公示―14日投開票)の勝敗ラインを表明した。安倍晋三首相(自民党総裁)は連立を組む公明党と合わせて『与党過半数』とする姿勢を崩さなかった。公示前勢力から88議席減までは『負け』とみなさない立場だ」(2日付日本経済新聞 「首相『与党過半数』崩さず」)

「88議席減までは『負け』とみなさない」というのは、自民党が負けることがないという前提の上で、自民党内で安倍総理の責任問題が上がることを封じ込めるために設定した勝敗ラインだと言えます。安倍総理にとっては負けるはずのない勝敗ラインですが、自民党に代わる有力な選択肢が存在しない中では、「アベノミクスの見直し」を願う有権者にとっては極めて高いハードルということになります。

「消費増税1年半先送り」に釣られて自民党に投票するということは、「1年半後に確実に消費税を10%に引き上げる」ことを容認することですし、当面消費税分を除いた実質賃金がマイナスで推移することを容認するということになります。

投票を棄権すれば自民党に投票したのと同じ結果になる可能性が極めて高いという状況ですから、「アベノミクス以外の道もある」と考えている有権者は、具体的政策を示さない勝ち目の薄い野党に投票する賭けにでる以外に道はないという厳しい状況に追い込まれています。

12日間という短い期間に「経済状況に合わなくなっているアベノミクス」の継続を認めるのか、具体的中身が全く分からない野党の示す「福袋」を信じて買うのか、有権者は厳しい選択をしなければなりません。

両者の違いは、「アベノミクスの継続」は国民が望む社会に到達しないことが明白である代わりに、どのような結末を迎えるか「失敗したときの姿が想像出来る」のに対して、何が入っているのかも分からない野党の差し出す「福袋」を選ぶということは、「失敗したときの姿が想像できない」というものです。

どちらに転んでも、有権者にとって「勝敗ライン」は極めて高く、「勝てる望みの乏しい選挙」だということ。さて、どちらを選ぶべきなのか…。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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