誰がための円安か ~「富める者」が景況感の悪化を感じる経済

「(日銀短観で)意外だったのは円安メリットを享受できる業種の景況感が思ったほど改善しなかったことである。代表例が『自動車』。現状の業況判断指数は6ポイントの悪化。3カ月先までの見通しも5ポイント悪化した。
 海外現地生産拡大などで円安になっても輸出数量が増えにくくなっているが、円安は金額ベースの輸出を増やす効果は持つはずだ。自動車メーカーの連結決算も、2015年3月期での過去最高益を見込むなど悪くない内容が目立つ。それも、今よりかなり円高の控えめな為替相場を前提としている例が一般的。経営者の景況感が良くならないのは不思議だ」(22日付日本経済新聞「円安でも慎重な自動車会社」)

日本経済新聞の眼には、円安の中で自動車メーカーの経営者の景況感が良くならないのは不思議に映っているようです。確かに「円安は金額ベースの輸出を増やす効果は持つはず」ですし、過去最高益が見込まれるなかでの景況感の悪化は、経済指標だけを見ている人達には不思議に映るかもしれません。

しかし、そのような見方は、実際に事業計画などに接したことのない人達の錯覚だとも言えます。

そもそも、海外現地生産が拡大した原因を全て円高だと決め付けているところに認識違いがあるような気がしてなりません。円高が海外現地生産拡大の背中を押したことは確かですが、根本的な要因は「需要」の有無、つまり「売上」が伸びる可能性が乏しくなったことにあるということを見落としてはなりません。

事業計画を立てる上で最も重要なことは「売上」が立つか否かという点です。そして、「売上」を確保するための絶対用件は、「需要」があることです。輸出企業の多くが海外現地生産を拡大したのは、「円高」よりも、国内の「需要」が見込めなくなったことの方が大きかったと考えるべきだと思います。

輸出企業にとって「円安」は企業収益にプラスです。しかし、為替レートは、金利や法人税率などと同様に企業自身で直接コントロール出来ない不確実要素でしかありません。

企業が「売上」を確保するために「需要」のある国で現地生産をする場合、円安メリットは享受できませんが、為替リスクという経営上の不確実性を低減することが出来ます。つまり、現地生産の拡大は、円安という不確実性を頼みに「需要」が乏しい国で生産し輸出するのと、円安メリットを放棄する代わりに「需要」が見込める国で為替リスクという不確実性が少ない事業をやるのとどちらがいいか、という経営判断のうえで決定されたことだということです。

日本経済新聞などは、円安メリットで過去最高益になるのだから景況感が良いのが当り前だと考えているようですが、経営上の不確実性の一つに過ぎない円安によって景況感がよくなると決め付けるのは余りに短絡的です。

例えば、トヨタ自動車の今年度上期の営業利益は、円安によって700億円営業利益が押し上げられました。これに加えて為替差益が640億円強経常利益を押し上げていますので、トヨタ自動車はこの半年の間に1300億円強の円安メリットを享受したとえいます。

しかし、国内販売台数が103万台と前年同期比で7万台落ち込んだことで、国内の営業利益は7,187億円と、前年同期の8,300億円から1,100億円以上減少しています。

つまり、国内営業利益の落ち込みを上回る円安メリットがあったお陰で営業最高益を記録することが出来たわけです。国内販売が落ち込みを見せる中で経営上の不確実性の一つに過ぎない円安が追い風になって数字上最高益を記録したことで経営者の景況感が変わるとしたら、それはそれで大きな問題です。景況感は、「需要」が増え、「売上」が増加した場合には確実に上向きますが、「売上」が落ち込む中で不確実性の恩恵を受けて「収益」が伸びても、改善するとは限らないということです。

米国が「経済の質」に気を配るなか、日本経済新聞のようにこれまで通り何でも表面的な数字で経済を判断し続けたら、日米の経済格差はこの先もっと大きくなってしまうかもしれません。

それよりも問題なのは、トリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる)を前提にアベノミクスが推し進められるなかで、アベノミクス唯一の成果である円安から大きな恩恵を受けたトヨタを始め5社が営業最高益を記録した「自動車」の景況感が悪化したということです。「富める者」の景況感が改善しない中で、本当に「貧しき者」達に富がしたたり落ちて来るのでしょうか。
【参考記事】 喧嘩のやり方を知らない野党のマニフェスト~アベノミクス「シャンパンタワー政策」に対案を示せ!

「富める者」の景況感が改善しないとしたら、全国津々浦々まで届くのは、景況感の悪化でしかありません。円安による輸入物価の上昇によって国民の生活が苦しくなる中、「富める者」の景況感まで悪化するのであれば、金融緩和による円安誘導に何の意味があるのでしょうか。

第3次安倍内閣がやるべきことは、日銀の追加緩和以降の急速な円安が進むなかでも、「富める者」の景況感が改善しなかったという事実を真摯に受け止め、円安・株高に依存した経済運営からの脱却を決断をすることだと思います。「この道しかない」と突き進めば、「大惨事安倍内閣」になってしまいかねません。

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