公的年金赤字30兆円の試算 ~ 運用の専門家による素人議論

「10月末に決めた新しい資産構成を過去10年間にあてはめると、リーマン・ショックがあった2008年度は30兆円の赤字(実績は9兆円の赤字)になるとの試算を示していたことがわかった」(23日付日本経済新聞「赤字30兆円の試算」)

過去の実際の市場の動きに合わせた場合、どのような損益が発生するのかを試算することは重要なことです。しかし、損益の大きさを試算することは、データとエクセルがあれば誰でも出来ることですから、試算すること自体には大きな意味はありません。

「この試算に関し、10月3日の運用委員会では株式投資を倍増する新たな資産構成に否定的な委員が『単年度で30兆円という大きな損失が出る可能性を国民が受け入れるかどうか』と述べていた。一方、肯定的な立場の委員は「リーマン・ショックを挟んだ10年間でみれば、運用利回りは(国内債中心の)古い資産構成よりも4~6割上がる。長い目でみれば十分にカバーできる」と述べていた」(同日本経済新聞)

2008年度の赤字(「赤字」という単語自体がおかしいのですが)が30兆円に達したことに対して、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用委員会では「国民が受け入れるかどうか」といった懸念や、「長い目でみれば十分カバーできる」といった意見が出され、評価が分かれたようです。

運用委員会で実際にどのような議論がなされたのかは細かく見ていませんが、報道されているような30兆円という「赤字」の規模が議論の焦点だったのだとしたら、それはGPIFの運用委員会は素人集団だといえると思います。

現状、年金において最も重要なのは「制度の持続性」の問題です。ですから、30兆円という「赤字(運用損失という意味?)の規模」を議論する際には、単年度で30兆円という「赤字」を出しても今の年金制度を維持出来るのかという視点で議論しなくてはなりません。

セミナーや講座で繰り返し指摘していることですが、安倍総理が「世界最大の投資家」だと世界に胸を張るGPIFの運用資産規模が130兆円と過去最高となるなか、「年金保険料の引上げ」「給付金の引下げ」「年金給付年齢の引上げ」という「破綻企業の延命措置」と同様の措置をとることで年金制度が辛うじて維持されているのが現実です。そうした現状のなかで、単年度といえども30兆円という、総資産の23%に相当する規模の「赤字」が生じた場合、年金制度を維持出来るのでしょうか。

正式には公表されていませんが、公的年金が将来国民に支払わなければならない「債務」について、一部の学者は750兆円だと推計しています。つまり、GPIFの実態は、安倍総理がいうような「世界最大の投資家」ではなく、「世界最大の債務者」というものです(「金融護身術道場」では、こうした年金問題も取り上げています)。

「破綻企業の延命措置」と同様の生命維持装置が取り付けられることで辛うじて制度を維持している日本の年金では、一時的であったとしても大規模な「赤字」を出すということは、制度を維持出来なくなるということを意味します。GPIFの運用委員たちには、日本の年金資産の運用は、「長い目でみれば十分にカバーできる」というような次元にないことをまず認識して頂きたいものです。

現在の年金制度の持続性を維持するためには、毎年毎年、目標から大きく乖離することなく安定的な収益を確保して行くことが必要不可欠であり、一度でも30兆円規模の「赤字」を発生させた際には今の年金制度を維持することなど不可能です。GPIFの運用委員会のメンバーが、こうした現実を無視して、個人投資家と同じように「相場」や「損益」の議論に終始するのであれば、今の年金制度が維持出来る可能性は低いと考えなくてはなりません。

勿論、この先も「円安・株高」が続けば、こうした懸念は杞憂に終わることになる可能性もありますが、こうした誰がやっても利益が出せるような投資環境が続くことを前提に年金運用を行うのであれば、GPIFに運用の専門家など不必要だということになります。

経済音痴の安倍総理や塩崎厚生労働大臣が、「GPIF改革」という尤もらしいスローガンを叫ぶたびに、年金制度の持続性が損なわれていく不安が高まっていくというのが現実です。

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コメント

年金基金は、短期ではなく、超長期の資産(負債)運用の話。

10年、30年、50年の長期で考えないと、まったく意味がない。

そんなに運用させたくないのなら、国債(円通貨そのもの)や、定期預金でよろしい。

しかし現実には、30年単位では、株はどのような国でも上昇している。

短期で見るという、屁理屈など、相手にする必要はない。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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