「生産手段から需要主体へ」~人口減克服に必要なのは「生産性」ではなく「人」に対する認識転換である

「労働力や資本を効率よく活用することにより、人口減を上回る勢いで生産性を伸ばせるかがカギを握る」(26日付日本経済新聞 「日本、『実力』底上げの時」)

26日付日本経済新聞の一面トップを飾ったのは、「人口減を生産性向上で克服できる」という、現実離れしたお伽話でした。

人口減少の問題は、「供給側」から見るのと、「需要側」から見るのとでは、全く姿は違ったものになります。「人口減を生産性向上で克服できる」という主張は、「需要側」を無視して「供給側」から見た偏ったものでしかありません。

国民一人あたりの消費支出が一定だとしたら、社会全体の消費支出が減少するのですから、人口減少は、全体の「需要減」に直結するものです。簡単に言えば、現在100個のモノを生産していた企業は、人口が2割減れば80個生産すればいいということになりますから、売上もそれに比例して減っていくことになります。

一方、人口の減少によって生産年齢人口も減りますから、企業が雇用者を人口減と同じだけ減らせば、生産性が一定であったとしても、80個という必要な生産量個を維持することはそれほど難しいものではありません。

しかし、必要な生産量を維持しても付加価値(≒粗利益)の規模自体は減少しますから、社会全体の経済規模(GDP)も減少することになります。

個々の企業ベースで付加価値の減少を避けるようとすると、生産性を上げて、人口減に応じて減った雇用者数でこれまでの100個近い生産規模を保つ必要があります。

一方、人口減によって国内需要も100から80に落ちていますから、企業が生産性を上げて生産量を100個に維持するということは、20個の供給過剰を生むことになります。供給過剰は価格下落の要因となりますから、このままでは価格下落による売上減によって企業の付加価値(≒粗利益)も圧縮されることになります。

供給過剰によって価格が下落した場合、企業が価格下落による付加価値減少を防ぐための選択肢は、同じ雇用者数でもっと販売数量を増やすか、さらに生産性を高めて、より少ない人数で生産量を確保するのかどちらかになります。

同じ雇用者数で販売量を増やそうとすると、さらなる供給過剰を招くことになり、価格下落の加速を招くようになります。一方、多くの企業が生産性を高めてより少ない人数で生産量を確保しようとすると、社会全体の雇用者数が減少し、需要減少に伴う売上減を通して、結果として必要生産量の縮小か価格下落を招くことになります。

要するに、「生産性の向上」は、人口減による経済規模の縮小を防ぐ解決策にはならないということです。それは、経済成長の鈍化の根本的原因が「生産性」にあるのではなく、「人口減による需要減」にあるからです。

「金融護身術講座」で最初にお話しすることですが、新聞の主張を鵜呑みするのはとても危険ですし、その主張が正しいか否かに関らず、「人口減を生産性で克服できる」というような結論を覚えることは思考停止を招く危険性が高い行為であることを十分に認識して頂きたいと思います。

結局のところ、自国の人口減少とそれに伴う国内需要減を止めることが出来ないのであれば、海外の需要を取り込む(輸出と海外からの観光客増加や移民)以外に選択肢はないということです。

海外の需要を取り込むためには、円安というのは日本にとっての追い風であることは確かです。しかし、「人口減による需要減」が続く中で、円安による輸出増でそれを上回る外需を取込むのにも限界があります。日本の人口が減り続ける間ずっと円安を維持しなくてはならないわけですから、あまり現実的な話しではありません。

また、円安は外貨換算した日本の労働賃金を低下させますから、労働コストの面での国際競争力も改善させるものでもあります。しかし、アジアなど新興国との労働コストの格差は5倍、10倍といったレベルであり、とても120円程度の円安や、10%や20%の生産性向上で埋め合わせられるものではありません。つまり、円安によって一時的に外需を取込むことが出来ても、その状態が継続するという考えは非現実的だということになります。

「起爆剤はイノベーション(革新)だ。代表格が今年ノーベル賞を受賞した青色発光ダイオード(LED)。消費電力が少なく長持ちするLED照明の世界市場は20年に13年比3.8倍の6.8兆円になる予測もある」(同日本経済新聞)

日本経済新聞が成長戦略として、生産性向上の次に掲げているのがイノベーションです。確かにLEDの市場規模は今後大きく拡大して行くことは間違いないと思います。しかし、LEDの登場によって、これまでの電球や蛍光灯照明に加えてLED照明を付けるということはありません。

つまり、LED市場の拡大の裏側では従来の電球や蛍光灯の市場規模が急速に縮んで行っているということです。LED照明は従来の照明に比べて寿命が10倍近く長い分単価が高いので、電球や蛍光灯照明がLED照明に切り替えられていく過程では経済規模も拡大することになります。

しかし、切り替えが完了した後は、経済成長の牽引役にはなれない運命にあります。CDがレコードに切り替わった現在、CDが経済の牽引役になっていないのと同じことです。

本当の意味でイノベーションが経済の牽引役になるのは、現在使用されているモノがそのまま使用されたうえで、新たなモノが付け加わる場合です。例えばウォークマンは既存のモノを凌駕した商品ではなく、全く違う分野を切り開いた商品であり、イノベーションの代表選手といえます。

極端に言えば、経済成長をもたらすイノベーションというのは、既存の製品からシェアを食うものでなく、全く新しい領域を作り出すものに限られるということです。

「現在は国内の投資不足や人手不足という供給制約で、円安下の輸出停滞や公共事業の遅れが生じている」(同日本経済新聞)

日本経済新聞は、現在の景気の低迷は「供給制約」によるものだと考えているようです。しかし、「国内の投資不足」が起きているのは、「国内の需要不足」の裏返しでしかありません。

技術の進歩によって「モノの生産性」の向上を図ることは可能になっており、「供給側」の問題は本質的なものではなくなって来ています。本質的な問題は「人口減少による需要減少」という「需要側」にあり、そのためには「人口の生産性」を向上させていく施策が必要不可欠です。

「人口減、生産性で克服」(同日本経済新聞)などという無意味な言葉で人口減の影響を過小評価するのではなく、今の日本にとって少子化問題の解決が最重要課題だという共通認識を早急に作り上げ、間断なく具体的な施策を打ち出して行く必要があるように思えてなりません。

人口を、潜在成長力を決める一つの要素である「労働力」として捉えるという発想は、「人」を生産手段の一つとしてしか見ていない証左でもあります。「供給手段から需要主体へ」。日本社会が人口減を克服するためには、「人」を生産手段の一つから、最も重要な需要主体であるという認識の転換が必要不可欠だと言えそうです。

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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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