予想外の米国雇用統計が投げかけたアベノミクスへの疑問

「9日に発表された2014年12月の雇用統計によりますと、米国の雇用の増加数は予想を上回るとともに、失業率は2008年6月以来の低い水準となる5.6%まで低下しました。また、去年1年間の雇用者の増加数も15年ぶりの多さとなりました。ただ、今回の統計では上昇すると予想されていた賃金が減ったというマイナスの材料もありました」(テレビ東京 WBSマーケット「米雇用統計 予想上回る」)

2015年の金融市場の難しさを暗示するかのような雇用統計が発表となりました。

その中身は、雇用者数が市場予想を上回ったうえに10、11月の雇用者数も上昇修正され、10~12月の雇用者の伸びが約29万人近くに達するとともに、失業率は前月比0.2%低下の5.6%と、リーマン危機前以来、6年半ぶりの水準まで改善するという好調なものでした。

「米連邦準備理事会(FRB)は昨年10月いっぱいで量的緩和を停止したのを踏まえ、今年4月以降に次の段階として利上げの是非の本格的な検討に入るとしている。米雇用が現状の安定した回復テンポを保てば利上げ時期を巡る議論が活発になりそうだ」(10日付日本経済新聞 「米雇用25.2万人増」)

予想を上回る雇用統計を受け、日本経済新聞はこのように報じています。しかし、市場が反応したのは雇用者増が予想を上回ったことではなく、「時間当たり賃金は、市場予想の0.2%増に反し、0.2%減少。前月分も0.4%増から0.2%増に下方修正された」(ロイター)ことでした。その結果「雇用統計で、賃金が予想外に減少したことを受け、最近の雇用の伸び加速が物価上昇を押し上げるとの期待が後退」(同ロイター)する結果となりました。

雇用統計における予想外の賃金減少を受け、NYダウは170ドル下落し、米国10年国債利回りは7bp低下の1.95%と再び2%を割り込みました。

米国のイールドカーブの推移を見てみると、昨年10月末にテーパリングを終了して以降、クリスマスにかけて利上げを織り込む形で2~3年債を中心に国債利回りは上昇しましたが、その後はイールドカーブ全体がフラットニング化する形で利回りが低下し、3年債以上ではテーパリング終了時10月末の水準を下回って来ています。

米国のイールドカーブのこうした推移から想像されることは、「利上げ時期を巡る議論」は一旦下火になり、「利上げ先送り議論」が台頭して来ていることです。昨年夏場には2%台であった市場の期待インフレ率も、昨年9月末に2%を割り込むなど低下傾向にあり、直近は1.6%前後まで低下して来ています。

米国イールドカーブ変化


年間の雇用者数の伸びが295万人と1999年以降で最大となり、失業率が「完全雇用を前提とした5%台前半」(同日本経済新聞)に近付く中で、予想外に起きた賃金低下という現象は、アベノミクスの評価に影響を及ぼすのではないかと思っています。

アベノミクスが繰り返している念仏は「経済の好循環」です。しかも、日本は「雇用」を測る指標として、実際の「雇用者数」ではなく「有効求人倍率」を使っています。雇用者数が予想以上に堅調に増加し、完全雇用状態に近付いている米国で賃金が予想外に下がったということは、完全雇用に近くない国での賃金上昇など期待すべくもないということです。

円安をエネルギーとしたトリクルダウン政策をとっているアベノミクスですが、完全雇用に近付いた米国でさえ「雇用の弛み(スラック)」が残っていることが明らかになったなかで、多くの投資家が大きな「スラック」がある日本で賃金がトリクルダウン効果で上昇して行くという安倍政権の念仏の実現性に疑問を頂くとしても不思議ではありません。

もし、今のように大きな「スラック」がある日本で、安倍総理の働きかけによって賃金上昇が起きるとしたら、それは企業に対して政治的な圧力、古い日本のお家芸であった「行政指導」が復活を意味するものだと思われても仕方ありません。アベノミクス第三の矢が実は「行政指導の復活」であったとしたら、海外投資家はそれを歓迎してくれるのでしょうか。

9日に発表された米国の予想外の雇用統計は、アベノミクスの評価を引下げる内容だった可能性があることは、頭の片隅に置いておいた方が賢明かもしれません。


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近藤駿介

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